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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、外が気になる

「うわあ! 広い! ベッドふかふか! あ、こっちにお風呂ある!」


 高級宿の部屋に入った途端に、ユウトがテンションを上げた。

 部屋中を子犬みたいに歩き回ってはしゃぐ弟は、兄にとって多大なる癒やしだ。その様子を堪能していたいのだが。


「ユウトくん、どのベッドにする? 俺は端っこが良いな~」


 ネイ(こいつ)がいるせいで、ゆっくりとユウトを愛でるわけにもいかなかった。


「僕はどこでもいいですけど。レオ兄さんはどこがいい?」

「外からの襲撃に備えてネイが窓側、ドアからの侵入に備えて俺が廊下側、ユウトは真ん中だ」

「うわー。何その全然ワクワクしない決め方。高級宿はセキュリティがしっかりしてるから、そうそう襲撃なんてないのにー」

「絶対安心というわけじゃないだろう。つべこべ言わず従え」

「はいはい。まあ、端っこには変わりないからいいですけど」


 説明すれば納得して従う素直なユウトと違い、この男はいちいち文句が多い。もはや、ぶん殴られたくて言ってるんじゃなかろうかとすら思う。この変態ならあり得る。

 喜ばれたら不愉快なので、最近は滅多に手を出さないようにしているが。


「……さて、まずは食堂に行くぞ。ちょうど夕食の時間だ」

「夕食かあ。ここの宿、バイキング形式なんだよね? 楽しみだな」


 この宿では、夕食も朝食も好きな物を自分で取るバイキング形式らしい。席は決まっていないから、行くなら最初か、人が捌けた後だ。

 だったら作りたてを狙い、最初が良い。

 2人を促すと、不意にネイは僅かな逡巡をした。


「今日の他の客はキャラバンの団体さんだって言ってたよなあ。このランクの宿屋に団体で泊まる商人か……。何かめぼしい話が聞けるかも。……レオさん、俺食事中はちょっと離脱して、他のテーブル回ってみようかと思うんですけど」

「ああ、この辺の流通に探りを入れるのか。分かった」


 おそらく、この宿の団体客は全国区の商人だと踏んだのだろう。ネイは情報収集に向かうようだ。相変わらずこういうところはマメな男だ。


「俺たちは適当に食ったら部屋に引き上げるが」

「俺の方は夕食時間帯いっぱいまで食堂に居ます。何かいい話があれば後でご報告しますね」

「ああ」


 3人はそれから一緒に食堂に向かうと、その入り口で分かれた。

 レオはユウトを連れて2人掛けのテーブルを確保し、料理を取りに出る。すでに食堂は人でいっぱいだったが、それでも10分もすれば自分の食べたいものを全て皿に乗せることができた。


 レオに遅れて席に戻ったユウトは、好きな物だけが乗っているプレートを眺め、興奮気味だ。可愛い。


「全部美味しそうで悩んじゃった。こういうの、選ぶだけで楽しいよね。いただきます!」


 丁寧に両手を合わせると、ユウトは肉厚のローストビーフをフォークに刺し、それを口に運んだ。一口が大きかったようで、リスみたいになっている。


「美味いか?」

「んむ、んむ」


 答えられないのが分かっていながら訊ねたレオに、ユウトは咀嚼をしながら頷いた。そしてようやく嚥下すると、小さく苦笑する。


「ん、美味しい。……けど、ダンさんやルアンくんの料理の方が好きかも。ちょっと味が濃いのかな、味付けの主張が強いね」

「どれ。……ああ、確かにな。ダンやルアンが素材やダシがメインの優しい味付けだから、特にそう感じるのかもしれん」


 高級宿らしく間違いなく美味しいのだが、好みとなるとちょっと違う。もちろん不満があるわけではないから、全てありがたくいただいた。おかわりだってした。


「そういえばレオ兄さんが作ってくれる料理もすごく好きだったけど、こっちに来てからそんな機会ないね」


 食事の締めのカフェオレを飲みながら、ユウトがちょっと残念そうに笑う。


「それを言ったら俺だって、ユウトの作るオムライスを食いたい」

「そうなの? でも、宿にいると自炊なんてしないもんね」


 確かにそうだ。安い素泊まりの宿屋なら共同で使うキッチンはあるが、到底ちゃんとした料理を作れるような環境じゃない。

 ……王都ではちょっと何か考えてみよう。


 食事を終え、2人は席を立った。

 ネイが食堂の奥で恰幅の良い男と酒を酌み交わしているのを横目で見つつ、そのまま部屋に向かう。


 部屋に着くとお腹がいっぱいになって眠くなったのか、ベッドの縁に腰掛けたユウトがくあ、と子猫のような欠伸をした。

 今日はだいぶ歩いたし、疲れも出ているのかもしれない。


「ユウト、お腹がこなれたら風呂に入るといい。慣れない距離を歩いたから疲れたろう。明日も同じくらい歩くし、今日は早めに寝てゆっくり休め」

「……うん、そうする」


 少し緩慢な動作でローブを脱いだユウトが、それをクローゼットに掛ける。そしてポーチからふわもこパジャマと替えの下着を取り出し、お湯を張るために風呂に向かった。


「追い炊きできないから、ネイさんが戻ってくる頃にはお風呂冷めちゃうかも」

「平気だ。多分あいつは大風呂に行く」

「そうなの? なら良かった」


 この宿には部屋風呂以外にも下の階に大きな浴場がある。情報収集に余念がないあの男は、おそらくそちらに向かうだろう。


「じゃあごめん、レオ兄さん。先にお風呂いただくね」

「湯船の中で寝るなよ」

「うん、気を付ける」


 そうしてユウトが風呂に行くのを見送ってから、ひとりになったレオはそっと窓際に移動した。


 この宿駅は移動の中継地点であり、ほぼみんな明日の早朝に発つため、夜更かしを促す娯楽施設や飲み屋のような場所はない。この時間になれば外を歩いている人間などほとんどいない、はずなのだ。

 ……なのにさっきから、外でこそこそと動く者の気配がする。それがとても気になった。


 レオはカーテンの隙間から外を覗き、暗闇に目をこらす。

 気配を殺せていないところを見ると、盗人ではなさそうだが……商人? 2・3人が大きな倉庫らしき場所を出入りしている。


 まあ、宿駅は物流の中継地点でもあるから、明日運び出す品物の準備をしているだけかもしれない。気の回しすぎか。

 しばらく眺めていたが、大きな動きは何もなかった。


「レオ兄さん、上がったよ。お風呂どうぞ」


 結局ユウトがお風呂を出るまで何も起こらず、窓際から離れてレオも風呂に入ることにした。

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