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弟、ルウドルトと馬車に乗る

 ベッドの中で兄弟3人、しばらくは他愛もない話をしていたが、今日も慣れない長距離を歩いたユウトは早々に寝落ちした。

 その弟を間に挟み、レオとライネルは小声で会話を続ける。


「……ユウトの寝顔は天使だねえ。癒されるよ」

「天使で可愛いのは当然のことだが……、ただここ3年ほど、あまり成長してないんだ。……少しあちら側に傾いて来ているのかもしれない」

「ああ、だからこんなに幼い感じなのか。研究所にいた頃よりはだいぶ大きくなったようだが」


 ライネルが指の背でユウトの頬を軽く撫でる。

 まろくて甘い輪郭は確かに成長の遅れを感じさせた。


「……このままだと、魔研の連中に勘付かれるかもしれん」

「ああ、あいつらか……。カズサから報告はもらっている。まさかあの状況で生き延びていたとはな……」

「最近は降魔術式で高位モンスターを多数、強制召喚しているらしい。ジラックで上位魔石を手に入れる機構があるというから、何かしら関係していると思う」

「……ジラックの動向は近頃目に余るな。領主が亡くなってその息子が後を継いだんだが、王都からの視察は拒むし、勝手に税金を上げたという話も聞く。有名な湯治場だったのに、居心地が悪くなって別邸を引き上げたという貴族も多い」

「……何だそれ。怪しさ満点じゃないか」


 エルダールの街でありながら、王都の視察を拒むというのはあり得ない。そうしてでも隠したい何かが街中にあるということか。


「軍を出して強制的に突入しないのか?」

「……こう言ったら身も蓋もないんだが、あそこの後継者は馬鹿でな。王都が軍でも出そうものなら、住民のことなんて考えずに街中でドンパチ始めるような小心者の愚物なんだ。だからとりあえず隠しているものを暴いて、言い逃れできない状況にしてから反撃の余地を与えずに制圧したい」

「つまり、まずは内情を知るとこからか……まだるっこしいな」

「正直、全ての元凶が領主だというならカズサに首を刎ねてきてもらえば済むんだが、何しろ彼は馬鹿だ。間違いなく馬鹿領主をそそのかし、裏で糸を引いている奴がいる。それを見つけないうちは派手に動くわけにはいかん」

「そうか、黒幕をまずは探さないと……」


 だとすれば、こちらも裏にいるのは魔研の連中だろうか?


「まあ、早めに内情は暴くつもりだ。悪いがカズサを借りるかもしれない」

「構わん。あいつにも依頼を受けたら手伝ってやれと言ってある」

「それは助かる。代わりに、情報はお前たちとも共有するようにしておくよ」

「ああ」


 王宮には毎日色々な情報が集まる。その中から、自分たちが関係する情報をもらえるのはありがたい。

 ユウトが魔法の指南を受けている間は動けないが、それが終われば情報を頼りに、我々の生活を脅かす後顧の憂いを消しに行こう。







 翌朝、ライネルの部屋で朝食をとったユウトは、ルウドルトに連れられて魔法学校に向かっていた。

 乗せられた馬車は目立たないようにか、王宮のものではなく一般のものだ。2人乗りの客車の中、ユウトは無言のルウドルトにちょっと緊張する。


 ええと、話しかけてもいいんだろうか。


「あ、あの……」

「私に何か」


 おどおどと声を掛けると、彼は思いの外あっさりと視線をくれた。

 その声色に棘もない。少しだけ、肩の力が抜ける。


「ライネル兄様の護衛があるのに、僕に付き合わせてしまってごめんなさい。ありがとうございます」

「あなたが気にすることではありません。陛下のご指示ですから。……私に託されるということは、陛下は余程ユウト様のことが可愛いんでしょう」


 そう言ってルウドルトは微笑んだ。

 あれ、王宮にいる時と雰囲気が違う。初めて見る笑顔はとても優しい。


「これから会う魔法講師も、ユウト様のために陛下が吟味して選んだ方です。魔法学校の中ではそれほど高い地位ではありませんが、能力や人格は申し分ありません」

「僕のために、わざわざ?」

「選定などは陛下が好きでやってるので気にしなくて大丈夫ですよ。あなたと殿下が見つかってから、陛下は色々してあげたくて仕方がないみたいなので」


 確かに、ライネルは弟2人を構い倒したい感じだ。

 レオは少し鬱陶しそうにしているけれど、ユウトとしては嬉しいかぎり。どうにかその好意に報いたいと思う。


「ライネル兄様がせっかく良い先生を見つけてくれたのなら、頑張らなくちゃ。いっぱい力を付けて、国を護ります」

「良い心がけです」


 ルウドルトは笑顔で頷いた。


「……陛下も殿下も扱いづらい人間なので、ユウト様のような素直な方がいるととても心が安まります」

「……ライネル兄様とレオ兄さんは、扱いづらいんですか?」

「ええ、昔からお二人とも捻くれていらっしゃって……」


 ユウトとしてはあまり感じないが、そうなんだろうか。

 ルウドルトの笑顔が、少し疲れた表情になる。


「……ユウト様はあんなふうになってはいけませんよ?」

「はい……」


 一体、兄2人は彼にどれだけひねた対応をしていたんだろう。

 まあどちらにしろ、ユウトではライネルやレオのようになるのは不可能だけれど。


 そんな話をしているうちに、馬車は大きな学校の門をくぐった。

 それに気が付いたルウドルトが窓から顔を出して前方を確認する。

 ユウトも少し顔を覗かせると、魔法学校の建物の入り口にひとりの男性が立っているのが見えた。


 馬の速度が徐々に緩む。

 やがて馬車は男性の元に到着して止まった。


 外側から扉が開き、ユウトはルウドルトに促されてステップを下りる。

 2人を出迎えてくれた目の前の男は40代くらいの魔法使いで、シンプルなローブを着ていた。


「お待ちしていました、ルウドルト様。そちらの方が、魔法奨学生ですな? ……おや、18歳の青年だと聞いておりましたが……」

「ああ、間違いありません。こちらが陛下推薦の奨学生、ユウト様です」

「……ユウトです、18歳男です。今日からよろしくお願いします」


 男の反応に苦笑をしつつぺこりと頭を下げる。

 すると彼は驚いたように目を見開いた。


「男の子……!? す、すまぬ。それは失礼した」

「いえ、よく間違えられるので気にしないで下さい」


 これは初対面ではお約束みたいなものだ。気にせず微笑むと、男はひとつ咳払いをして場をとりなした。


「失礼……では改めて。初めましてユウト様。私は魔法講師をしているマルセンと申します」

「え」


 その名前、聞き覚えがある。

 今度はユウトが目を丸くした。

 確か、中古で買ったあの魔法のロープを使っていたという人物が、マルセンという名だったはず……。そうだ、彼は魔法学校の講師になったと言っていた。


 だとすれば、この人は魔工爺様に認められた魔法使い。

 これは大当たりの先生かもしれない。


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