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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、両手に兄

 しばらくするとルウドルトが部屋に食事を運んできた。

 それを3人分、テーブルにきっちりとセッティングしていく。この男はいつも几帳面だ。


「ありがとう、ルウドルト。お前も食事に行っていいぞ。ここにはアレオンがいるから大丈夫だ」

「……では、食事を終えたらまた参ります」


 ルウドルトはひとつお辞儀をすると、部屋を出て行った。


「あの男は相変わらず生真面目だな」

「あれがルウドルトの良いところだ。補佐役として頼りにしている。……ただ、少し気負いが強すぎるかな。今はここに居るのが格上の実力だと認めているアレオンだったから素直に引いたが、そうでないと自分で完璧に安全チェックをするまで部屋から出て行かん」

「まあ、あいつは兄貴以外の国王は認めない奴だからな。何かあったら困ると思ってるんだろう」


 まだ前国王が生きている時から、ルウドルトはライネルを国王にすることしか考えていなかった。

 もしもレオが普通に後継者のひとりとして生活していたら、間違いなくあの男の排除対象になっていただろう。もちろん返り討ちにする自信はあるが、その場合はライネルが忠臣を失う羽目になっていた。


 レオが父から受ける不条理な処遇に逆らわなかったのは、厭世家ペシミストであったのと同時に、やはりこの類いの煩わしさに関わりたくなかったからだ。

 だからこそ、王族や王宮に対しての憎悪がライネルよりも薄くて済んだと言える。


「ルウドルトさんって、昔からライネル兄様の側近なんですか?」

「まあ、十代の頃からかな」

「……取りつぶし寸前の没落貴族だったのを兄貴が召し上げたんだ」

「権力の強い貴族の子息を側に置くと、父上の疑念を買ってしまう心配があったからね。ルウドルトは良い拾いものだったよ」


 そう軽く言って笑うライネルだが、実際は裏にもっと深い事情がある。

 ルウドルトの献身は相応の恩義があってのことなのだ。

 しかしそれを口にすることは無粋であると考える兄2人は、ユウトにそれ以上の説明をしなかった。


 すぐにライネルが促し、何でもないように食事を始める。


「ところで弟たちよ、今日の宿は決まっているのか?」

「いや、部屋探しは明日からにするつもりだからな。今晩は地下の俺の部屋に泊まろうかと思っている。あそこは一応シャワーもあるし」

「お前の部屋に? あそこのベッドはシングルだろう。2人で寝るには狭いぞ。それよりここで寝たらどうだ、私のベッドは大人5人くらいでも悠々と寝れる大きさだし。せっかくだから両手に弟で、挟まれて寝たい」

「きしょい」


 レオは兄と枕を並べて寝ることを考えて、眉間にしわを寄せた。何が嬉しくてそんなことをするというのだろう。

 そもそも別にライネルのベッドを借りなくても、地下で十分だ。ユウトを抱き枕にして寝れば大して狭さなんて気にならない。


 そんなことを思って口にした一言に、隣で聞いていたユウトが可愛らしく小首を傾げた。


「別にきしょくないと思うけど……。レオ兄さんが僕と寝たいって言うのと何が違うの?」

「うぐっ……!」


 思わぬ相手から痛いところを突かれて、レオは狼狽える。向かいでライネルがにやにやと笑った。


「だよねえ。私は普通に可愛い弟たちと寝たいと言ってるだけだし。ユウトは3人で寝るの嫌じゃないだろ? 自慢だが、私のベッドはふかふかで最高の寝心地だぞ」

「全然嫌じゃないです。ふかふかベッドで寝てみたいし……僕、ライネル兄様とレオ兄さんと一緒なの、嬉しいんだけどな」

「くっ……」


 控えめにもじもじと言う弟に、駄目だと言える正当性をレオは持っていなかった。

 自分を棚に上げて我を通すのは、ユウトからの『分別ある大人な兄』という評価を落とすことになりかねない。ここで拒否っておきながら地下で弟を抱き枕にして寝たら、なおさらだ。


「し、仕方がない……今日だけはここで寝てもいい。ただ、兄貴が真ん中だけは断固拒否する!」

「まあ、そこは私も譲ろう。ではユウトが真ん中でいいか? 可愛い末弟が両手に兄というのもいいだろう」

「それが一番平和か……」


 楽しそうに言うライネルに舌打ちをしつつ、レオはそれを請け合った。






 再び部屋にやってきたルウドルトに食器を片付けてもらうと、部屋に据え付けてあるシャワーを浴び、各々で寝支度をしてベッドに入った。


 ライネルが自慢した通り、マットレスはふかふかだ。ユウトは兄2人の間でくふふ、と笑った。


 血の繋がりがなくても、関係なく弟として構ってくれる兄たち。これはとても幸せなことだと実感している。

 彼らがこうして自分を護ってくれるように、ユウトもこの幸せな世界を護りたい。


 そのためにも、明日からの魔法の勉強を頑張ろうと決意する。

 兄たちが言うような、ひと月でランクS魔物を討伐できるまでは行かなくても。レオとランクSSSパーティとして十分戦えるようになれば、自分も世界を護っていると胸を張って言えるようになる。


「そうだ、明日は午前中からユウトを魔法学校に連れて行くが、大丈夫か?」

「ああ。その間に俺は部屋の手配と買い出しをしてくる。ユウト、気を付けて行ってくるんだぞ」

「うん。魔法の勉強、楽しみだな」


 レオでは教えられない範囲魔法や上位魔法。それを覚えられる、またとない機会なのだ。ユウトは意気込んでいた。

 それを見てライネルが苦笑する。


「最初からあんまり力を入れすぎないようにね、ユウト。ひと月は短いようで、毎日のこととなると継続が難しい。適度に休日を取るんだよ」

「はい、気を付けます」


 確かに、教えてくれる講師を休まず付き合わせるわけにもいかない。ユウトは素直に頷く。

 その隣で、レオが僅かに逡巡した。


「……ところで兄貴、魔法学校の講師にどこまで話してある?」

「今のところは何も。とりあえず、このことに関しては一切他言無用とだけは言ってあるよ」

「そうか。……そいつ、信用できるのか?」

「大丈夫だ。その点は私が保証する」


 他言無用? 何の話だろう。


「僕が魔法習うことって、秘密なの?」

「ん? ああ、いや、そうじゃなくてね……」

「……ユウトの魔法には特殊なのがあるから、それをバラされないようにってことだ。例えば、コレ」


 レオはこちらに手を伸ばし、左耳にあるブラッドストーンのピアスに触れた。


「召喚魔法だが、一般的に血の契約はしない。魔物との直接契約なんて知られたら、ヴァルドの方に迷惑が掛かるぞ」

「あ、そうなんだ。それは言わない方がいいんだね」

「ユウトはまだこちらの世界の常識を覚えきっていない。だから講師からそういうことがバレないように、他言無用として予防線を張っているだけだ」


 なるほど、そういうことか。ユウトは納得して頷く。

 そんな弟に、兄2人は何故かほっとした様子だった。


「ユウトは何も考えず、勉強に専念するといい。私たちがバックアップするからね」

「そうだな。お前は何も心配しなくて良い」

「? うん」


 過保護な兄たちはそう言ってユウトの頭を撫でるのだった。


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