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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、賢者の石の成り立ちと王家の固有スキルを知る

「賢者の石の成り立ち?」

「うん、そう。賢者の石が虚空の記録(アカシック・レコード)にアクセスする鍵なのは知っての通りだけど、そもそも世界の創世時に発現する必須アイテムなんだよ。魔界でも名前違いで存在しているね」

「ああ、全なるあかってやつか」


 確か魔王がルガルに管理させているものだ。世界にひとつ、必ず存在するキーアイテム。それを思い出して口にすると、クリスが意外そうに目を丸くした。


「レオくん、全なる赫を知っているの? これは魔界語で書かれた文献にしか出てこないのに」

「……魔界の奴に聞いたんだ。ルガルが厳重に管理しているらしい」

「そういえばレオくんはルガルと面識があるんだっけ。ヴァルドさんもおそらく知ってるだろうし、知る機会があったのかな」

「……まあな」


 嘘は吐いていない。実際聞いたのは魔王からだが、そこは敢えてスルーする。兄が魔王についてまだ話す気がないのだと理解しているらしいユウトも、そのままスルーしてクリスの話を促した。


「賢者の石も全なる赫も、創世時の世界の理を作るためのものだって以前ジードさんが言ってましたよね」

「うん。で、それだけの魔力やマナを内包しているアイテムが、何でできているかって話なんだよ」

「……そんなもん、人知の及ばぬ素材だろ。世界樹から与えられるんだろうし」


 創世の時に発現するのなら、他にそれをもたらす者はいないだろう。問う意味が分からないと思いつつレオが答えると、クリスは曖昧な笑みを浮かべた。


「そうかもしれないし、違うかもしれない。実は創世の石の成り立ちについては様々な考察がされているんだ。私は魔界の文献で見た説しか知らないけど、もしかするとエミナでも研究されていたかもね」

「……他の可能性があるってことか? だが世界の理を担うほどのチートアイテム、世界樹以外に誰が用意できるっていうんだ?」

「それはまあ、そうなんだけど。でもね、世界樹ってさ、私たちが思うよりずっとシステマチックなんだ。その判断には感情も善悪も介入しないし、綺羅星の数ほどある枝葉世界の中のひとつに、いちいちリソースを割いたりもしない。魂の輪廻もそうだけど、この世界は循環こそが成り立ちの肝だ。私は創世の石が、その過程で生まれたと考えているよ」

「循環……」


 ひとつの世界が滅び、新たにひとつの世界が生まれる。これがまさに循環だ。クリスはこれが体系化されたもので、いちいち世界樹が介入などしないと考えているわけか。


「破壊と創造、その繰り返し。私がこの説を推すのには色々理由があるんだけど、話すと長くなるから今は割愛するね。まあひとまず、世界が壊れる時に賢者の石も砕け散り、世界が創世される時に新たな石が生成されるのだろうってことなんだ」

「それなら、賢者の石の材料は前の世界の賢者の石ってことだろ」

「うーん、間違ってはいないんだけど、それほど単純ではないっていうか。創造主がさ、その石を使ってやることを思い返すと、どう考えてもそれだけでは済まない気がするんだよ」

「……チッ。あんたの話はいちいち間怠っこしいな。結局何が言いたいんだ。とっとと結論を言え」


 多分に学者気質でもあるクリスは、どうも理論立てて順番に説明をしたがる癖がある。レオとて事物の過程を軽視するわけではないが、今必要なのはフロアの敵を倒すためのヒントになる話だ。

 割り切りの早いレオが痺れを切らしてそう断じると、クリスは苦笑をした。


「いきなり結論に行くと衝撃的過ぎるかなあと思ったんだけど」

「構わん、言え」

「……創世の石……賢者の石は、滅んだ世界の住人たちの数多の魂を凝縮した、魂のエネルギーのかたまりではないかと言われているんだよ」

「魂のかたまり……?」

「私はこの説が一番信憑性があると思っているんだ。世界が循環で成り立っているとすると、滅んだ世界では人の輪廻が途切れてしまう。生まれ変わる場がなくなるんだからね。その魂のエネルギーを次の世界に持ち越す、それが創世の石の役割のひとつだと考えると、辻褄が合うんだよ」


 創世の石が魂のかたまり。そう言われれば確かにそうかもしれない。新たな世界で住人を生み出す、その魂の生成を創造主がするとなるときっと膨大なエネルギーが必要だ。だがそれがそもそも循環するものとしてあるのなら、創造主は世界の生成と秩序の構築に注力できる。

 実際、創造主である大精霊たちが世界の住人を意のままに操る権限もないことからして、我々は彼らの純粋な創造物ではないと考えていいだろう。


 しかしだ。賢者の石が魂のかたまりだからといって、何のヒントになるというのか。それが死した魂の凝縮塊だと判明したところで、ユウトを青ざめさせる要因にしかなっていないのだが。


「……その説を採用するとして、何が呪いの剣との戦いのヒントになるっていうんだ?」

「その性質上、創世の石は創造主たちよりも人間の魔力との方が馴染みやすいということだよ。復讐霊の魔力も確実に糧にしているけれど、おそらく呪いの剣を実体化させるのはそこにある人の意思だ」

「人の意思……ってことは……」

「ほぼ間違いなくエルダールの王の意思だよね」


 まあこれは、当然の結論か。そもそも契約で多くのエルダール王族の血が捧げられてきたはずだし、あの剣は同族殺しにも用いられてきた。王家の闇の部分の煮凝りみたいなものだ。

 その怨念が復讐霊の魔力によって、どんな怪物に仕立て上げられるかと思っていたのだけれど。


「……次の敵は、王族の怨念そのまんまってことか。同族の恥部をみせられるのは良い気がしねえな」

「それが恥部かどうかは分からないよ。……私なりにそこに潜んだ思惑を推測してみたんだけどね。この先に居るのは、一族の怨念を背負った初代王ではないかと考えているんだ」

「初代王なら、それこそ王族最大の恥部だろ」

「復讐霊に唆されていた最終戦争ハルマゲドンまでの彼だったならそうだね。……まあ、直接対峙してみればわかるだろうから、その話は置いておこうか。とりあえずヒントっていうのは、初代王と戦う対策を取ればいいっていうことなんだ」


 クリスはそこで一度話を切ると、ユウトを見た。


「ユウトくん、確か沈黙サイレントの魔法使えるよね? それをすぐに発動できるように腕輪の魔石に込めておいてくれるかい?」

「え? 全部の魔石にですか?」

「うん、一応ね」

「……初代は何か厄介な魔法でも使うのか? 過去に王族の者が突出した魔力を持つことはなかったと思うが」


 次の戦いのためだろうユウトに指示を出すクリスに、レオは首を捻る。

 エルダールの王族は基本的に魔力も剣術もそこそこで、こと戦闘に関しては、有り体に言えば凡才なのだ。レオだけは剣聖とされているが、そもそもこの力は魔王に与えられたものだから論外。

 本来の王家筋の人間ならば、戦うとしてもあまり脅威に思う必要もない相手だった。


 もちろんここはゲートが作り出した失われた場所の再現で、出現するのもそれほど安易な敵ではないと思っているけれど。

 ベースが凡庸な人間であるのなら、今まで戦った敵よりもずっと戦いやすいはず。そう考えたレオに、クリスは目を丸くした。


「……もしかしてレオくん、王族なのに自分たちの固有能力を知らないの? 君が使わないのはユウトくんがいるからだと思っていたんだけど。……ああでも、もしかすると初代がわざと子孫に伝えなかったのか。私もリインデルの書庫にあった、王国樹立の詳細を綴った文献でしか見たことがないしなあ」

「……何の話だ?」

「王族には、純粋な戦闘能力よりもずっと強力なスキルがあるんだよ。中でも初代はその能力が図抜けていたらしい。……てっきりそのスキルについては表に出さないだけで内々に伝わっているのだと思ってたけど、違うみたいだね」

「スキル?」

「個人としては魔力も剣才も凡庸だった初代に、どうして部下が従ったと思う? そんな男を人々はどうして国王に祭り上げたと思う?」


 魔力も剣才も凡庸で、それでも国王に祭り上げられた男。そう言われて不意にレオの脳裏にライネルが浮かぶ。あの兄がなぜその地位にいるかといえば、超人間的な資質があるからだ。それを一言で言うと。


「……カリスマか?」

「そう! 世界の中でもかなり稀有な能力だ。君の一族はこのスキルを持っている」

「知らんし、実感もないな。それにそんなもん、国の統治ならいざ知らず、戦闘じゃ何の役にも立たないだろ」

「ところが、敵に回すとこれが非常に厄介なんだよね。……最近の王族を見る限り、代々スキルの能力は薄れてきているようだけど。ライネル陛下のスキルは先祖返りしているのか、その能力が顕著だ。あの方を見ていると、カリスマの影響の強さを感じるね」

「確かに兄貴はカリスマ性が高いが……」


 しかし、ライネル自体はやはり弱い。戦えばあっという間に勝利できるだろう。……ああ、だがそこには必ずルウドルトがいるか。あれとやることになったら少々面倒だ。負ける気はないが、その強さゆえ殺さずに済ますことが難しい。

 ネイの部下であった隠密たちも、ライネルのためなら命を捨てる覚悟で来るだろう。そう考えるとカリスマ持ちを敵に回すのは厄介といえるか。


 だがそれでも、単体のスキルとしては脅威を感じるほどではない。

 特にこの先にいる初代は、ルウドルトたちのような取り巻きなどいないのだ。負ける要素はないだろう。

 そう楽観的に考えたレオに、けれどクリスは言葉を投げかけた。


「レオくん、ライネル陛下の演説を聞いたことある?」

「ん? ああ、会場外からならな」

「あ、僕もザインで聞いたことあります! めちゃめちゃ良い声でした」

「そういやザインでは、ミワもあの声に萌えるから演説は絶対聞きに行くと言ってたな」

「あれね、陛下が分かってやっているのかは知らないけど、その演説を聞くと著しく心地良いトランス状態に陥るんだ。これこそがカリスマの能力だね」

「あー、分かる! 俺もなったことある! レオさんがいない間の、ライネル陛下に仕えてた時。何度か演説聞いたことあるんだけど、すごい人心掌握力なんだよね」


 元々ライネルの国民人気は高いが、演説にはとにかく多くの人々が訪れる。それがカリスマによる求心力ということか。一時期ライネルの隠密として働いていたネイも、納得したように頷いている。

 しかし反してレオは怪訝な顔をした。


「俺は兄貴の演説でそんなもん感じ取ったことないが」

「僕も良い声だなあとは思ったけど、少ししか聞いてないからかトランス状態にはならなかったですね」


 レオの言葉にユウトも同意をする。それにクリスは「まあそうだろうね」と首肯した。


「そもそもレオくん自身がカリスマ持ちだもの。同族である君には影響がないよ。ユウトくんは多分半魔な上に聞く時間が短かったから、掛かりが悪かっただけだろう。……私は以前陛下がベラールに来た時に演説を聞いたけど、カリスマの能力を知っていながらもまんまと掛かってしまったよ」

「え、クリスさんでもですか」

「うん。カリスマってね、持って生まれた能力に加えて、知性、話術、状況把握力、語彙力、説得力、表現力なんかを鍛えるほどに効果が増すんだ。だから子供の頃はカリスマを持っていても大した威力はないし、鍛えなければ役には立たない。その点で、ライネル陛下はとにかく声質が良いし知性に溢れて話が上手いんだよね。つい聞いちゃうんだ」

「……なるほど。俺や親父がカリスマスキルを発揮しないのはその逆だからか」

「君のスキルが発揮されないのはユウトくん以外に興味がないせいだと思うよ。まあスキルが発揮されたとしても、能力によるカリスマ的支配なんて一時的なものだけど」

「そんな一時的なスキルが、結局どう厄介だって言うんだ?」


 言葉によって民衆の気分を一時的に上げることができる、その能力がどう戦闘に影響するというのか。ここまで聞いてもよく分からない。クリスの言うカリスマ的支配は、魅了の魔法ほどの強制力もなさそうだというのに。

 そう不思議に思うレオに、クリスは軽く眉を顰めた。


「まず厄介なのはこれが魔法ではないという点だ。つまり状態異常無効の装備が役に立たない。そしてそこには悪意が含まれないために、カリスマの言葉は抵抗なく耳から脳に伝わってしまう」

「……カリスマの能力は悪意のある言葉には乗らないのか?」

「うん。カリスマの言葉は威圧や強制を伴わない。ひたすら耳障りが良く、いつの間にかトランス状態に引き込まれる。これがまた厄介なんだ。こうなると著しく判断能力が落ちて、無条件に能力者に与したくなるからね」

「……ん? 無条件で敵に与する……?」

「つまり初代がカリスマを発動すると、レオくん以外が全員敵に回る可能性があるってこと」


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