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兄弟、マルセンの過去を知る

 レオはマルセンと話をするために、いつもよりだいぶ早い時間にユウトを迎えに魔法学校を訪れていた。


「昨日は世話になったな。改めて礼を言う」


 実習室に押しかけたレオは、ユウトを隣に座らせてマルセンと向かい合うと、改めて感謝の言葉を述べた。


「ああ、気にすんな。俺は出来ることやっただけだし。……んで、今日は話聞かせてくれんだろ?」

「……あんたには知っておいてもらった方が都合がいいし、この後少し働いてもらうことになるからな。必要なことは話す」


 レオはそう言って、隣に座るユウトの頭を撫でた。


「まず、昨日のことで勘付いているとは思うが、ユウトは半魔だ」

「それはさっき本人からも聞いた。いやあ、見た目からは全然分からんもんだね。つうか、半魔ってもっとワイルドなイメージなんだけど、こんな可愛いのもいんのね」

「こんなに可愛いのは他にはいない」

「何、その兄馬鹿」


 マルセンはレオの自慢げな言葉に笑う。馬鹿にしたというよりは、微笑ましいという笑顔だ。


「その可愛い半魔のユウトが、何で降魔術式に引っ張られそうになったんだ?」

「……あれはピンポイントでユウトを狙ったわけじゃない。最近、王都や各街で半魔が強制召喚されているらしいんだ。もちろん街外では普通の魔物も引っ張られているようだが」

「無差別か、そりゃ厄介だな。……しかし、降魔術式って基本的に使役目的だろうに、何で半魔まで? 半分人間の血が入っているから、意に反して強制的に従えるなんてそうそうできないはずだが」

「そうだな。使役以外の目的があるのかもしれん。……魔道具を使って強制使役している可能性も捨て切れんが」


 言いつつレオはユウトの頭を撫でていた手を滑らせ、その項に触れる。

 ……昔ここには彼の感情を封じ、使役するための首輪が付いていたのだ。きちんとサイズ調整もされていないそれで、ユウトの首には擦れて出来た傷がいくつもあった。

 もちろん、今はもうその痕はないはずだが。


 それを確認するように優しく首元を撫でると、ユウトは子猫のように首を竦めた。


「んで、この禁忌術式使ってる奴らの正体って分かってんの?」

「……魔法生物研究所の元職員だ」

「は? 魔研? ……あれ、5年前に建物崩壊して、全員死亡したんじゃなかったっけ」

「俺もそう思っていたんだが、どうも生きていたらしい」

「マジでか。……魔研の職員、なあ……」


 そう呟いたマルセンは渋い顔をしている。


「……前国王の時から好き勝手やってたもんな。あいつらの仕業なら驚かねえわ。魔物なんて玩具か何かだと思ってやがるのよ」

「……あんたは魔研の内情を知っているのか?」

「いや、内情って言うか、所長のジアレイスを知ってる。あいつ、俺と同い年なんだよ。んで、魔法学校の術式クラスの同級生。まあ、昔から危ねえ奴だったわ。嫌いな奴を術式にはめて実験をしたりしてな」

「人を相手に!? それってすごく危険ですよね」

「……危険どころか国の法律で禁じられている。相手に怪我をさせたりしたら大事だったはずだが……ジアレイスは不問だったのか?」


 訊ねたレオに、マルセンはため息を吐きながらひとつ頷いた。


「あの男、有力貴族の息子だった上に前国王のマブダチだったのよ。だからやりたい放題。術式を掛けられた人間が学校に訴えたけど、逆にそっちが学校から追い出された」

「加害者を庇って、被害者を排除して隠蔽したってこと!? 酷い!」

「……魔法学校も国王には逆らえないからな。あんたの学生時代ってことは30年くらい前か? その頃はまだ先々代が国王だったはずだが……。まあ、それも凡愚だったと聞いているから、息子に良いように言いくるめられたのだろう」


 レオとライネルの祖父にあたる先々代は、2人が産まれる前に病死をしている。毒を盛られたという噂もあるが、それが調査されることはなかった。

 まあ、国民に対して何の益もない国王だったらしいし、それほど死の理由に興味を持たれなかったのかもしれない。


「……それで、学校を追い出された被害者は、やむなく冒険者になったわけか。その後再び学校に講師として戻り、今に至る、と」

「あ、分かっちゃった?」

「魔法学校に通っていたのに、卒業して冒険者になる者などいない。ここの生徒は国の組織に入って家の爵位を継ぐ必要があるからな。そう考えれば自ずと答えが出る」

「まあ俺んちは吹けば飛ぶような弱小貴族だったからね。諦めるしかなかったのよ。一応まだ俺の親父がヨボヨボながら現役で貴族やってっけど。今の陛下が相談係として置いてくれててさ、ありがてえわ」


 5年前のライネルによる貴族粛正に引っかからなかったのなら、おそらく彼の父も真っ当な人間なのだろう。

 ライネルに恩義も感じているようだし、なるほど、これならマルセンには裏切りも陰謀も関係なさそうだ。


「ところで、相手がジアレイスたちだというなら俺も役に立てるかもしれん。さっき俺に働いて欲しいと言っていたな? まずはどうするつもりだ?」

「何よりも一番に降魔術式を封じたい。とりあえず、王都の街中だけでも降魔術式を無効にできないだろうか。あんた、昨日大地の浄化しただろ。ああいうのを街全体に施して欲しい」

「ああ、あれか。……ちっと難しいな。最近杖の魔力が足りなくてな……」

「昨日の、世界樹の杖がか」

「うわ、何で世界樹の杖のこと知ってんの。これ超極秘だからね。他言しないでね」

「それは分かっている」


 慌てたように唇に人差し指を当てて声を潜めるマルセンに、レオは頷く。


「陛下に降魔術式の対応を頼みに行ったら、世界樹の杖を持つあんたなら良い案があるんじゃないかって言っていたんだ」

「バラしたの陛下か……しょうがねえなあ、もう。……まあ、もう知られてんなら話すけどな。どうもこの世界の魔力がどんどん失われてるみたいでさ。世界樹の杖が弱ってんのよ」

「ああ……知り合いが、降魔術式のせいで世界の魔力のバランスが崩れてると言っていた。これ以上魔力が喪失すると、世界樹からこの世界が切り捨てられると」

「ちょ、いや、待ってそれどういう知り合い? 何でそんなこと知ってんの? 謎すぎるんだけど」


 困惑するマルセンには答えずに、レオはちらりと隣のユウトを見た。


 竜人たちの話だと、今のユウトには世界の魔力バランスを担うほどの力があるという。ならば、ユウトから魔力を供給すれば、弱った杖に少しは力が戻るのではなかろうか。


「杖に魔力が入れば、大地の浄化は可能か?」

「ん? そうだな、入る魔力量によって範囲は変わるが、王都の中央で地鎮の術を唱えれば、その周辺の浄化はひと月くらいは保つ」

「そうか。……ユウト、その杖に魔力を注げるか?」

「僕の? やり方がよく分かんないけど……普通に杖を使うみたいに魔力を送り込めばいいのかな? やってみる」

「え、おい、ユウトにやらせて大丈夫か? こんな小柄なのに、倒れちゃわない?」

「おそらく平気だ。……でもユウト、気分が悪くなったら止めろよ」

「うん。マルさん、杖を借りていいですか?」

「無理すんなよ」

「はい」


 ユウトは頷いて杖を受け取ると、すぐに魔力を注ぎ始めた。


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