弟、血の契約を了承する
血が欲しいってどういうことだろう。
ヴァルドの言葉に困惑するユウトに、レオが横から補足をした。
「そいつ、魔物なんだって」
「……は? 魔物?」
「いえ、半分だけです! 半分は人間です!」
「吸血鬼と人のハーフ。ダンピールだそうだ。……しかしまあ、見ての通り特に怖れる必要はない」
確かに目の前の男はただそわそわオドオドとしていて、怖い感じはしない。あの鋭い犬歯は吸血鬼だからか、と思った程度だった。
それに、レオが彼を敵視していない。それだけでもユウトとしては十分な安心材料だ。
「つまり、半吸血鬼のヴァルドさんは僕の血が吸いたいってこと?」
「あっ、ええと、有り体に言えばそうなんですけど、肝心なのはそこに至る理由の方で……」
「そいつ、ユウトの下僕になりたいらしいぞ」
「あ、一言で言えばそういうことです! 下僕にして下さい!」
「え、ちょ、待って何それ!?」
いきなり話が飛躍して、ユウトはさらに困惑した。
しかしヴァルドは気にせずまくし立てる。
「私を召喚魔として使役するために、血の契約をして欲しいのです! 救済者たる我が主のためなら、何でも致します! 神にも魔王にも刃向かいましょう!」
「な、何か話が大きい! よく分かんないんですけど、何で僕に使役されたいんですか!? 吸血鬼って、血を吸った相手をしもべにするってイメージなんですけど……」
そう疑問を投げかけると、あっさりと首を振られた。
「純血の吸血鬼とハーフのダンピールは似て非なるものです。もちろんそういう芸当も出来ないわけではないですが、そこに価値を感じないので……。私が欲しいのは、全身全霊でお仕えできる主です。そして、私の全身全霊の力を引き出せる血液を持つのが、他でもないあなたなのです」
結局どうして使役されたいのかの回答がなされていないけれど、それよりもユウトは自身の血を特別視されたことに首を傾げた。
「僕の血は、他の人と何か違うんですか?」
「もちろんです。あなたの周囲にたゆたう魔力溢れる香りだけでも素晴らしい。私も大概稀有な存在ですが、あなたの存在は奇跡に近い」
「僕の存在が? ……もしかしてヴァルドさんは、僕が何者か知っているんですか?」
「……おい。話が逸れてるぞ。契約をするかしないかだろ」
ユウトがヴァルドの言葉に反応したところで、不機嫌そうに小さく舌打ちをしたレオに、話を強制的にぶった切られる。
睨まれたヴァルドは、ピッと緊張したように背筋を伸ばし、話を戻した。
「そ、そうですね。つまりまとめますと、あなたの召喚魔になりたいので血の契約を交わして頂けないでしょうか? ということなのです」
「血の契約って、名前からして何か怖い……」
「いや、怖くないですし全然痛くしません! 純血の吸血鬼と違って量もそんなに要りませんし! 召喚する時も血を一滴くらいしか使いませんし!」
「……召喚の時も血が必要なんですか?」
「うっ、それは……。その、さっきも言いましたが、私はあなたの血がないと本来の力が発揮できないのです……。こればかりは許容頂きたく……。でも、その時に作った傷は、その場で痕を残さず綺麗に治せますので!」
必死の訴えに嘘やごまかしはない。
このヴァルドという半魔は、だいぶ真面目な男らしい。
そしてレオがこの段で口を挟んで来ないということは、ユウトに彼への判断を任せているのだ。さて、ではどうしようか。
「……具体的に契約のやり方を訊いても?」
「はい、ご説明します! まず、最初の契約の痕だけは消せませんので、それだけお許し下さい。あ、でも全然痛くはないですから!」
「痕が残るんですか……。場所は首筋?」
「いえ、それでは目立つので耳朶に。そこの痕に、この契約の証を着けて頂きます」
ヴァルドが差し出したのは、ピアスのような物だった。フックのような曲線を描く白くて細い鋭利なピンに、小さなブラッドストーンが付いている。
「……ピアスホールを開けるみたいな感じかな。だったらそんなに怖くないかも……。その契約の証とは?」
「私を使役している主の証です。私を召喚する時、このピンの先端で指先を刺すと、全く痛みを感じずに少量の血を出すことができます。重ねて言いますが、召喚された時にちゃんとその傷は治しますからご心配なく」
「本当に、少しの血でいいんですね」
「あなたの血は含有する魔力が強く美味すぎるので、それくらいでいいんです。飲み過ぎると自分の魔力のバランスを崩してしまいますから……。他の者だとこうは行きません」
とりあえず、心配していたほどの血は必要ないようだ。
だったらまあいいか、と思う。
ヴァルドにとって自分の血が特別であることに間違いはないようだし、こちらとしても仲間が増えるのはありがたいのだ。
これから高ランクゲートにも入るとなると、特に召喚ができることはプラスになる。
「……分かりました。ヴァルドさんと召喚の契約をします」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます、我が主!」
血の契約を受け入れることを告げたユウトに、ヴァルドは嬉しそうに口元をほころばせた。
しかしユウトは少し困った顔をする。
「ヴァルドさん、その呼び方やめてくれませんか。落ち着かないっていうか……。ユウトって呼んで下さい」
「そんな、主に向かって馴れ馴れしい……」
「馴れ馴れしくていいですよ。そっちの方が嬉しいです」
「わ、わかりました、ユウト様」
「様もやめて下さい! せめて付けるなら『くん』で」
「……ユウトくん、ですか」
「はい、それでいいです」
ユウトが笑顔を浮かべると、ヴァルドも困惑気味にではあるが微笑んだ。




