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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟にヴァルドとの契約の判断を委ねる

「強制召喚が増えているという話はどこからの情報だ? 単にお前に対する呼び出しが増えたということか?」

「いえ、それ以外にも各地を旅している知り合いの人狼が言ってました。彼の付き合いのあった魔物が強制召喚で何人も消えているって……」


 知り合いに人狼がいるとは、半魔物同士でコミュニティらしきものがあるのだろうか。とりあえずは根拠のある情報らしい。


 ……魔物側との接点もある男か。元魔研の奴らを相手にするのなら、この男は今後のためにも味方に引き入れておくべきかもしれない。


「その強制召喚を回避するためにも契約すべき、か……。だがその相手が何故ユウトなんだ? 他の人間じゃ駄目なのか」

「普通の人間を私の主に据える気はないんです。私は救済者の出現をこの世界に来てから50年待っていた。あの方を見た時、ひと目で私の待ちわびた方だと分かりました」

「……救済者っていうのは、何のことなんだ?」

「浮かぶことも沈むこともできない真っ暗な海の底にたゆたっていた私を、呼吸ができるところまで引き上げてくれる方のことです」


 例えが抽象的すぎるが、ともかく相手がユウトでないと契約しないということは分かった。話を聞く限り害を為すタイプの男でもなさそうだし、召喚契約はいざという時の切り札としても役立ちそうだ。

 ユウトにお守り代わりにあれば安心かもしれない。


「……確認をするが、お前は吸血鬼としての『吸血衝動』は起きないのか?」

「純血種ほどではありませんが、もちろんあります。しかし私は人間の血は口に合わなくて……魔法植物に血液と同じような成分の実を作り出すものなどがあるので、普段はそれを摂取しています」


 なるほど、ヴァルドが魔法植物ファームを営んでいるのはそのためか。


「吸血鬼なのに人間の血が飲めないとは、変な奴だな。でもまあ、ユウトの血を吸う心配がないならいい」

「いえ、救済者の血は頂きます。というか、私の唯一口にできる血液はあの方の血だけなのです」

「はあ!? だったら却下だ、却下!」


 ヴァルドがユウトの血を吸うつもりだと知って、レオは即座に強く拒絶した。あの弟のもっちりしたすべすべ肌に傷を付けるとか、許しがたい行為だ。


「ええ、そんな……。もちろんあの方の許可がなければ血は吸いませんし、量だってほんの少しですよ? 痕を綺麗に消すこともできますし、吸血の際は全然痛くないどころか、気持ち良くできますし」

「吸血鬼はその微妙に卑猥な仕様が受け付けん……」

「でも召喚契約を結んで頂ければ、あなた方のお役に立てると思うのですが……」


 気弱そうに眉尻を下げるも、ヴァルドは食い下がってくる。


「こ、こう見えても私、魔物のランクで分類すればSSくらいには相当するつもりです」

「……ランクSSだと? 本当か?」

「はい、救済者の血液ありきの話ですけど。……変身もできますし、高位魔法も操れます。それにダンピール特有の能力で、吸血鬼を筆頭とした不死者に対する特効があります」

「不死者特効か……」


 ランクSSで不死者特効持ち。確かにこれは欲しい。

 不死者は直接攻撃のダメージが通りにくく、魔法頼みになりがちなのだ。上位に行けば行くほど、首を落としても一刀両断にしても決定打にならないことが多くて、レオとの相性がすこぶる悪い。

 それを楽に倒せるなら戦力として十分有効だ。

 が。


「何につけ、ユウトの血を啜るというのがな……」

「問題がそれだけなら、救済者に判断を委ねて下さいませんか。あの方が私との契約を嫌がったら諦めます」

「ユウトの判断でか」


 まあ、ここまでの話を聞いてみて、ユウトの血を提供するという以外は特に拒否する内容でもないのだ。

 この男はユウトに使役されることを自ら望んでいるし、裏切ることも考えづらい。弟の自由意志で呼び出せるというのも助かる。


 ならば契約する本人に可否を問うてもいいだろう。


「……分かった。お前と契約するかはユウトに判断させよう」

「ありがとうございます!」


 レオの譲歩に、ヴァルドは安堵の笑顔を見せた。

 50年救済者を待っていたというのだから、並々ならぬ思いがあるのに違いない。


「今日はもうユウトの就寝時間だから、話は明日だ」

「それで結構です。……あの、周囲を気にせずお話ししたいので、農場まで足をお運びいただけるとありがたいのですが」

「……そうだな、ここで話すのも気を遣うし、そうしよう」

「助かります。……では、私は一旦農場の方に戻りますね」


 レオの了解をとりつけると、ヴァルドは窓際に向かった。

 ここまで決まれば、今さら黒猫になって部屋に留まる必要もないのだろう。黒猫が消えたことをユウトが残念がるかもしれないが、レオは彼を引き留めることはしなかった。


「……正直、ここからどうやって契約の話に持って行こうかと思っていたので、かえって助かりました。ありがとうございます」

「構わん、こっちとしても一概に悪い話じゃないからな」

「では、また明日」


 ヴァルドは窓を開けると、その姿を一瞬でコウモリに変えた。

 そのまま空気の冷えてきた夜の街に飛び去っていく。

 今日は月のない闇夜だが、半分とは言え夜の眷属である吸血鬼だ。農場くらいまでなら問題なく帰り着くだろう。


 すぐに闇に紛れた彼を見送ることなく、レオは窓を閉めた。






 翌日、レオはユウトを連れて魔法植物ファームを訪れていた。

 少し緊張した雰囲気のヴァルドに家の中に招かれ、2人は椅子に座る。

 レオがここに至る経緯をほぼ何も説明していないので、ユウトはずっときょとんとしていた。


「……ヴァルドさん、何かお話があるって聞いたんですけど」

「うあっ、は、は、はい、その、どこからご説明すればいいやら」


 ヴァルドはやたらとテンパっている。

 これが商談だったら上司にこっぴどく怒られるな、とレオは他人事のように思った。

 今日来るのが分かっているのだから、やりとりのシミュレーションくらいしておけばいいものを。


「じ、実は、あなたの血が欲しいんです!」

「……へ? 僕の血? 何で?」


 いや、話し始めはそこじゃないだろう。意味が分からずユウトが目を丸くしているじゃないか。

 レオはそれを見ながら、やれやれとため息を吐いた。


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