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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、王都に到着する

 レオとネイは、窓際のテーブルについていた。

 ベッドの近くだとユウトを起こしてしまうかもしれないからだ。

 声も控えめにして、2人は話し合う。


「パーム工房とロジー鍛冶工房は、魔石燃料業界にも関わっているのか。何だかここまで来ると、この2社は敵対してるんだか結託してるんだか分からんな」

「ですね。同じことを同じようにやってるみたいだし。……まあおそらく裏で誰かが糸を引いていて、いいように踊らされているんでしょうけど」

「……魔研の連中か」

「隠れて動くにも、金と後ろ盾が必要ですからね。昔から悪事の片棒を担いでしまってますから、そそのかされたにせよ脅されたにせよ、ズブズブの関係になっていると思われます」

「愚かな奴らだ、表向きの悪事を全部負わされていることも気付かず……。ことが明るみに出たら、トカゲの尻尾切りであの連中は逃げおおせるんだろう」


 魔工爺様たちへの泥棒派遣ですら、わざわざ金を払って2社に手配させ、自分たちでは手を下さない徹底ぶり。元・魔研の連中はいつでも奴らを切り捨てられる立ち位置を作っている。


「ジラックの魔石燃料工場でも調査が必要ですかね」

「工場自体よりも、魔石の出所だな。……一応、鉱山から過去に死んだモンスターの魔石が発掘されることもあるが、上位魔石を手に入れる機構があるというのならそっちがメインだろう」

「魔研の降魔術式で召喚した高位魔物を倒してゲット、が一番ありえる形ですけど」

「まあ、それだろうな。ただ、降魔術式には生け贄が必要なはずだ。それをどうしているのか……」


 現状では何とも言えないし、ここまでくると自分がおさめる話でもない。そもそも情報が足りないうちは、憶測にしかならない。

 レオはこれ以上の思考は無意味だと割り切った。


「とりあえず、俺たちが率先して動く必要はないだろう。問題のある動きをしているなら兄貴たちが勘付いていないわけがない。王都に行ったら話をしよう。……お前は向こうに着いたらルウドルトたちと情報交換しておけ。ついでにあっちから調査依頼があったら手を貸してやれ」

「ユウトくんの護衛はいいんですか?」

「魔法の勉強中は問題ないし、それ以外は俺が護る。……万が一の時も、一応ユウトの下僕がいるからどうにかなるだろう」

「下僕? ユウトくんに? え、どこの誰ですか」

「……まあ、そのうち顔を合わせることになる」


 ユウトが半魔を従えていると説明するのも面倒臭い。紹介するのは2人がたまたま会った時でいいだろう。

 レオは椅子から立ち上がった。


「さて、明日も早いことだし、もう寝るぞ。王都に着いたらまた忙しくなるしな」

「あー、そうですね。今後色々やらなくちゃいけないこと増えた感じですし」

「……昔に比べたら、どうということもない」

「ま、それはそうですけどね」


 会話はここまで。

 ユウトを挟み、2人はそれぞれ自分のベッドに入る。

 静けさの中、弟の寝息が、面倒ごとに毛羽立った兄の心を穏やかにする。


 それを聞きながら枕元にあった魔石燃料のランプを消すと、レオたちはようやく浅い眠りにつくのだった。





 朝食を済ませ宿の外に出たのは、まだ太陽が地平に顔を出したばかりの時間だった。

 かなり早朝だが、宿駅にいる者は大体この時間に出立する。周囲はすでに宿を出る人や馬車で賑わっていた。


 皆が街道に向かって出て行く。

 そんな中ふと、僅かに逡巡したレオはその人波に逆らって歩き出した。


「レオ兄さん、どこ行くの?」

「……ちょっと気になることがある。ここで待っててくれ」


 ユウトをネイに預けて、レオは宿駅の奥にある建物を目指す。

 それは昨晩こそこそと荷物が搬入されていた、大きなレンガ造りの倉庫だった。外観を見る限り、窓は一つもない。

 しかし、正面の搬入口は大きく開いていて、中ががらんどうなのが一目瞭然だった。


(やはり、ただの物流在庫の置き場所だったのか……? だがその搬入準備をあの少人数だけで、あの時間にするだろうか。……この妙な空気感も気になる)


 この倉庫の中は何か違う空間になっている。おそらく、建物全体に何かしらの術式が掛かっているのだ。もちろん、一流店舗の倉庫には防腐+や劣化-などの属性や、建物内を低温に保つ術式などを付帯しているものもあるのだけれど。


(……ん? あの表号は……)


 レオはふと見上げた屋根の少し下に、倉庫の所有を示す印があるのを見つけた。

 見たことのない表号だ。店……というよりは、貴族の家紋にも見える。蛇のレリーフが印象的だ。


(気になるな……。ちょっと覚えておこう)


 周囲にこれ以上の情報はもうない。

 レオはその印を記憶に留め、ユウトたちの元に戻った。


「どうしたの、兄さん」

「あの倉庫が何か?」

「いや、特にどうということはないんだが、ちょっとな。あれはもういい。出発しよう」


 気に掛かる、というだけで結局何があったわけでもない。レオは軽く首を振って、2人を促した。

 不思議そうな顔をされたが、説明のしようがないのだから仕方が無い。今は王都に向かうのが先決だ。


 3人は少しだけ他の集団に遅れて、宿駅を後にした。






「広い!」


 王都の城門をくぐって、ユウトは目を丸くした。


「ユウト、迷子になるからあまり離れるなよ」

「まあ、ザインと比べたら王都は4倍くらいの大きさがあるからね。街中を巡るのにも馬車で移動しないと時間が掛かるんだよ」

「そうなんですか、すごい!」


 予定通り王都エルダーレアに着いた3人は、検問で手続きを終えて街に入り、大通りを歩いていた。

 ザインも大きい街だと思っていたけれど、王都は比較にならない。ユウトは興味深げに周囲をきょろきょろと見回す。すっかり田舎から来たおのぼりさん状態だ。


「まずは冒険者ギルドで拠点移動の手続きを済ませよう」

「うん。ここのギルドって大きいんだよね? 緊張するなあ」

「すみません、俺はここで一旦離脱します。隠れ家が放置しっぱなしだったんで」

「後で兄貴のとこにも一応顔出しておけよ」

「了解です。またね、ユウトくん」

「はい。ネイさん、ここまでありがとうございました」


 もともと王都を本拠にしていたネイは、どこかに隠れ家があるらしい。王宮で雇われていたと言っても、王宮内に住んでいたわけではないようだ。

 彼は勝手知ったるという様子で街の人混みに消えてしまった。


「レオ兄さん、僕らは今日どこに泊まるの?」

「適当にその辺の宿屋に入ってもいいが……。まあ、今日だけなら王宮でもいいかな。冒険者ギルドに行った後は兄貴に会いに行くから」

「そうなんだ。ライネル兄様に会うの久しぶりだね。楽しみ」

「兄貴もユウトに会いたがってた。あの人には立場やしがらみ関係なく可愛がれる相手はなかなか居ないからな」


 その言葉に、ユウトはちょっと恐縮しつつも微笑んだ。

 レオもそうだが、血の繋がらない自分を弟として可愛がってくれる兄たちに、ユウトは感謝しかない。少しばかり過剰な愛情がこそばゆくはあるが。

 だから会いたがっていた、と言われれば、純粋に嬉しい。


「兄貴の構いたがりはすごいから、王都にいる間は大変だぞ」

「平気。構ってもらえたら嬉しいもん。それにレオ兄さんの構いたがりだって、結構なものだと思うよ?」

「……そうか?」


 本人はあまり自覚がないらしい。納得がいかない様子で首を捻るレオに、ユウトはくすくすと笑った。




 大通りを少し歩くと、冒険者ギルドの看板を見つけた。


「……大きい」


 ルアンに聞いてはいたが、ザインの冒険者ギルドより二回りくらい大きい建物だ。どうやら2階建てらしい。


「王都に拠点を置く冒険者は桁違いに多いからな。1階は全て依頼受け付けのフロア、2階が完了報告のフロアになる」


 説明をしながら扉を入るレオの後についていく。

 入って右側の依頼ボードにはランクAとランクB、左側にはランクCとランクDのクエストが貼ってあった。ザインよりも断然広いスペース。ここが人で埋まるというのだから、ユウトひとりでは太刀打ちできる気がしない。


 正面にはずらりと受付窓口。

 レオはその中から、寡黙そうな青年の窓口を選んで声を掛けた。


「拠点移動の手続きをしたいんだが」

「……かしこまりました。ギルドカードを提示して下さい」


 見た目通り、無駄口は一切叩かないタイプの受付のようだ。レオ自身も世間話などしたくないタイプの人間なので、ちょうど良いのだろう。兄と同じタイプと思えば、ユウトも特に苦手な相手ではない。


「お願いします」


 レオのカードと一緒に自分のカードも差し出す。

 その際にちらりと顔を見られたけれど、おそらくユウトが男だということを一瞬確認しただけだろう。そのまま何の会話もなく手続きが終了した。


「……手続きが完了しました。カードをお返しします。王都冒険者ギルドについてのご説明は」

「いらん」

「かしこまりました」

「エリアマップだけくれ」

「はい、銀貨2枚です」

「カード」

「ではここに親指を」

「承認」

「支払い完了です」


 え、何コレめっちゃ早い。

 2人はそのまま挨拶をすることもなく、やりとりを終了した。


「行くぞ、ユウト」

「うん。あ、あの、ありがとうございました」


 とりあえず、手続きをしてくれたことにお礼を言う。多分こういうのを必要としないタイプの人なのだろうけれど、ユウトがこの2人の淡泊なやりとりに耐えきれなかった。

 ぺこりとお辞儀をすると、彼も一応僅かにお辞儀をしてくれたのだけは救いか。


 王都で最初に接した人は、だいぶ個性的だった。


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