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兄弟、クリスとキイクウと合流する

「魔物としての前例がない?」

「そうだ。ベースは無機物だが、魔法生物というわけでもない。正体不明の敵だ」


 これまでに正体不明の敵と遭遇したのはバンマデンノツカイくらいだが、あれは攻撃をしてこない特殊な魔物だ。比較にはならない。

 今度の敵は図抜けて凶悪で屈強、その能力は想像が付かないのだ。ユウトの幸運のおかげか全員揃ってそこに臨めるのは運が良かったが、逆に考えれば全員で当たらなければ対応しきれない相手ということでもある。気は抜けない。


「その正体不明の敵を、レオさんたちは知ってるんですか?」

「ああ、おそらく俺が思っている敵で間違いないはずだ。……この迷宮の奥で待っているのは、復讐霊の力の宿った呪いの剣だ」

「呪いの剣?」

「エルダール王家に伝わる、復讐霊と契約を交わすための宝剣のことだ。隠密なら貴様も知っているだろう。十八年前に在処が分からなくなって、その紛失の事実をここまでずっと隠されている剣のことを」

「あ、代々王家の儀式で使ってた宝剣が紛失したことなら、昔聞いたことが……って、復讐霊の力が宿ってるって何!? その剣が、この奥にあるんですか!?」

「多分な」


 エルダール王家と復讐霊の契約関係はおそらく王族にしか共有してはいけない極秘事項だろうが、もはや隠す意味もあるまい。レオはあっさりとそれを告げる。

 復讐霊との完全な決別を望む今、ライネルとてその暴露を咎めはしないだろう。


「呪いの剣に代々の王の血を捧げることで、エルダール王家は復讐霊の力を借り、君臨してきた。あの剣は他にも、王族の後継者争いで暗殺に使われたり、王位簒奪に使われたりで、まあ、エルダール王族の欲望やら怨念やらが色々詰まってるらしい」

「うわあ、何かおどろおどろしそう……。ですが、それがここのフロアの敵ですか? 剣からにょきにょき手足が出て戦うとか?」

「そんな子供の落書きみたいな間抜けな姿なわけないだろ……多分。その剣は怨念を具現化する能力があるらしいからな。正直、現時点ではどんな姿形で現れるかは想像もつかん。だが、とりあえず一筋縄ではいかないのは間違いない」


 魔物系か魔族系か、物理か魔法か、実体か精神体か。全ての可能性に備えていくしかないのだ。

 こうして考えるだに難敵なのは確かだが、一方で弱気になる必要はあるまい。万全の態勢で臨めば間違いなく勝機はある。

 なぜなら復讐霊が創造主に匹敵する力を持つとはいえその能力は分割されているし、魔王もレオが世界最強になれば怨霊を倒せると考えていたようだからだ。それに、そもそもレオが魔王から授けられた力は、復讐霊との対立を見越してユウトを護るためのもの。

 もちろん苦戦は否めないが、今回程度の戦闘で引けを取る気はさらさらない。


「まあ敵が正体不明とはいえ、分かっていることも多少ある。少しばかり特殊な知識が必要だから、それはクリスが合流してから話す」

「そういや、クリスやキイとクウの飯も要りますかね? 多分何も食ってないでしょ、あの迷子組」

「ああ、キイとクウはこの程度なら不食不眠不休で平気だが、クリスは必要かもな。俺らより体力ないおっさんだし、前のフロアを単身で脱出してきた後だし」

「あっ、クリスさんたち、もう近くまで来てるみたい」


 レオたちが話をしている間に、スープマグを片手に再び探索魔法を掛けたユウトが、外周と接する壁を振り返る。外側の回廊と内側の迷路では気配や声は遮断されているのか、エルドワすら気付かなかったようだ。しかししばらく待っていれば、やがて壁だった場所にぽっかりと入り口が現れた。


「クリスさん! キイさん、クウさん!」

「レオ様、ユウト様、ようやくお会いできました」

「はあ~。やっと合流できた……」


 そこには少々やつれた様子のクリスといつも通りのキイとクウがいて、こちらを見付けた途端に盛大に安堵のため息を吐いた。


「ふう……みんな無事で何よりだね。おっさんはだいぶ酷い目に遭ってきましたよ……」

「クリスさん、お疲れ様です! お水飲みますか? ネイさんが作ってくれたスープもありますけど」

「ありがとう、ユウトくん。まず水をもらえるかな」

「はい」


 ユウトはすぐにコップ三つに水を注ぐと、ひとつをクリスに手渡して、次にキイとクウのところにも持って行く。


「キイさんとクウさんもずっと歩きづめだったでしょ。お疲れ様」

「キイたちは平気です。三日三晩飛び続けても疲れないだけの体力がありますから」

「クウたちが困ったのは術式を解くことだけです。でもクリスさんと合流できたのでラッキーでした。ユウト様やレオ様とも合流できた今、何の問題もございません」

「そっか。でも、頑張ったことには変わりないから、やっぱりお疲れ様ですよ。はい」


 にこにことコップを手渡され、ドラゴン二人もどこか嬉しそうにそれを受け取る。いつの間にかエルドワもユウトの足下にいて、その一角がほのぼの癒やし空間になっているようだ。

 大人三人もついそれを見ながらほっこりしてしまう。


「いやあ、相手を思いやるユウトくんたちを見てると、心が洗われますねえ。俺たち汚れてるから」

「貴様と一緒にするな、クソ狐。俺は常にユウトによって浄化されてる」

「またまた。洗っても落ちない頑固な汚れでしょ、お互い」

「私も頑固な汚れ持ちだなあ。仲間仲間」


 軽口を言いながら、クリスが水を一息にあおる。そして一旦上着を脱ぎ、テーブルに着いた。


「ネイくん、悪いけど何か食べるものくれる? 前のフロアから一口も食べてないんだよね」

「はいはい。おかずは多めに作ってあるし、パンもありますけど。肉挟みます? それとも卵のフィリング?」

「両方でお願い。胃に優しいのもがっつりも、どっちも欲しい」

「クリスさんにしては珍しい、わんぱくなオーダーですね。了解」


 先にスープを器によそって渡されると、クリスはすぐに口を付けた。余程腹が減っているらしい。……まあ、レオたちと別フロアに単身で下りて以降、戦闘をこなしつつ下り階段を探して、気を抜く暇もなかったのだろうから仕方あるまい。

 このフロアに下りてからも食事よりここへの合流を優先したのは、ほぼ一晩ぐるぐると外周を回っていたキイとクウに会って、早めにユウトに届けようと思ったからだろう。回廊に掛けられた移動術式にすぐに気付いたクリスにとっては、合流して一息ついた方が早かったのだ。


「はあ、ユウトくんの幸運が利いてるフロアはありがたいね。来てすぐに敵の真ん前に出ることはないし、仲間と早めに合流できるし、排出の心配もない」

「排出? もしかしてあんた、すでにゲートの外に放り出されたのか?」

「そうなんだよ。転移魔石で事なきを得たけど、あれ本当に心臓に悪い。絶対排出される覚悟のあった私でも焦ったからね。足下にいきなり穴が空いて、落ちたと思ったら外にぽい、だよ」


 指先でつまみ出される仕種をして、クリスは肩を竦めた。

 確かに前兆もなくいきなり空中に放り出されるなんて、考えただけで肝が冷える。どこに転移するか考える余裕もなさそうだ。


「まあ、無事だったんなら何よりだ。……だが一度外へ出たなら、栄養補給するくらいの時間があったろうに」

「それがね、転移先を吟味する暇がなくて、時間を稼ぐためにとっさにさらに上に飛んじゃったんだよね」

「上?」

「そう、ゲートの上。そこから落下して、どうにか再びゲートに飛び込んだんだ。つまり地上に降りてないんだよね。転移魔石一個の消費で済んだんだから、ある意味結果オーライだったけど」

「危ねえな! ゲートに入り損ねたら真っ逆さまじゃねえか!」

「大丈夫。私は死なない加護付いてるから」


 相変わらずリスキーな行動をするクリスにため息が出る。おそらくこれで味をしめたこの男は次も同じことをするのだろう。

 実際、こういう危機一髪をすり抜けるための幸運全振りなのだろうが、こっちの心臓に悪いからやめて欲しい。


「まあ、一度排出があると次まではしばらく期間が空くらしいから、それまでに頑張ってゲートを進もう、レオくん」

「……その方が良いだろうな。あんたが危ないことするとユウトが怒るんだから、大概にしとけよ」

「うん、善処するよ」


 この軽い返事、全然善処しそうにない。全く響かない苦言にもう一度ため息を吐いて、レオは話を変えた。


「ところで、あんたが行ってたフロアはどんなところだった? 初撃無効を消費したのはあんただろ。一人で敵は倒せたのか? ……宝箱には何が入っていた?」


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