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私は全身に鳥肌が立って、その場から逃げなければと思った。
周りを見回すと、さっきまであれだけ賑やかだった商店街には、人っ子一人いない!
そして普段は街灯が灯って夜でも明るいはずなのに、だんだん真っ暗になっていく!
私は全速力で走った。
逃げなきゃ!
捕まったら終わりだ!
走りながら恐る恐る後ろを振り返った。ものすごい形相でカスミが追いかけてきていた。
私は力を振り絞って全速力で走った。心臓がバクバク言う。喉が締め付けられるようで呼吸が出来ない!
ああ、もう無理だー!
「今井さん!」
突然沢井君の声がした。前方からこっちへ向かってくる。
「沢井君!」
私は無我夢中で沢井君に抱きついた。
「何か嫌な予感がして戻ってきたんだ。大丈夫?」
「う…後ろから…カスミが追っかけてきてる! 逃げなきゃ!」
私は沢井君の手を取って全速力で走った。
「カスミって…」
沢井君は走りながら後ろを振り向いた。
「ギャァァァァーーーーー! 何アレーーーーー!」
「沢井君? 見えるの?」
「見える! 俺にも見える! ん…なんかこのセリフ、少年漫画のヒーローっぽくない…? って冗談言ってる場合か! そんなことは今どうでもいい! ヤバい! アレ絶対ヤバいヤツだ!」
二人で無我夢中で走った。だが、二人とも筋金入りの文系なので、力が尽きてきた。
「今井さん! ダメだ。追いつかれる。俺さ、今からあのカスミにタックルして止めるから、今井さん逃げて!」
「そんな! 沢井君が危ないでしょ!」
「大丈夫! 一応俺、これでも男だから!」
「でもっ! 今井君タックルなんてできたっけ?」
「大丈夫! こないだラグビーワールドカップを見て、にわかファンになったばかりだから!」
「気持ちはありがたいけど、それはラグビーに対して失礼ではっ?」
「そ、そうだねっ! ごめんなさい! でも俺、なんとかしてアイツを止めるから! 多分、捕まって危険なのは、俺より今井さんの方だと思うんだ。絶対に振り向かずに逃げてよ!」
「そんな!」
「俺の勇気を無駄にしないで!」
そう言うと沢井君は雄叫びをあげながらカスミに向かっていった。
沢井君が心配でたまらなかったが、沢井君の気持ちを無駄にするわけにはいかなかったので、私は最後の力を振り絞って走った。