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「今井さん! 起きて! 着いたよ!」
「…もう?」
眠っていたらあっという間に駅についてしまった。早く電車から出ないといけないのに体が重くて立ち上がれない。
沢井君が腕を支えてくれてやっと起き上がれた。
「大丈夫? こんなにフラフラで、熱とかあるんじゃない?」
「そうなのかな?」
「ごめんね! ちょっと失礼!」
沢井君が私の額に手を当てた。
「熱は無いみたいだね。」
男の人に触られたのはもうかなり昔の事だったので、ドキっとしてしまった。
「チカコ、早く帰るわよ! コイツ、あんたのこと変な目で見てる! ド変態よ! 死ねばいいのに!」
チカコが耳元で騒ぎ立てる。
しょうがないな、少し沢井君と話していたい気分だったけど、早く帰ろう。
その時、突然肩に衝撃が走った。沢井君が私の肩や背中や頭をポンポンと叩きだした。すると、急に眠気が吹っ飛んだ。さっきまでの体の重さが嘘のようだ。
あまりの驚きに目を丸くしていると、沢井君が私の顔を見て申し訳なさそうに謝った。
「ごめん、いきなり変な事して…。」
「…ううん。」
「うちの姉がさ、よく体が重くなったりするんだけど、そういう時、俺によく背中叩いてって言うんだ。叩いてやるとスッキリするらしいから…」
「…そうだったの…。不思議なんだけどね、私も今まさにそうなの。今までのどうしようもないダルさが…何でだろ? 全く無い!」
「そっか、良かった。」
「ありがとう。」
「元気になったついでにお茶でもしていかない?」
「…う~ん、そだね。」
私たちは駅の中にあるカフェに入った。沢井君が私の飲み物を聞くと、自分が買ってくるからと私を先に席に座らせてくれた。
いつの間にこんな紳士になったのだろう…?
あの地味だった沢井君が…。
窓の外には家路へと向かう人々が足早に歩き去っていく。来ているジャケットの襟を立てている人もいる。
もうすぐ冬だなぁ…。
「どうぞ。」
「あ、これ、私の分の…」
財布からお金を出して渡そうとすると、沢井君は自分のおごりだと言って受け取らなかった。お礼を言ってドリンクを飲んだ。体中が温かくなった。
「…。」
「…。」
お互い話すことが無い。もう何年も会ってないのだ。当たり前か…。
気まずい思いをしていると、沢井君が気を使って話しかけてくれた。
「中学の時の友達、今も会ったりする?」
「う~ん、少し前までは会ってたけど、最近は無いな~。結婚したり子供出来たりした子が多いからみんな忙しいし、なかなか予定が合わなくて…」
「そっか~、もう俺らもそんな年になったのか~。なんか自分がめっきり老けたような気がしてくるよ。」
「…同感…。」
地味な二人は同じように首をうなだれてお茶をすすった。世の中これだけ人がいても、巡り合えない人間はずっと孤独なままなのだ…。
「今井さんのご家族は、みんな元気?」
「うん。でも…兄は離婚したんだ。うちの兄…ほんとにどうしようもない奴で、私と正反対で見てくれはいいんだけど…ここだけの話だけど…アイツ義姉にDVしてたらしくて、おまけに浮気までしてたの。今に始まったことじゃないんだけどね。あれは相当、女たちから恨みをかってるよ…。あれ、私、何でこんなことまで話してるんだろ…。こんなことカスミにしか話してないのに…。」