無間城の戦い 8
俺はふとエアロードと共に発見した手紙を手にして取り出し、それを敢えて開けないようにと少し見つめてみるが、正直相当古く少し油断していると手紙がボロボロに崩れてしまいそうだ。
するとケビンが俺が持っている手紙に気がついたのか「それ何です?」と聞いてくるので俺は「初代ウルベクトからジェイドへの手紙だ」とだけ答えた。
俺はこれを本人に手渡さないといけないという使命がある。
初代ウルベクトが一体何を思い、何を比べて今まで生きてきたのか、ジェイドの事をどう思って生きてきたのか、俺はそれをある意味知った。
だからこそ想ったことを、思い浮かべたことをふと口にしてしまったのだろう。
「不死者達との戦いってどんな感じだったんだろうな?」
別段何か意味があるわけじゃないが、どうしても気になる二千年以上前に起きたと言われている戦争、人間と竜と不死者達による世界の覇権を巡る争い。
その果てにガイノス帝国が出来上がり、竜は崇める対象になり人はそれを崇めながら生きていくという皇光歴の世界が誕生した。
しかし、人と竜の関係が果たして変わったのかと言われたら、きっと二千年以上前から何も変わっていないのかも知れない。
それでも俺が思い描く当時の理想に俺達がどれぐらい辿り着いたのか、そもそも当時人達は何を思い戦い、竜達は何を思い描いて使命を果たし、不死者達は何を願って生き抜こうとしたのか、俺達は何も知らないのだ。
何もしらないままここまで来てしまっている。
無論、不死者が罪である事も、永遠に生きる事が周囲に無制限の不幸を与える行為だという事もキチンと理解して居るつもりだ。
「そう言われても此所に居る私達には理解しようも…」
「僕は知っているよ。聖竜さんから受け継いでいるからね! エヘヘ」
そうだったのかと本当に意外そうな顔をする俺、アカシはそんな中でも凄い胸を張って居るが、アカシの説明力で果たしてそれを俺達に伝えられるかは少し疑問だ。
と言うか本気で心配なのだが、果たしてどうなるかと黙って見守ろうと言うことになった。
「えっとね…昔生と死が存在しない世界に可能性が降り立ったの。そんな世界に命が生まれて、命は知性という名の可能性と異能という奇跡を授けた。でも、人はそんな知性と奇跡を前にして堕落してしまった。人の中に「永遠に生きたい」や「もっともっとやりたいことがある」という欲が生まれちゃったの。その欲は人に良くも悪くも制限を無くしてしまったんだって。そんな中始っちゃったのは竜狩りだったの。当時竜を信仰するという考え方を持っていた人達からすれば考えられない事でもあったらしいよ。でもね。人は身につけた異能という名の奇跡で竜を殺してはその竜結晶で不老不死を得てしまった。するとそれに反発する竜を信仰する人達と竜、永遠に生きたいという邪な願いを持ってしまった人間とそれを叶えてしまった一部の竜達の間で戦争が起き始めたの。それが二千年以上前に起きた戦争」
「そこまでで開戦に切っ掛けですね。その時の代表者が木竜でしたか? 確かクライシス事件の主犯でありソラ達が倒したという」
「ああ。木竜は不死者サイドで戦っていたはずだ。それで聖竜たちに敗れて種の状態に成ってしまったと聞いた」
「うん。らいしね。でもね…不死者が全員死んだわけじゃ無かった。例え死んでも不死者達の魂は消えること無く漂い続け、その魂はいずれ生きている人達に被害をもたらすと予見されていた。それに対処したのが…」
「不死皇帝ジェイドか…当時唯一の不死者になってしまったジェイドがそれに対処した」
「うん。その結果ジェイドはその身に不死者の魂を受け入れる棺と同じ役割になった。それを彼は二千年以上に渡って押さえ込んで生きてきたの。それは正しく強靱な精神力だと思うよ。だって…絶対に負けなかったんだもん。今なお勝ち続けている。でも、それじゃ解決には成らない。そこで必要なのは異能殺し」
「俺か…ジェイドに勝つ場合は俺にはその先がある。不死者の魂を完全に浄化しなくてはいけない。浄化…要するに消滅させる」
「そして、新たな世界において僕達の役割は「もう不死者を作り出さないように心掛けること」だから。そして、これからも現れ続けるであろう不死者達を倒し続けていく事」
「そこまでで多分始祖の竜の願いでもあるんだろうな。その上で自分の子孫達が人と共に生きてくれる社会を作る。それこそ自分の死すらも利用したんだ…」
凄いと言いようが無いのだが、ジェイドも始祖の竜もある意味不屈の精神力でそれを成し遂げようとしている。
ジェイドも例えこのまま勝ったとしても、それから先永遠の時で不死者達の魂を押さえ込むのだろう。
多分出来ると思っている。
あのジェイドが本気を出せば本当の意味で勝てない人間なんてそうはいないのだろう。
「それは分かるんだ。ジェイドが本気を出せば不死者達の魂を押さえ込む事なんて簡単にできるって。初代ウルベクトはそれができるって思って居るんだろうし、きっと始祖の竜もそう思っているんだろうな」
「はい。私もそう思います。きっとあのジェイドという人はそれを成し遂げるのでしょう。それに始祖の竜様もきっとそれが出来ると、そして私達が勝った場合人と竜の関係が変わるとも思って居るのだと思います」
「だからこそ試しなんでしょうね。私達が勝つか、ジェイドが勝つかの試し。それこそ二千年以上前に起きた戦争で出せなかった結論を出そうとしている」
「はい。ソラ君が勝てば世界の存続と変化を、ジェイドさんが勝てば世界の崩壊と停滞を選ばせるつもり。だからこそ何度も言われてきたように「人に可能性は必要なのか」という長年出なかった答えを出す」
二千年以上前すら出せなかったその答え、人に可能性を与えたままで居るべきなのかという疑問か…。
「ソラはどう思っているの? 初代ウルベクトの想いを知って…今何を思っているの?」
「アカシはどうなんだ? アカシにはこの先の未来に何か期待でもあるのか?」
「あるよ! 帰って皆で色んな所に行くの! 色々な事を感じて、色々な人達を見て、色々な経験をしてみたい! だってそれが生きるという事でしょう?」
俺達はアカシの台詞に全員揃って絶句してしまい、同時に納得もしてしまった。
どの通りだ。
生きるとは経験すると言うこと、そして経験とは常に変化することなんだ。
なら人も竜も常に変わっていく生き物なんだ。
人も竜も生きて過ごしていく中で変化することを恐れるようになった。
それは裕福になればなるほどそれを恐れ、貧困であればあるほど恐れないのだろう。
だが、アカシのように純粋故に変化を恐れずそれを楽しもうとしているのかも知れない。
「でも、僕に変化を恐れない気持ちを教えてくれたのはソラなんだよ?」
「俺?」
「うん。だってソラは僕の前に現れたたった一人運命にだって抗おうとしていた人なんだよ。色々な人を助けようと必死で、目の前に描くな何かがあっても絶対に諦めない人。やりたいことに一生懸命で、夢に向って突き進んで、憧れの人の背中を一生懸命に追いかける人。そして…人を愛して、憎んで、怒って、楽しんでいる人。僕はそんなソラが一生懸命に生きていたから「僕もああなりたいな」って思えたんだもん。一生懸命に生きている人は飼われる人だもん!」
「アカシは良い事を言いますね。そうですよね。何も得ない平坦な道なんて面白くないから、私達は何時だって大変でもやりがいのある道を選びたい」
アカシはもしかしたらそれを俺達に教えてくれるためにここに居るのかも知れなかった。