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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、兄の気負いを取り除く

「あの男の中に、クリスと狐がいる……?」


 エルドワの言葉の意味が分からず、レオは首を捻った。だってその二人は、取り込まれたわけでもなく今も目の前にいるのだ。

 もしかして、初代王の中にクリスとネイの魂が複製されたということだろうか。


「カリスマは人々から集めた信頼を糧にして、大局を動かす力を得るスキルだが……あの呪いの剣によって、その効果がどう歪められたというんだ……?」

「それは分からないけど、憎悪の大斧(ヘイトアクス)が持てるってことは、クリスと同等の力があいつに宿ったってこと。たぶん同じように、ネイの力も」

「……つまり今あの男には、クリスの技量と狐の素早さが宿ってるってことか?」

「そういうことだと思う」

「面倒臭え……」


 レオはうんざりとした溜息を吐いた。

 クリスとネイ、それぞれと単独で戦うのなら、決して負けない自信がある。だがそれが合わさるとなると、だいぶ厄介だ。クリスに足りないスピードとネイに足りない腕力、その欠点を互いに補い合えば、戦士としての質が上がるのは必然なのだから。

 二人の力はただの合算ではなく、初代王の中で相乗効果を生む。考えただけで面倒だ。


 それに加え、本人たちもそこにいる。

 二人はこちらに攻撃を加えてくることこそあるまいが、おそらくレオの邪魔をしようとユウトを奪いにくるだろう。それを力で撃退すれば、今度はユウトが仲間に攻撃したレオに不満を示す。

 弟の仲間思いは美徳であるし、それこそがユウトが彼らに可愛がられ信頼される所以ではあるのだけれど、その結果怒られた己は死ぬほど凹まされるのだからたまらない。本気で怒ったユウトはマジで怖いのだ。


 となれば、選択肢はひとつ。自分は初代王だけを相手にし、クリスたちとの戦闘を回避するしかあるまい。

 レオは渋々と抱えていた弟を下ろした。


「……エルドワ、お前デカい姿になれるか?」

「もちろん。ユウトの血があればなれる」

「だったらそれで、ユウトをクリスたちに奪われないように護ってくれ。俺はその間にあの男……と言うか、呪いの剣をぶっ壊す」

「それは良いけど……クリスとネイは、レオに攻撃しない?」

「俺だけじゃなく、ユウトにもお前にも攻撃はしないだろ。あの男に心酔した状態になってるだけで、俺たちの敵に回ったわけじゃないからな」

「……あれ? じゃあなんでエルドワだけはレオ兄さんに攻撃しようとしたの?」

「ん? そういや、確かに……」


 言われてみれば、なぜエルドワだけ正気を失って、かつレオを攻撃して来ようとしたのだろう。ユウトの言葉に、レオも首を捻る。

 クリスはカリスマに掛かってもこちらと敵対はしないだろうと予想していたけれど、もしやその予測自体が間違っているのだろうか。だとしたら、クリスとネイも攻撃に加わってくる可能性が出てくるが……。


 その懸念に眉を顰めた兄の隣で、弟がふむと思案顔で呟いた。


「もしかして、半魔だからかな?」

「……半魔だと何かあるのか?」

「半魔だとっていうか……人間じゃないから。ほら、あの呪いの剣に使われてるのって賢者の石でしょ。あれって人間界のもので、クリスさんも言ってたじゃない。『創世主よりも人間の魂との親和性の方が高い』って。ということは、半魔の魔性ませいと相性が悪いんじゃないかな」

「……確かに、そう考えるとあいつの賢者の石によって増幅されたカリスマは、人間以外にだと誤作動を起こさせるのかもしれんな」


 ユウトの言葉で、レオは先ほどの初代王の言葉を思い出す。

 彼はエミナを魔族に襲わせたのは自分だと言ったけれど、元々その意図がなかった上に、それらを呼び寄せたのがエミナの仕業だったというのならば。

 初代王は最終戦争時、本当は魔族をカリスマによる支配下に置いて無力化するだけのつもりが、魔性による誤作動で制御不能になり、結果的にエミナを滅ぼしてしまう羽目になったのではなかろうか。


 そういう経緯があるからこそ、彼はエルダール王家の血にある『カリスマ』のスキルの存在を一族に伏せ、継承しなかったのだ。その力を利用しようとする者が、二度と現れないように。


「……その思いを踏みにじられて、今こうして剣に宿され利用されてるんだから、そりゃあ殺して欲しくもなるか」


 この迷宮の通路で話していた時、呪いの剣との契約が「欲深で愚かになる効果」ではないかと皮肉を込めて放ったレオの言葉も、あながち間違いではなかったのかもしれない。復讐霊にとっては御しやすくなる反面、カリスマは発動しなくなるのだから。


(そもそもあの剣の契約のベースは隷属化だろうが……以前ジアレイスと親父があれに術式を刻んで兄貴を操れたことを考えれば、その他の効果は書き換えが可能なんだろう。もしくは書き込みのみで消去はできないか……。どちらにしろ、契約によってカリスマが発動しづらくなるような何らかの術式を、初代王が刻んでいた可能性は高い。逆に考えれば、剣との契約がなされなかったからこそ兄貴はカリスマを発動できたんだ)


 復讐霊を消滅させない限り、世界の危機は続く。その累卵の危うきにある状況を、カリスマを失ったエルダール王家を操らせることで留めていたとすれば。初代王がそうして時間を稼いでいる間に、リインデルの村で復讐霊を倒す研究をさせるため、クリスの先祖たちを匿っていたのだとすれば。


(……親父と俺たちの代で、初代王の思惑を全てぶち壊したことになる)


 リインデルの村は父王のせいで消失し、ライネルは復讐霊との繋がりを拒絶し強力な『カリスマ』を取り戻した。レオも対価の宝箱でその繋がりを得かけたが、グラドニの助けによって脱している。

 これは、ここまで犠牲になっていた先代たちから怨嗟を受けるのも仕方のないことか。レオは目の前にいるエルダール王家の怨念の塊を見つめた。


(まあ、それを申し訳なく思うのも馬鹿な話だな。俺はその終わりの見えない血族の呪いを断ち切ってやろうというのだから、感謝して欲しいくらいだ)


 この剣に復讐霊の意思が繋がっていないのなら、この先代たちの怨念を切り捨てて、剣を破壊すれば呪いは終わる。ライネルの持つカリスマは何に脅かされることもなく、人々を導く光となるだろう。

 国が安定すれば、ユウトとの平和な日常だって近付く。

 そのために今こそ己が、ここで一族の闇を清算するのだ。


「レオ兄さん」


 そんな決意をした兄に、ユウトが声を掛けてきた。見れば、すでに大きな人型になったエルドワに抱えられている。自分より筋肉のある男に弟が守られている、その絵面についむかつく心の狭いレオだが、自分が命じた手前、さすがにそこに突っ込むのは堪えた。


「……どうした? まさか、あいつまで倒すなとは言わないだろうな」


 さっきまで初代王だった男を指差す。見た目は変わっていないが、すでに中身が違うのは一目瞭然だ。クリスとネイを操っているのもあの男となれば、もはや倒す以外に選択肢はない。

 そう告げると、ユウトは首を振った。


「そうじゃなくて。……一人で戦うしかないと思ってるんだろうけど、僕たちも戦えるから。それを忘れないで、って」

「お前も戦う……? しかし、あいつに攻撃できるのか……?」

「あの人の相手はレオ兄さんに任せるよ。……でも、この元凶である剣の方なら、僕でもどうにか役に立てると思う。クリスさんとネイさんはエルドワが引き受けてくれるし、キイさんとクウさんだっているんだから」


 エルダール王家に連綿と続いた呪いの歴史。そこから作り上げられたのがこの怨念だ。それゆえ、呪われた血の末裔である自分こそがなすべき討伐。そう思い込んでいた兄に、ユウトは敢えて仲間の存在を説いた。

 仲間が、いる。その言葉にはたと視野が開ける。

 いつの間にかレオは、自分が単身で突っ込んでいくしかないと思い込んでいたからだ。


 ……さっき自分以外の全員の心を初代王に持って行かれたのが、地味に響いているらしい。それに心乱されまいと、無意識に単身で戦っていた頃のような線を引いてしまっていたのだ。

 もう、あの頃とは違うというのに。

 レオは、一度気の抜けた溜息を吐いた。

 一人で全てを抱えようとして、ずいぶん肩に力が入っていた自覚がある。それに気付けただけで、心の重さが変わった。


「そうだな……お前たちのこと、あてにしているぞ」

「うん!」


 ユウトの意気込んだ返事が兄に力をくれる。

 お前が俺の味方だから、俺は何者にでも立ち向かえるのだ。



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