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無間城の戦い 7

 俺はベルに最後に挨拶だけしてから空間から出て行くのだが、何故かテントの中にはレクターがウキウキしながら俺の方を見ており、その後ろでは女性陣とアカシがレクターの後ろで俺達の様子を見守っている。

 またこいつはサボっているのかと思って「何をしているんだ?」と聞くと、レクターはそんな事よりベルの居る空間の方が気になって全く話を聞いてくれない。

 俺は念の為にとレクターに「行かせないぞ」と言って空間の鍵を閉めてしまう。

 レクターが本気で残念がっているのだが、そこで俺はようやくもう一度レクターに対して「何をしているんだ?」と訪ねた。


「上に戻りながら隠し通路が無いかどうか調べて濃いって言われたから」

「言われたんなら調べろよ…調べずに戻ってきたろ?」

「だって…俺ソラと違って索敵能力皆無だし…」

「調べるだけだったら叩く際の音の違いとかで分かるだろうに。その辺軍事関係の授業で習ったよな? 確か先生から話を聞いている時お前が隣で授業を受けていたと聞いていたが?」

「忘れた! そんな事を覚えているほど賢いと思われても困る! 俺はその場限りで過ごしている男だ! 強いて言うなら蝉だ!」

「蝉をその日暮らしとか言う不名誉な名前で呼ぶな。蝉の方がお前よりよっぽど考えて生きているわ」

「確かに!」

「ねえ…今馬鹿にされているってレクターは気がついていないのかな? 僕でも分かるのに」

「アカシ。そういうことは言わない約束ですよ。良いですか? レクターは馬鹿だからそう思うだけです。ああなってはいけませんよ? あれは反面教師なのです」

「俺は教師だって!」

「勝手に話を切り取って前向きに捕らえるな。今お前は間違いなく馬鹿にされているんだからな?」

「知っている! フフ。分かっていないと思ったろう? そこまで馬鹿じゃ無い。多分」

「何故そこで疑いを持つのです? 馬鹿ではないと思うのなら胸を張れば良いでしょうに…無駄に」


 ケビンからの暴言も何処吹く風という感じの顔で聞き流し、無駄に胸を張るものだからマジで苛つく。

 すると案の定ケビンの地雷を容赦無く踏み抜くレクター。


「ケビンと同じで張る胸無いけどね。俺は男だし」

「ケビンさん落ち着いてください。一旦座って。その右手に握りしめた銃を放して下さい」

「お、落ち着きましょう? 怒ったらそれこそレクター君の思うつぼですよ?」


 とりあえずレクターの顔面にでも拳を叩き込もうかと少し悩んでいると、テントの中に音も無く入って来る人が現れた。

 その人は全く音も気配もさせずにレクターの背後へと向って、この状況でもケビンを挑発するのだが、その人物を見てケビンはそっと大人しくなる。

 俺も敢えてこれ以上は言わないと判断し、事の成り行きを黙って見守ることにした。

 レクターはようやくそこで場の空気に気がついたようで、何故なのだろうと思ったのだろう。

 そっと後ろを振り返ると父さんの体が見えた。


「…テヘペロ!」


 しばかれた。

 結構なレベルでしばかれて顔面が腫れがあった痛々しい姿を見ても誰も何も言わなかったが、そのまままるで脱獄に失敗した死刑囚みたいな雰囲気でテントから出て行くレクター。

 俺達はそんな父さん達を見送ってから再びテントの中でゆっくりすることにした。


「全くレクターは…こういう時に女性を馬鹿にするからこそモテないのでしょうに」

「女性を大事にするとモテるの?」

「アカシには不要な文化だな。どのみち竜には単一で種族を増やすことが出来るわけだし…」


 竜には本来親は居ても父母という考え方は存在しない。

 なので基本ある程度成長したら子供を身ごもり、その子を育てるだけなのだ。


「ですが聞いた話では竜は異なる環境で生活するとストレスからか早めに子供を身ごもるようですよ。その子供は元の親とは異なる種類なのだとか。そうやって竜は昔その種族を繁栄させたと聞きます」

「ではエアロード達も子供を早めに身ごもるのではありませんか?」

「いや…ブライト曰くエアロードとシャドウバイヤはどうやらお腹の中に子供がもう居るらしい。本人達は気がついていないようだが。まあ、出産するのは今年の末ぐらいだから現状はあまり影響は無いらしい」

「そんな状態で戦って大丈夫?」

「竜は元来体が頑丈で赤ちゃんも本人が致命傷を受けない限りは無事なようだな。最も出産する二ヶ月前ぐらいまで経過しないと全く気がつかないらしい」

「そういうモノですか? やはり人間とは違うのですね…」

「そうみたいだな。多分二人が産むのも人間との交流の中で生まれてくる新種だろう。ブライト曰く数年は竜達は出産ラッシュになると予想しているらしい。最近は竜達も人の中で紛れて過ごすようになったと聞いたしな。俺達が知るだけでも結構数が居るだろう?」


 雷竜、聖竜、光竜等言い出したら全くきりが無いのでこの辺にしておくが、人と共に過ごす竜達が増えてきているのは事実。

 ここに居るメンバーは全員竜と共に生きている人間ばかりだ。


「元々始祖の竜は人と竜がともに生きる世界が欲しかったってブライトから聞いたよ。でも、始祖の竜の願いとは裏腹に人間達は竜を崇めるようになって…そうしたら竜の中にそれで人間に偏見を持ったり見下したりする傾向があったらしいの」

「今でも竜は崇める対象だって言う人も多いしな。帝国内でも竜と一緒に歩いていると好奇の目で見られるときあるし…エアロード達は全く気にしないけどさ」

「元々半分諦めているんじゃ無いかな? ヴァルーチェに聞いた事あるけど、そういう目は気にしないことにしているって。どうやってもそういう風に思われるから」

「シャインフレアも言っていましたね。最も西暦世界ではそんな事は無いから過ごしやすいと」


 竜という存在は皇光歴世界では神のように崇める対象で在り、同時に最も身近な特殊な存在でもある。

 実際帝国でも長年聖竜を崇めているわけだし、国によっては崇める竜も都市によってすら変わってくる場所もあるのだ。

 そういう事情から今竜達の多くは西暦世界で過ごそうと考えている者が多いのだろう。

 最もエアロードとシャドウバイヤのようにこっちを選んだ者や、ブライトのように最終的には元々の役割に戻ると決めている者など様々だ。

 それもまた竜達選ぶ道なのだろう。


「世界が変わるように竜達も変わっていくのかもな。俺達みたいな形が当たり前になっていって…そうやって少しずつ世界を見る目が変われば良いなって思うよ」

「そんな世界のためにも私達が勝つ事の意味が重たくなりますね」

「変わりはしないさ。どのみち俺達が一人でも負けたら世界が終わるんだ…重みは変わっていないよ。それに変えるのは俺達じゃ無くて人達の認識なんだろうし。それは俺達が変えられるものじゃないさ」

「そうですね。私達は切っ掛けを作るだけで、その先を変えていくのは一人一人なのかも知れません」

「僕も?」

「うん。アカシも。ソラ君もケビンさんもアンヌさんも。そうやって皆が変わろうって意識を持っていけば世界なんてあっさり変わるんだよ。今はそれが難しだけ。でもこの戦いで世界は良くも悪くもかき乱された。今まで当たり前だって思って居た日常が当たり前じゃ無くなり、空想だと思っていたモノが当たり前になったんだから」

「そうですね。世界の、国の在り方もまた変わってくるでしょう。私達がするのはあくまでもその切っ掛け。そこから先は政治家や指導者達にでも任せましょう。黙って見守り、もしそれを脅かす者や政治家達が脱線しそうになったらまた…」

「俺達の出番さ。竜達の旅団のな」


 その為の竜達の旅団なのだから。


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