表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

751/766

弟、敵の能力を考察する

ポメラが修理から戻ってきました! やっぱり一番打ち込みやすい~

 ここにいる魔王が本物。

 ユウトの言葉にレオは困惑した。だってこのゲートで手に入るアイテムや登場した者は『現実世界で過去に失われたもの』だと考えていたからだ。

 確かグラドニも、ここにあるものは次の世界に持ち越すべき重要なファクターで、失われたものを虚空の記録(アカシックレコード)から再生成しているのではないかと言っていた。


 だとすれば、死んでもいないはずの本物の魔王がここに再生成されるなど、あるわけがない。というか、いくら虚空の記録のデータがあるとはいえ、まがい物でない魔界の創造主を生成などできるとも思えない。


 レオは困惑しつつ黒い卵を見る。

 ……あと考えられるとすれば、本物の魔王が何らかの理由で王宮の地中からここに召喚された可能性だが。それだけならまだ理解できなくもないのに、なぜこの卵は黒く、さらに魔王と呪いの剣が「混ざっている」なんてことになっているのか。

 マジでわからん。


 元々の定義が何か間違っているのだろうか?

 実際グラドニだってランクSSSゲートに入ったことはなく、すべては想像の域を出ないのだ。もしかするとアイテムの再生成の定義自体、自分たちの予想とは違うのかもしれない。

 唯一確かなのは、攻略難易度が爆上がりしたということだけだ。


 ……己を隷属している魔王に相対して、攻撃などできるのか。敵と混じっている意思、その主体はどこなのか。

 最悪の事態は、十分起こり得る。


「どうしたの、レオくん。難しい顔して」


 ユウトに耳打ちをされてからずっと顰めっ面をしているレオに、クリスが首を傾げた。見れば弟も黙ってしまった兄に心配げな顔をしている。このまま何も言わずに戦闘に向かうのかと危惧しているのだろう。レオは不安そうなユウトの頭を撫でて、クリスとネイを振り返った。


「……魔王と戦う羽目になるかもしれん」

「「は?」」


 二人がハモって疑問符を浮かべる。足下のエルドワはユウトの耳打ちが聞こえていたのだろう、特に驚いた様子はない。

 レオはクリスたちだけに向けて言葉を続けた。


「この卵の中に、呪いの剣と合体した魔王がいるらしい」

「はああああ?? 魔王!? 待って待って、レオさん、話が唐突過ぎるんだけど!?」

「ま、魔王って、魔王だよね……!? 何でこんなところにいるんだい? ていうか、呪いの剣と合体してるってどういう……?」

「魔王がこの迷宮にいる経緯は後で話す。本来は魔王がこの卵の中の異空間で、呪いの剣が悪さを働かないように閉じ込めていたはずなんだが……なぜだか今はその剣と混じっているそうだ」

「レオさん、じゃあ魔王は現実世界で失われてて、ここで再生成される際に呪いの剣と合成されたってことですかね?」

「いや、魔王は普通に向こうの世界に存在してたはずだ」

「それなら、ここにいる魔王はゲートが作り出した偽物ってことかい……?」

「それが、ユウトが言うには本物らしい」


 そう言って弟に目配せすると、皆にも話していいのだと理解したユウトは一つ頷いた。


「偽物に感じるような魔力の濁りがないんです。純度が高くて強力なこの魔力は、複製ではないと思います。ただ、呪いの剣の魔力と絡まり合ったみたいになってて……」

「混ざってるといっても、融合しているというわけじゃないのかな? まあ、創造主と融合できるものなんてそうそうないだろうけど……あ、そうか、考えてみたらネイくんも一時期大精霊と魔力が混ざってたんだよね。もしかして同じような状態?」

「言われてみれば、そうかもしれません。ネイさんはそんなに魔力が強くなかったからひどい混ざり方はしてませんでしたけど」

「……なるほど、狐の中に大精霊の魔力の一部が入ってた時と同じ状況か。だとするなら手の打ちようはあるな」


 大精霊がネイと混ざったのは、大精霊がこの男に一時的とはいえ憑依しようとしたからだ。ということは今魔王が呪いの剣と混じっているのは、剣に憑依した状態だと考えられる。なぜそうなっているのかは知らないが、ならばするべきことは変わらない。


 呪いの剣の破壊。

 ネイが一度死んだことで大精霊との分離ができたように、魔王と絡まった剣の魔力を完全に停止させればいい。


 ただ問題なのはやはり、隷属契約の主たる魔王にレオが刃向かえるのかという点だ。

 直接的に兄の命を握っているのはユウトだが、そのつながりを魔王に絶たれてしまえばレオはすぐに死んでしまう。先ほど弟の前ではユウト愛を証明するために魔王を倒そうかなどと嘯いたものの、実際問題として立場はレオが圧倒的に不利。


 呪いの剣と魔王が混ざっているという状況がどう作用しているかで、戦況は大いに変わってくるのだ。


「でも、レオさん。もし魔王と呪いの剣が混じっているとしたら、戦闘にならないんじゃ? 魔王が本物なら、その自我が『復讐霊の魔力の一部を内包しただけの剣』の支配下に入るとは思えませんし。魔王の自我が優勢なら、息子であるユウトくんと敵対はしないでしょ?」

「……戦闘をせずにこのフロアを通過できるなら、それに超したことはないがな。だが、本物の魔王がここにいるというイレギュラーは、確実にそれ以上の存在が引き起こした事象だ。その上、呪いの剣に填まっている賢者の石の欠片がどう作用するかも分からん。あまり楽観視はできないだろう」

「ああ、賢者の石は創世において、創造主である大精霊と序列は同等くらいだもんね。欠片だから威力としては落ちるだろうけど、そこに上位存在……世界樹の干渉があったとしたら、確かに分からないな。ジードは世界樹には善悪の別も意思もないと言っていたから、何かシステマチックな理由なんだろうけど」


 ネイとレオのやりとりを聞いたクリスが、ふむと顎に手を当てて考え込む。レオと同様、このゲートの成り立ちについて認識を変える必要があると考えているのかもしれない。

 そんなレオたちの隣でユウトもまた思案顔をしていたが、やがて何かに思い当たった様子で、おもむろに胸元からごそごそと何かを取り外した。


「……レオ兄さん、この先どうなるか分からないから、これ着けてて」

「これは……タイチ母に作ってもらった、俺とセットのブローチか?」


 弟が差し出したのは、以前瘴気対策にとパーム工房で作ってもらった兄のペンダントと対になるブローチだ。瘴気を魔力に変換し、溜めておくもの。

 どうしてここでいきなりこんなものを。不思議に思って訊ねようとしたが、ユウトが珍しく表情を険しくしているのを見てレオは言葉を飲み込んだ。


「万が一父さんに何かあって僕とレオ兄さんの魔力の紐付けが切れたとしても、一時的に生命活動を維持するだけの魔力はここから供給できると思う。……戦闘中も魔力の補充はできそうだし」


 このブローチには以前リインデルに行った時に溜められた魔力が入っている。ユウトからの魔力が絶たれても、これがあるうちは普通に動けるということだろう。

 なるほどと受け取って、しかし最後に付け足された言葉にレオは首を捻った。


「……戦闘中も魔力の補充ができる……? 瘴気もないのにか?」

「瘴気は多分、ある。……僕、思い出したんだ」

「何を? ……もしかして、魔王から瘴気が出てるのか?」


 魔王はそもそも魔界の創造主だ。その身体から瘴気があふれていてもおかしくはない。卵の中で会った時に触れていたのはユウトだけだったから、それを思い出したのだろうか。

 しかしそう訊ねたレオに、弟は首を振った。


「瘴気を発してるのは呪いの剣だよ。父さんが僕に『剣に触れるな』って言ってたでしょ。あの時確かに剣から変な感じがしてて、それが何かと思ってたんだけど。……多分あの剣は魔界鉱石の中に、少量の悪魔の水晶(デモンクリスタル)が入ってたんだ」

「悪魔の水晶だと……!?」

「うん。きっと僕が触れると別の作用が起こっちゃうから、父さんは触れるなって言ったんだと思う」

「何、何? 何の話ですか?」


 レオとユウトにしか分からない話、そこに興味津々とネイが首を突っ込んでくる。その邪魔者を反射的にぶん殴りそうになったが、しかしその前にユウトがそちらに意識を向けてしまったから、仕方なしに舌打ちだけで済ませた。

 おそらくこれは、皆に聞かせた方がいい話だと弟が判断したのだろう。明らかに機嫌を損ねたレオを宥めるようにこちらの腕を撫でたユウトが、二人に向かって口を開いた。


「ネイさんとクリスさんも、一応瘴気無効のアイテム装備してください。多分威力を完全に無効化はできないけど、効果を弱めるくらいにはなるかもしれない」

「瘴気無効? ユウトくん、それはどういうことだい? 敵が、瘴気を放ってくるってこと?」

「そんな感じです。……あくまで僕の予想ではあるんですけど、父さん……魔王はおそらく、現段階では自我が吹っ飛んでるんじゃないかと思います。問題はその力を取り込んでる呪いの剣で……」


 ここまでの話を聞いていて、何か気付いたことがあるらしい。ユウトは難しい顔をしたまま、独り言のように小さく唸った。


「エルダール初代王のカリスマが桁外れに強力だったのは、きっと呪いの剣のせいだったんだ」

「……どういうことだ? ユウト」

「呪いの剣に入っている悪魔の水晶は、人間の致死量に満たない少量の瘴気が込められてた。それは賢者の石の欠片によって増幅ブーストされて、周囲に広がる……。それがカリスマの発動で作用するように術式が組んであったら、きっと相乗効果が生まれると思う」

「瘴気が周囲に広がる……? ユウトくん、それってもしかして」


 クリスも何かを察したらしい。そんな男にひとつ頷いて、ユウトは自身の推論を告げた。


「初代のカリスマは、同時に急性で広範囲の瘴気中毒を起こすことで支配力を強めて、逆らえない仕組みになっていたのかもしれない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ