兄、ドラゴンと契約する
キイとクウは、双子の竜人だ。
以前は魔法生物研究所に閉じ込められ、管理飼育されていた。
昔から変わらない見た目は小さくて子ドラゴンのようだが、物理防御力、魔防、攻撃力は極めて高い。知力も併せ持つ、高位の魔物だ。
「お前たち、あの時せっかく逃がしてやったのに、何でこんなところにいるんだ」
「アレオン様こそ、今までどこにいたんですか!? ここに戻ってきて探し回ったのに、『剣聖は死んだ』とか言われてたし」
「わざわざ戻ってきて俺を探していただと? どういうことだ。パーム工房の使用人になりすましていたり、何があった?」
2匹がレオに寄ってきてぶうぶうと鼻息を荒くしている。
不満を訴えているらしいが、今の状況が全く分からない。
眉を顰めて訊ねると、キイとクウが人型に変化した。
「パーム工房にキイが居たのをご存じで? クウも今、ロジー鍛冶工房というところに使用人として勤めています」
「アレオン様、もしかしてキイの後をつけてたのですか? 全然気付かなかった。さすが剣聖様です」
「ちょっと待て、パーム工房とロジー鍛冶工房に使用人として入っているだと? ……もしかして、お前たちがここにいるのは魔研に関係してのことなのか?」
「アレオン様も、ジアレイスたちが動いていることを知っているのですね」
「ああ、目的はよく分からんが」
困惑気味に返すと、2人は顔を見合わせ、それからレオに向き直った。
「クウたちも、あいつらの最終的な目的が分かっているわけじゃないです。しかし、あいつらのせいで世界の魔力量のバランスがおかしくなっているのは確か」
「キイたちはそれを正すために戻ってきたのです。そのために、魔研を潰さなくてはならない。……アレオン様、力を貸してはくれませんか?」
「力を? 元々魔研は潰すつもりだったから、それは全然構わないが……」
頷いたレオに、キイとクウがぱあと目を輝かせる。
そしていそいそと何かを取り出して、こちらにそれを手渡した。
見るとそれは各々の鱗1枚ずつだった。
「……鱗? これをどうするんだ?」
「クウたちと、召喚契約をして欲しいのです」
「召喚って……俺は魔法を使えないぞ」
「大丈夫です。召喚分の魔力はこの鱗で補えます。キイたちは魔族と違って詠唱じゃなく方陣召喚ですし、アレオン様でも扱えます」
「申し訳ないのですがアレオン様、手のひらに小さな傷を作って頂いて良いですか」
クウのその言葉で、これが血の契約だと気付く。
ユウトと契約したヴァルドもそうだったが、レオと契約をして使役されることに、何か彼らの得があるのだろうか。
「……お前たちドラゴンは、人間より長命で全てにおいての能力が高い。なのに、何で進んで格下の俺と召喚契約したいんだ?」
「アレオン様は格下ではありませんよ。この契約は自身が主と認めた相手としなくては意味がないのです。キイもクウも、アレオン様なら主として力を尽くせると考えています」
「それにキイたちは、ドラゴンではなく竜人ですし。竜人は人との繋がりで力を発揮するのです」
分かるような分からないような。
しかし、竜人の力が借りられるのはありがたい。2人が良いというのなら、契約をしよう。
その人柄も能力も知っているし、問題はない。
レオは鋭く研がれた採取用のナイフを取り出し、手のひらを小さく切った。そこからぷくりと盛り上がった血の玉をキイとクウが指に掬う。それをぺろりと舐めた。
「うん、アレオン様の血の味、覚えました。では、先ほど渡した鱗2枚をその傷口にかぶせて下さい」
言われた通りにすると、鱗が傷口を塞ぎ、そのまま溶けるように皮膚に浸透する。数秒後には、手のひらは傷が消え、元通りになっていた。
「……これは、どうなったんだ?」
「僕たちの一部がアレオン様と繋がった形です。キイたちを呼び出す時は、鱗の溶けた手のひらを地面に当てて呼んで下さい。方陣が発動します」
「2人いっぺんに来るのか?」
「いっぺんというか、方陣を通るとクウたちは合体竜化して来ます」
合体竜化。それは双子の2人で1体のドラゴンに変化した状態のことだ。そうなると、子どものように小さかったドラゴンが、体長6メートルほどの大きさになる。全能力がさらに上昇し、空も飛べるようになるのだ。
その状態を長く維持することは出来ないらしいが、この隠し球は十分すぎるほどに有効だ。
「合体竜化……それは頼もしいな」
「キイたちをいつでもお呼び下さいね」
「クウたちはいつでもお待ちしています」
「ああ」
この懇願めいた召喚待ちもヴァルドとかぶる。この血の契約には何か特別な効果があるのだろうか。
まあこちらとしては、何の損もないからいいけれど。
「ところで、お前たちは魔研について、今どこまで情報を持っているんだ? 知っていることを教えてくれ」
「はい。あいつらは今、パーム工房とロジー鍛冶工房を煽って、非合法に金儲けをしています」
「その金をつぎ込んで、魔法生物研究所があったころみたいな施設を作ろうとしているみたいです」
「……魔研を再建しようとしてるのか?」
「おそらく。それが最終目的かどうかはわかりませんが」
あの悪趣味の塊みたいな施設をまた作りたいだなどと、頭がおかしいとしか思えない。実際、頭のネジが何本かぶっ飛んだ人間の集まりだが。
「資金を作るために2つの工房がそそのかされているのですが、双方の店主はいくら諭してもあいつらとの繋がりを断とうとしなくて困っています」
「あー……店主は金の亡者みたいだしな……」
「魔研は金をちらつかせて、その実だいぶ搾取しています。しかし店主は目先の金に囚われてしまっていて、そのことに気付いていないんです。いっそ実力行使に出たいのですが、工房を叩いてあいつらに身を隠されたらそちらの方が面倒なので、現状このままです」
「なるほど」
魔研は街の外に拠点を隠している。工房を叩いてそこに逃げ込まれると、確かに厄介だ。
まずはその資金源となるものを、魔研と同時に叩いていかなければならない。
「2つの工房は色々手広くやっているようだが、今はどんなことを?」
「パームもロジーも、全く同じことをやってます。魔法道具と武器販売、そして上位魔石売買と闘技場経営」
「……闘技場?」
「売買用の上位魔石を得るために、魔研の連中が降魔術式で呼び出したランクA以上の魔物同士を殺しあいさせています。それを、見世物にしているんです」
「……待て、民間が魔物を扱うのは危険だから、国で禁止されているだろう!? だからこそ魔法生物研究所は街の外に、厳重な国の管理の下で運営されていたんだし……。実際、魔物を制御しきれずに逃げられて滅んだテイマーの国もあると聞く。そんな施設、恐ろしくて許可する街なんて……」
そこまで言って、件の魔石燃料工場のある街を思い出す。そうだ、ジラック。あそこの領主は、馬鹿だった。
視察を拒む理由も考えると、そこにあるのは間違いないだろう。




