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「大丈夫、安心して。俺、口は堅いから。俺んちも、両親離婚してね、母親のメンタルが心配だったのと、姉が…ま、ちょっと大変なもんで、いまだに家から出られてないというか…。ま、俺がモテないのが一番の理由なんだけどね、ハハ…。」
「沢井君、モテないの? そんなことないんじゃない? さっきだって、すごくスマートな立ち振る舞いで、私びっくりしたよ!」
「そ、そう? そう思ってもらえたなら嬉しいな。久しぶりに同級生に会ったから、少し張り切っちゃったのも正直あったんだけどね…、ハハ…。」
沢井君は恥ずかしそうに横を向いて頭を掻いた。
「…そういえば、沢井君のお姉さん…体調悪いの? さっき…」
「あー、あれね…。ちょっとあまり言いにくいんだけど…うちの姉ね、恐怖漫画を描いてるんだ…。」
「お姉さん、漫画家さんなの?」
「…ああ…。有名ではないんだけどね。ほんとは王道の少女漫画家になりたかったらしいけど、そっちの方は全然ダメで、ずっとアシスタントとかやっててね、恐怖漫画描いてみないかって言われて…、そしたらそっちの方がうまくいったらしくて…。」
「そうなんだ! いいじゃない! 私好きだよ。よく雑誌かったりもするし。」
「そう?」
沢井君は少しホっとしたような顔をした。姉が恐怖漫画化だと知られると、たまにドン引きされることがあるらしくて、普段は隠しているらしい。
「それで姉がね、そういう漫画描いてくると、けっこうその手のものが寄ってくるらしいのよ。それで払ってって言われて、さっきみたいに手で叩いてやるんだ。」
「…沢井君…霊が見えるの?」
「見えない、見えない! 俺、霊感ゼロだから! だから本当に霊が寄ってきてるかどうかは分からないんだけど、姉に時々そう言われるのよ。そういう時って、いつもそんな症状が出るらしくて。」
「…私…、何か憑いてたのかな…?」
「いや、俺、いつものクセでついやっちゃっただけで、別に今井さんに霊が憑いているのが見えたわけじゃないし。」
「…そうなのね…。」
私は苦笑いをした。沢井君も気まずそうに苦笑いした。
「そうよ…もし私に怨霊が憑いてたとしたら、横にいるカスミが教えてくれるはずだもん。あの人いつも私の事守ってくれるから。あれ? そういえばカスミ、どこに行っちゃったんだろう? あれ?」
「カスミ…?」
「うん、ずっと一緒にいたでしょ?」
「え? 今井さんずっと一人だったよ。」
「そんなはずない! 会社からずっと一緒だったのよ。電車でも横にいたし…。」
「電車で? 今井さんの両横、おじさんだったよ。俺、目の前で見たし。」
「え?」
「その…カスミさんって人にいつも守ってもらってるって…、今井さん、そんなに過酷な状況なの?」
「過酷って言うか…そんなに酷い状況とかいうわけじゃないけど…私どんくさいし、仕事も出来ないし…、上司に怒られてばっかりでね、そんな時カスミがいつもかばってくれるんだ。派手な女友達に行きたくもない合コンに誘われたときも、カスミが…」
「優しい友達なんだね、カスミさんって。俺も派手な友達から誘われると、ちょっと疲れる事あるもんな。ま、断れない性分なんで、付き合っちゃうんだけどね。」
「あれ…? 普通…友達って…私に関係する人たちに簡単に死ねって…言うかな…?」
「死ね? 冗談なら無くはないかも…。あー、俺も冗談でも気をつけなきゃな。もし自分が言われたら立ち直れないもんな。」
「カスミはね、私に関わる人みんなに死ねって言うの!」
「冗談でじゃなくて?」
「あれは冗談なんかじゃないと思う…」
「その…カスミさんって…少し変わってるね。会社の同僚?」
「…会社の…? え…ちょっと待って…、私…いつカスミと友達になったんだろ…」