表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

747/766

兄、呪いの剣についてのクリスの推論を聞く

「レオくん、この奥にいるフロアの敵は、復讐霊の魔力が宿った王家由来の呪いの剣だと言ったよね。その剣をこの地下迷宮に持ち込んだのは誰だい?」


 唐突にそう訊ねられて、レオは一瞬困惑した。まだクリスたちには語っていない過去のこと、どこまで話すべきか迷ったからだ。

 しかし魔王にさえ言及しなければそれほど問題はないだろう。

 クリスの考察を裏付けるためにも、いくらかの情報開示を強いられるのは仕方がない。レオはそう割り切って、口を開いた。


「……剣をこの迷宮に持ち込んだのは兄貴だ。十八年くらい前だな。兄貴の意思ではなく、親父にそう仕向けられて、だが」

「ここに呪いの剣を置いていくことにしたのは?」

「俺と兄貴の意思でだ」

「つまり、復讐霊の意思は介在していないんだよね?」

「ああ」


 アレオンを殺そうと剣に術式を組み込んだのも、ライネルを迷宮に寄越したのも、父王の差し金だ。そもそも依り代は実体のない復讐霊にとって、生かしておきたい存在だったはずなのだから。

 そう考えて頷くと、クリスもまた推論の根拠を得て頷いた。


「さっき復讐霊の侵入は難しいと言ったけど、そうやって誰かに運んでもらえば比較的容易に入り込めるんだよ。……今ネイくんにくっついて来てる大精霊の魔力と同じ状況だ。このまま行けば最奥まで到達できる」

「そういやそうだな」

「でも復讐霊はこれまでそうしなかった。あれは人間を信用していないからだ。もしもそうやって迷宮の奥まで来てそこに置き去りにされたら、自力で出るのは非常に困難だからね。正に今がその状況だけど」


 楽しそうに語る視線はこちらを見ていない。魔法のランプに照らされる壁を悦に入った様子で眺めながら、クリスは口角を上げた。


「もしも私がここの設計に携わっていたら、この技術を使って最奥の部屋に復讐霊を閉じ込める檻を作っただろう。私の祖先も、きっと同じことを考えるんじゃないかな。……つまりレオくんたちは、そこにまんまと呪いの剣を閉じ込めたことになる」


 術式と違いエミナの特殊加工技術であれば、壁の外と内で魔力に対する反応を変えられる。要は一方通行、侵入はできても脱出ができない加工ができるのだ。

 この地下迷宮に重要な何かがあるように見せかけて、初代はそれを餌に復讐霊をおびき寄せようとしていたのか。


 ……いや、違うか。復讐霊が再び復活すれば、初代は表立って奴に敵対することは不可能。

 もしかすると従順に徹し、自ら復讐霊をここに連れてくる算段だったのかもしれない。


 この奥に何があるかを訊ねられて答えたとしても、復讐霊が初代の言を鵜呑みにするわけがないのだ。ならば実際に奥までご案内します、という流れになるのは必然。

 例えば居もしない神の依り代が見付かって隠している、通路の加工は大精霊を侵入させないためだとでも言えば筋は通る。そう唆して復讐霊を誘い込むつもりだったのではなかろうか。


 しかし復讐霊はその言葉自体も疑い、結局これまでこの最奥には入ろうとしなかったのだろう。実際に神の依り代としてアレオンが居た時も来ることがなかったし、その後に対価の宝箱とレオが遭遇した時も特別な反応がなかった。おそらくアレオンが神の依り代として迷宮にいるという父王の報告を、復讐霊はこれまでと同様に疑って掛かり、信じていなかったのだ。だからただ適当に、ある程度使える年齢になるまで生かしておけとだけ指示していた。

 父王自身、アレオンを復讐霊に会わせたくなかったはずで、それを進んで証明しようとするわけもない。おかげでアレオンはライネルの立皇嗣の日まで放っておかれた。これはある意味、レオにとって幸運だったのかもしれない。


「レオくんたちが、一部とはいえ復讐霊の魔力をここに閉じ込めていたのは僥倖だよ。これだけでいくつか分かることがあるからね。例えば、呪いの剣は復讐霊の意思と繋がっていないこととか」

「あー、それ。クリスさんの話を聞いて俺も不思議に思ってた。俺にくっついてる大精霊の魔力は大精霊の意思と繋がってるから、その意に添わない状況になれば反発すると思うんだよね。でも呪いの剣は復讐霊の魔力の一部でありながら、この迷宮に持ち込まれることに反発しなかったのかなって。そっか、繋がっていないなら納得だわ。だけどどうして切り離してるのかなあ?」

「その理由はまあ、正確なことは分からないけどさ。ただ、以前は繋がっていたんじゃないかと思うんだよね。そうでなければ、一部とは言え復讐霊の力を削ぐために、初代が早々に呪いの剣をこの地下迷宮に隔離していただろうし」


 言われてみれば、確かにこの剣はあまりに容易にここに持ち込めた。そこに復讐霊の意思があれば、父王が神の依り代であるアレオンを殺そうと画策したことやライネルが剣を持って迷宮に入ろうとしたことに気付くはずなのだ。

 そしてもし以前からこれほど簡単に持ち込めるなら、初代が宝物として大切に保管する名目でも付けて、とっととここに封印していただろう。

 そう考えるとクリスの推察通り、以前は繋がっていたが今は違うというのは十分あり得る話だ。その原因にも、きっと意味がある。これは創造主に匹敵する力を持っていても、万能ではないという証。そこには何か付け入る隙があるのかもしれない。


 しかしそれを今詳らかにしようとしたところで、さすがに無理か。これ以上は材料がなさすぎる。その先の話を棚上げして、クリスも話を進めた。


「もうひとつ分かることは、エルダール王家の血の契約は、復讐霊と結んでいるのではなく、呪いの剣自体と結ばれているってことだね」


 二つ目の事実に、今度はユウトが反応をする。


「えっ。クリスさん、物質との契約って可能なんですか? 意思を持たないものとの契約……?」

「普通はできないだろうけど、そうとしか考えられないんだよ。エルダール王家筋への血の呪縛は、魔力のないレオくんは例外として、ライネル国王陛下には逃れられないものだ。でもこの迷宮が崩れて以降、私が知る限り陛下が復讐霊の醸す悪心に冒されて政を進めたことはない。おそらくは剣がここに閉じ込められたことで、その影響が地表にでていないからなんだ。復讐霊自体と契約していたなら、こうはならないだろう?」

「……待て、クリス。だが親父は、ここに剣を閉じ込めてからも相変わらずだったぞ」

「契約の儀式を行って、完全に剣の魔力を体内に刻んでしまってからではそうだろうね。十八年前なら、ライネル陛下は当時まだ儀式を執り行っていなかったんじゃないかな。多分、魔力の伝播による影響だけなら遮断できるんだよ」

「ああ、なるほど……」


 魔力を体内に刻む、と聞いて、グリムリーパーとの契約によりネイたちもそのせいで抗えぬ状態だったことを思い出す。確かに魔力を受ける儀式を執り行うと、もはや死ぬまで逆らうことは不可能なのだろう。

 だがライネルはまだその儀式を受けていなかった。だから一族に連綿と続く血の呪縛にしか囚われていなかったのだ。ユウトが触れるだけで悪心が払えたのも、儀式前だったからか。


「剣との契約ってどんなものだったんでしょう? 意思のない物質となると、きっと効果は固定ですよね。レオ兄さんは何か知ってる?」

「俺は詳しいことは知らんな。兄貴は知ってるかもしれんが……。正直、欲深で愚かになる効果なんじゃないかとしか思えん」

「いや、まさか。……そんなことのために契約しないでしょ? 何かステータスが上がるとかさ」

「欲深で愚かになる効果、か。面白いね。……もし、初代がそこまで考えていたとすると……」


 ユウトとの会話を聞いたクリスが、毒づいたレオの言葉に反応する。そしてふむふむと何事かを考え込むと、不意に足を止めた。間もなく最奥に到達しようという頃合いなのにだ。

 それに気付いたユウトが足を止め、そうすればレオとエルドワ、キイクウも止まり、先頭を歩いていたネイも当然のように振り返る。


 その視線を集めたクリスは、うん、とひとつ頷いた。


「呪いの剣……ていうか、その素になっている賢者の石の欠片の成り立ちのことで、敵と会う前に少し話をしていいかな? 今ふと思い出したんだけど、もしかすると戦うヒントになるかもしれない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ