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兄、ライネルに報告する

 翌日、ユウトを魔法学校に送り届けたレオは、その足で王宮へと向かった。

 マルセンと話をしなくてはならないが、その前にライネルに降魔術式への対抗策を講じてもらわなくてはいけないのだ。そうでないとおちおち街中でユウトを歩かせることもできない。


 王宮に着いたレオはライネルをつかまえて、昨日のあらましを伝えた。


「……そうか。ユウトは自分の正体を知ってしまったのか」

「ああ。ただ、魔研での境遇については何も話していない。兄貴も余計なことを言わないように気を付けてくれ」

「分かっている。……それにしても、降魔術式で街中から半魔が強制召喚されているというのは問題だな。基本的に街に紛れ込んでいる半魔は、人間のために働いてくれる頼もしい存在だ。もちろん正体を明かしてはいないが、その能力の高さからランクS冒険者になっている者も数名いる」


 半魔という者たちは、紛い物として純血の魔物から忌み嫌われている。両者は最初から敵という立ち位置だ。

 だからこそ彼らは人間側に付きやすい。人間というのは良くも悪くも鈍感で、正体を隠してうまく立ち回れば半魔たちは平和な居場所を手に入れられるからだ。


 その居場所を護るために彼らは滅多なことでは悪事に手を染めないし、戦ってくれもする。短い生を持つ人間と違い、比較的長命の半魔にとって居場所は何よりも重要なのだ。

 当然居住地の問題だけでは無く、そのコミュニティを含めての居場所を、彼らはとても重要視する。


「ユウトはもちろん、稀少な彼らが奴らに捕まるのは阻止したいが……。降魔術式を撥ね除ける結界か、難しいな。街にそれを掛けるということは、街中に魔物がいることが前提となる。その上、国が魔物を保護するように見えるし、おおっぴらにやったら住民がパニックを起こすだろう」

「もちろんそれは承知しているが、これは一刻を争う。どうにか対策してくれ」


 ユウトが再び魔研に捕まってしまうと考えただけで虫唾が走る。

 あの可愛らしい弟が、暗黒児ダークチャイルドと呼ばれたあの頃の姿に堕ちてしまうことは、絶対に阻止しなければ。


「別の術式と偽って掛けると、バレた時が厄介だしな……」

「大地の浄化みたいなことはできないのか。例の魔法講師が、地鎮の儀式のようなものでしばらく降魔術式を入り込めないようにしてくれたんだが」

「……ああ、マルセンか。……そうだな、だったらまずは彼に話をしてみてくれ。私は術式に関しての専門家ではないし、かと言って国の魔法術機関に持って行ける話でもないし、俄には判断しがたい。だが彼ならいい案をくれるかもしれない」


 ライネルは大した逡巡もなくマルセンに対策を委ねた。

 それを意外に思ったレオは片眉を上げる。

 ライネルはこう見えて、国王という立場上かなり疑り深い。信頼する側近は2・3人しかいないし、国に関わる大事は余程のことがない限り自身で判断・決断する。その兄が、マルセンに丸投げするというのだ。


「あのマルセンという男は確か冒険者上がりだったよな? 最終経歴はランクAだったか。ユウトを任せたこともそうだが、あいつは余程信頼できる男なのか?」


 訊ねたレオに、ライネルはしっかりと頷いた。


「彼は信頼して大丈夫だ。世界樹の精霊が認めた男だからな」

「世界樹の精霊だと?」

「マルセンの杖を見たことがあるか? あれは彼しか持たない世界樹でできた杖だ。世界樹に宿るほどの高位の精霊は、魂の汚れた人間に力を貸すことはない。ルウドルトの前以外では少々おちゃらけているが、マルセンは裏切りや陰謀とは無縁の人間だ」


 世界樹の杖。返術をするときに魔方陣に突き刺したあれか。


「世界樹なんてもののことは小さな頃絵本で読んだきりで、別の時空にあると思っていたんだが。この世界には存在していないと」

「研究者の話だと、世界樹は全ての世界と繋がっているらしい。そして、繋がりが切れた世界は滅ぶ」

「……そういえば、キイとクウがそんなことを言ってたな」

「キイとクウ……魔研にいた双子の竜人か?」

「ああ。今はジラックに潜入させてる。……確か、降魔術式を止めないと魔尖塔が現れる、ユウトをこの世界から失うと世界樹から切り捨てられる、みたいなことを言っていた」

「魔尖塔……滅びの予兆か。おとぎ話の中の、遠い異国の物語なんて言ってられないな」


 ライネルは眉を顰めたまま、大きくため息を吐いた。


「アレオン、とにかくお前はマルセンに話を聞いてみてくれ。私は魔尖塔に関して過去の文献を調べてみる。出現条件などが分かれば、魔研の輩が何をしようとしているか手掛かりくらいは掴めるかもしれない」

「分かった。ジラックの方はどうだ?」

「あっちもまだ調査中だ。……どうやら、反国王派の拠点もジラックにあるらしくてな。領主との関わりを調べている」

「反国王派? そんなの放っておいていいんじゃないか? 大して力もないだろう」

「放っておきたいのは山々だが、ちょっとな」


 反国王派は各街の住民にもほとんど相手にされず、煙たがられている存在だ。それの何が気になるというのか。

 しかしまあ、わざわざ調べるのなら何かあるのだろう。レオは言及せずに立ち上がった。


「とりあえず、ユウトを迎えに行くついでにマルセンと話をしてくる。また後日報告に来るから」

「そのうちユウトも連れて来てくれ。半魔だと知って少し引け目を感じているかもしれないし、来たらめっちゃ可愛がることにする」

「……ああ。近いうちに連れてくる」


 今のユウトは過ぎるくらい甘やかした方がいい。いつもなら目の前で弟が構われるのを見るのは少しイラッとするが、今回は大目に見よう。


「じゃあ、そろそろ行く」

「ああ、またな」


 レオはライネルに挨拶がてらに片手を上げて、隠し通路への扉を開けると、地下を抜けて墓地を目指した。


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