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兄弟、冒険者ギルドに登録する

 翌日、馬車は朝から順調に道程を進み、昼には目的地であるテムの隣街、ザインに着いた。

 検問を終えて通行税を払い城門をくぐれば、そこで若旦那たちとはお別れだ。


「若旦那さん、短い間でしたがありがとうございました」

「礼を言うのはこっちの方だ。お前らのおかげで村は危険がなくなったし、ここまでの馬車旅もすげえ楽だった。あ、あの敷物回収して行ってくれよ。あんな高価なもん馬車に敷いてたら、帰りに盗賊に狙われちまう」


 若旦那はそう言ってからからと笑った。


「また機会があったら村を訪ねて行きますね」

「ああ、歓迎するぜ。何かあったらできるだけ力になるし、頼ってくれよ」

「はい、ありがとうございます」


 村長と同じようなことを言っている。やっぱり親子だなあと微笑んで、ユウトは彼にお辞儀をして別れを告げた。





 ザインの街は、テムに比べるとだいぶ大きかった。人通りも店の数も、建物の作りも全然違う。ゲームでよく見る、石やレンガ造りのファンタジーな街並みだ。

 城門を入ってすぐの大通りには、特に多くの看板が出ていた。文字が読めない人もいるからだろうか、絵や記号で書かれている。

 ユウトにはすぐに分からないような店もいくつかあった。


 そんな街を特に迷うこともなく、レオは歩いて行く。

 きょろきょろと物珍しそうに辺りを見回す弟がはぐれないように、目を配りながら。


「レオ兄さん、どこに向かってるの?」

「冒険者ギルドだ。まずはそこで登録を済ませないといろいろ不便だからな」

「冒険者ギルドかあ!」


 これは以前から結構楽しみだった。まず、冒険者という響きが何か格好いい。

 弟がわくわくしていると、不意に兄が頬をつついてきた。


「そういう顔してると見るからに初級冒険者だと丸わかりで、他の冒険者になめられるぞ。それでなくても小さくて可愛いから、変な奴に絡まれやすいんだ。気を付けろ」

「大丈夫、そういうの相手にしないから」


 小柄で女顔、その上記憶喪失の過去も持つユウトは、以前から同級生に『オカマ』やら『欠陥品』やらとからかわれることが多かった。

 まあ、事実は事実。それを自分勝手に評価して他人を見下す人間に、ユウトは何の感情も抱かない。それで優越感を得られるのならおめでたい人だなと思う程度だ。


 それにそもそも、兄が言うほど自分が可愛いとも思っていない。おそらく絡んでくるのは、貧弱で見るからに弱そうなユウト相手に優位に立ちたい小物だけ。それをまともに相手するつもりはない。


 そう思って返すと、レオは首を振った。


「日本では腹が立っても手を出す奴はそういないが、ここは違う。冒険者なんかは気性が荒いのも多いし、武器も持ち歩いているからな。そういう意味でも、特に他人を馬鹿にする奴の対応は気を付けろ」

「あ、そっか。うん。分かった」


 この世界では『馬鹿に刃物』はそのままの意味になるのだ。不要ないざこざは起こさないに限る。下手に無視せずに上手くあしらえということだろう。

 ユウトがそれに納得したところで、レオが立ち止まった。


「ここが冒険者ギルドだ」

「わ、結構大きい」


 大きな建物の真正面に、大きな扉がある。その上の軒には竜と剣と盾をモチーフにした看板が掛かっていた。

 その扉を気負いなく開けた兄に続いて中に入る。


 するとまず、正面に横並びのカウンターが見えた。窓口のようなところにそれぞれ担当者が座っている。何だか役場みたいだ。


 右を見れば壁一面にクエストの依頼用紙が貼ってあり、いくつかの机が置いてある。左側は依頼品の引き渡しと報酬支払いのブースがあった。どこもそれなりに人がいる。


「こっちだ」


 そんな中でも、レオは迷いなくユウトを導く。

 そしてカウンターテーブルの担当の1人の前に行くと、その椅子にユウトを座らせた。


「あら、こんな可愛い子が来るなんて珍しいわ。こんにちは、今日は冒険者の新規登録かしら?」


 向かいに座っている受付担当は、柔らかい雰囲気の女性だった。ふわりとソバージュの掛かった亜麻色の髪を、赤いリボンで一つにまとめている。


「こ、こんにちは。あの、登録お願いします。初めてでよく分からないんですけど……」

「はい、大丈夫よ。大まかなことは教えてあげるから。まずはこの登録用紙に必要事項を記入して……推薦状か身分証明できるものはあるかしら?」


 担当女性に問われて、後ろからレオが村長からもらってきた身分証明の書簡を無言で差し出した。


「……はい、OKです。登録は2人分ね。……ん? 18歳男?」

「はい。えっと、僕の書類何かおかしいですか?」

「え、あ、いや全然、何も。ごめんね、てっきり15歳くらいの少しボーイッシュな女の子かと思ってたから……」


 ああ、そういうことか。思わず苦笑する。

 いつものことだ、いちいち気にしない。

 ユウトがそう告げると、向かいの女性が間を置くようにひとつ咳払いをした。


「失礼しました。ではギルドカードを作りますので、この水晶板に親指を押しつけて下さい。報酬の支払いやランクアップの時に親指の指紋が必要になりますので、クエスト中に腕を食いちぎられたりしないように注意して下さいね」


 何か物騒な注意事項をさらりと言われた。それに一応頷いておく。

 女性は指紋のデータと書類を後ろにいる別の職員に渡すと、再びこちらに向き直った。


「はい、じゃあギルドカードの個人識別術式が組み上がるまで、冒険者ギルドの説明させてもらいますね。私は受付担当のリサです。初心者サポートをしていますので、クエストで何か分からないことがあったら訊いて下さい」

「はい、ありがとうございます、リサさん」

「この可愛さで18歳男……。ええと、まずはランクの説明からね」


 ユウトが少し首を傾げてにこりと笑うと、何故かリサは遠い目をした。しかしそのまま何事もなかったかのように続ける。


「ギルドの冒険者ランクはSSSからEまで8段階あります。初心者は基本的にEから始まるわ。ランクを上げるにはクエストの数をこなすか、ギルド職員からの推薦が必要です。まあ、ランクCあたりまでならゲート攻略を含むいろんなクエストをマメに受けていれば、半年くらいでなれるから大丈夫よ」

「ランクB以上は難しいんですか?」

「そうね。ランクCまでは力押しでいけるんだけど、それ以上は深くなるゲートを攻略できるだけの知力と体力、忍耐力も必要になってくるの。基本的に冒険者って脳筋が多いから、上に上がれる人数はどんどん絞られていってしまうわ」


 なるほど、と頷いて、ちらりと後ろに立つレオを見る。

 ランクA相当のゲートをあっさりと攻略してきた兄は、それを兼ね備えているということか。


 そんな弟の視線に気付いたレオは、ユウトの頭に手を添えて、無理矢理前を向かせた。


「でもそれなりに賢いメンバーが1人以上いて、後はいいアイテムや装備がそろっていれば、ランクAは頑張れば行けるわよ」

「それって、S以上は頑張っても無理ってことですか?」

「あら、あなたはS以上を目指したいの? 普通の冒険者は、ランクAまで行けば月1・2回程度のクエスト報酬だけで悠々自適に暮らせるから、あまりそれ以上を望まないんだけど」


 リサの言葉にユウトは目をぱちりと瞬いた。

 冒険者というのは強さや強敵を求めるもので、そんな安定志向とは無縁だと思っていたのだけれど。

 格好いい冒険譚の読み過ぎだろうか。


「……それでも、ランクS以上の人たちっているんですよね?」

「もちろん。もっと強くなりたいとか、国のため人のために戦いたいっていう人は、少ないけど一定数いるわ。その中でも、ギルドや貴族、王族に認められた力を持つ人格者がランクS以上に上がれるの。力があっても功名心ばかりが先立つような人間は選ばれないわ」

「人格者……。納得です。それを全てクリアした人たちだけが、尊敬される特別なランクになれるんですね。誰かのために戦うって格好いいです」


 ユウトの理想とする冒険者像は正にそれだ。

 そういう存在がいることに嬉しくなって、ユウトは微笑んだ。


「僕がそうなれるかなんて分からないけど、冒険者になるならそういう心意気くらいは持っていたいです」

「はああっ、やだもう、性格まで良い子……! 頭撫でたいっ……!」


 その正面で、何だかリサが悶えている。


「そうすると、ランクSSSの人ってすごい方なんですね」


 下を向いてふるふるしてる彼女に訊ねると、リサは慌てて気を取り直したように顔を上げた。


「それが、ランクSSSは不在なのよ。元々SSSは、このエルダール王国最強と言われた『剣聖』様を基準にしたランクなの。その方は本来冒険者じゃないし、数年前に亡くなってしまったのだけど、それに値する冒険者が出てくるのを期待して設けてあるんですって」

「そうなんですか」


 そんなにすごい人なら会ってみたかったが、亡くなっているんじゃ仕方ない。ユウトは話を自分基準に戻した。


「とりあえず今の僕が次のランクに上がるには、クエストをこなせってことですよね。クエストってどれを受けてもいいんですか?」

「いいえ。ここにあるクエストはAからDまでだけど、受けられるのは自分のランクの前後までよ。たとえば、ランクCの冒険者ならランクBからDまでのクエストしか受けられないってことね」

「じゃあ、僕はランクEだから、受けられるのはランクDのクエストだけってことですね」

「そうね。特にEは初心者だから、Dに上がるまでは素材の採取依頼と地上にいる害獣の討伐依頼、街中の雑用依頼しか受けられないわ。ゲート攻略は冒険者ランクDからってことね」


 ゲートに入るのはそれなりに経験値を積んでからということか。

 クエストを受けるならまずは採取からかなあなどと考えていると、リサが後ろの職員に呼ばれて、カードを受け取ってきた。


「はい、これがギルドカードです。ランクはEからね。……後ろのお兄さんもランクEからでいいの? その雰囲気と体つき、確実に強いわよね。過去の実績ないの? 本当に初心者?」

「……初心者だ」

「まあ、確かに指紋による登録被りチェックも問題ないようだし、初登録ね……。とりあえず最初は2人パーティでいいのかしら? パーティリーダーはお兄さんよね?」

「いや、リーダーはユウトで」

「へ!? 僕!?」


 兄からいきなりリーダーを申しつけられて、ユウトは驚いた。

 だって普通に、レオがリーダーになると思っていたのだ。それはリサも同じだったようで、目を丸くした。


「パーティランクはリーダーのランクに準ずるから、お兄さんがリーダーの方が早くランクアップできると思うけど……いいのかしら?」

「構わん。俺はユウトとのハッピーライフのためにするべきことが色々あるから、積極的にクエストをこなすつもりはないからな。ユウトに合わせる」

「え、そうなの?」


 まあ確かに兄にクエストのやる気がないのなら、やる気のある自分がリーダーになった方がいい。ユウトだって自力でランクアップする気概はあるのだ。


「じゃあ、リーダーは僕で」

「そ、そう? ではパーティ登録もしておくわね。……はい、これで手続きは終了よ。クエストを受ける時は掲示板から依頼用紙を取って、ギルドカードと一緒に窓口に提出してね。最初どれを選ぶか迷うようならおすすめのクエストを選ぶ手伝いをしますから、声を掛けて下さい」

「分かりました。ありがとうございます、リサさん」

「ああ、可愛くて礼儀正しい……! あの子にもこのくらいの愛嬌があったら……」


 手に入れたばかりのギルドカードを持ちほくほくと笑顔でお礼を述べると、結局リサに頭を撫でられた。彼女は子犬か何かを見るような目でユウトを見ている。18歳男、なんだけど……。


「……おい、可愛いのは同意するが勝手に触るな。それより、この辺でおすすめの宿はあるか。ひと月ごとの契約ができて、飯の美味い、信頼できる宿がいい。そしてこれが一番重要だが、ユウトにちょっかいを出すような客がいないところを探している」


 そんなリサにレオが突っ込み、同時に周辺の宿の情報を求める。すると彼女ははたと自分を省みて手を引っ込め、こほんとひとつ咳払いをした。


「つまり、ガラの悪い客がいないところかしら……そうね、だったらこの通り沿いにある『リリア亭』がいいわ。ちょっと宿料は高いけど、清潔でご飯も美味しいの。ただ、店主がちょっと頑固で問題ありでね……。でもまあ、あなたたちなら平気かも」

「かも?」

「うーん、とりあえず行ってみて。お薦めなのは間違いないのよ」


 はっきりしないリサの物言いに、しかしレオは気にせず頷く。


「そうか。じゃあ行くぞ、ユウト」

「あ、待って。リサさん、宿の情報までありがとうございました」

「はい、また来てね」


 レオに促され立ち上がったユウトは、リサにもう一度礼を言った。そして背後に彼女の声を聞きながら、弟に合わせてゆっくりと歩く兄の後についてギルドの扉を出る。


 その時ふと、ユウトは入れ違いに自分と似た体型の少年がギルドの中に入っていったことに振り返った。一瞬だけ目が合ったが、その顔もユウトのように中性的だった。出で立ちはもちろん冒険者。


 自分と似たような小柄な者でも、ちゃんと冒険者をしているのだ。


「レオ兄さん、今すれ違った子見た? 僕に背格好が似てたけど、ちゃんと冒険者だった!」

「似てたか? ユウトの方がずっと可愛かったが」

「そういうのじゃなくて。……小柄でも冒険者してる人が他にもいるんだなあって」


 その存在にちょっとだけ嬉しくなって、ユウトはこれからの冒険者生活に思いを馳せるのだった。

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