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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、術式の解法を見付ける

完成間際で文章が吹っ飛んで、書き直しをしていました。バックアップ大事……。

心が折れてだいぶ端折ってしまいましたが、却って展開が早まって良かったかも。



 歩いている間に気付いたのは、廊下ひとつの区画の長さだった。

 短い区間であちこちに転移させられているのだが、その長さが柱二本分と三本分の二種類ある。

 割合では圧倒的に柱二本の距離ばかりで、まれに柱三本の場所がある感じだ。


 レオたちはそれに気付いてから慎重に進み、次の柱三本の区間を待った。何か仕掛けがあるなら、きっとそこに違いない。


「あっ、レオさんストップ。ここ柱三本区間です」

「よし、探れ」


 チョークを走らせながら二本目の柱を通過したネイが、レオを呼び止める。それに応じて足を止め、すぐに仕掛けの探索を命じた。

 こうして見回しても、この区間の中はこれまでの通路の装飾となんら変わりはない。しかし、間違いなくこの施設の使用者を中枢に導く目印があるはずなのだ。

 手元の魔石を見れば、ユウトのいる方向はこの壁の向こう。

 きっとここに内部に続く分岐がある。


 ネイに調査させながら、レオも探るように周囲を観察した。

 この区画の中は視覚誤認の術式が掛かっている。その中で、意図的に術から外されている場所が必ずある。

 侵入者には見付けづらいが、使用者にはすぐに分かる目印。


「う~ん、見た目は全然他の場所と変わらないなあ。壁に触っても貫通しないし、全部同じ手触りだし」

「俺たちの馬車と同じような、手触りまで再現するタイプの視覚誤認の術が掛かっているんだろう。おそらくこの術を解除しないと通れない」

「もしかして、特別な鍵みたいなアイテムが必要だったりして?」

「鍵で通れるなら、ここまで大掛かりで面倒臭い術式を掛けたりしない。……それに迷宮はどちらかというと、侵入を拒むのではなく逃げ出せなくする造りになっている。鍵さえ手に入れれば難なく出入りできるような場所ではないはずだ」


 そう自分で答えて、何故か胃が重くなった。

 この施設は、閉じ込めたものを外に出さないための場所。

 今は内部に向かうことばかり考えているが、別の見方をすれば今のレオたちはここから脱することも適わないのだ。


 何とも閉塞的な不快感を覚える。

 けれど、とりあえず脱出を考えるのはユウトと合流できてからだ。そのためにはこの通路の隠れた目印を見付けなければならない。

 何か見逃していることがあるはずだと、レオはさらにじっと周囲を観察した。


 そうしているうちに、レオはふとした違和感に気付く。壁を探っているネイの頭の上には未だに光る子狐が乗っているのだが、それを光源としてできるレリーフの影が少々おかしいのだ。

 壁に彫られている竜のレリーフは全てが全く同じデザイン。だというのに、ひとつだけその影の形が合っていない。

 もしや、これが。


「狐、一番手前のレリーフの下に行け」

「手前って、レオさんに一番近いとこですか? はい」


 レオが指示をすると、ネイはそのレリーフの真下に立った。

 するとほんのりとした子狐の光でできた影は、明らかに立体的に飛び出した造形をしている。どうやら視覚誤認でレリーフに見えているだけで、実際ここにあるのは彫像。おそらく光を当てた時のみ、その影だけが術式から外される仕組みなのだ。


「見付けた……! これが目印か!」

「あれっ、何ですかこの影!? 近くにある燭台の明かりでできるのは普通にレリーフの影なのに……。ああ、でもそうか、この燭台も視覚誤認のための明かりですもんね」


 このギミックを解くには、外部からの明かりが必要。

 そう考えて得心が行った。


「……なるほど、ここにはそれなりの明るさがあるし、侵入者は目立ちたくないから自分から明かりを点けることはない。しかしこの施設の使用者なら若干薄暗い通路を移動するのにランプを持ち込む。これが目印を容易に見付けられるかどうかの違いか」

「うわあ、これは分かんないわ~。本来なら忍び込んだ先でランプを点けるなんて馬鹿のすることですもん。それを逆手に取られてるとは……」

「俺もこの子狐の光がなければ気付かなかった。そんなのを頭に乗せながら歩くなんてアホっぽくて間の抜けた姿だと思っていたが、思いの外役に立ったな。これがなければ、答えを見付けるのにもっと時間が掛かっていただろう」

「レオさん、言い方。……まあでも、これでようやく内部に行けますね」


 ほっと息を吐いたネイが、ポーチから魔石燃料のランプを取り出す。それに火を入れて周囲を照らせば、さっきよりもくっきりと竜の影が浮かび上がった。


「ああ、よく見るとこのレリーフの縁取り、この竜の彫像の形に沿ってるんですね。てことは、ランプで上手い具合にその影をレリーフの縁取りに合わせると……」


 ネイがぶつぶつと呟きながらランプを前後左右に移動させて、竜の影をレリーフの縁取りに合致させる。

 すると途端に目の前の壁がすっと消え、奥に続く通路が現れた。


「よし! これでユウトの元に行ける……!」

「……どうやら術式が消えるのはこの一区画だけみたいですね。周りは視覚誤認の術が掛かったままだなあ」

「そりゃそうだろ。一回通るごとに全解除して、術式を掛け直すわけもない。おそらくここも一時的に開いただけで、時間が経てばまた塞がる。とっとと行くぞ」


 レオは手元の魔石を見ながら通路に入る。

 それをランプを持ったネイが慌てて追った。


「レオさん、また転移があるかもしれないのに無神経に歩き回らないで下さい」

「いや、今度は転移や視覚誤認があるような場所じゃなさそうだ。……まあ、考えなしに歩き回るのはまずそうではあるが」

「え? ……うっわ、何ですか、次は分岐と曲がり角だらけ!?」

「この状態で外周へ抜ける扉も消えれば、出口のない迷路に閉じ込められたと同様……。まさに入ったら抜け出せない迷宮だな」

「こっわ。一応チョークで印つけとこ」

「そうだな。どうせ印を付けたところでこっち側から扉を開ける術はないだろうが……ここが起点だと分かる目安にはなる」


 ここから先は、完全な迷路だ。自分の位置を見失うとにっちもさっちも行かなくなる。進む前に、再び道しるべ探しが必要だった。

 ここにも、この迷宮の持ち主やその関連の使用者が迷わずに通り抜けるための目印が、どこかにあるはずなのだ。


(誰かを閉じ込めるための迷宮か……。以前どこかで、その逸話を俺に話した者がいた気がするんだが……)


 以前と言っても、だいぶ昔だ。それこそ、レオが幼少の頃。

 身体は弱る一方で、ずっとベッドの上で過ごしていた。当時のことは記憶もおぼろげで、あまり覚えていないのだが。

 あれは誰だった?

 その頃のことを思い出そうとするとまた気分が悪くなって、レオは頭を振った。


「レオさん? どうしました?」

「……何でもない。それより、とりあえず正しい道順を探る前にユウトと合流するぞ」

「そうですね。魔石の色を見る限り、結構近そうです。……でも、当てずっぽうに動くと危なくないですか?」

「当てずっぽうにはならんから平気だ。ここはさっきの外周と違って転移によるイレギュラーな位置変換がないからな。ユウトの位置だけはこれで確実に分かる」


 そう言って、レオは通信機を取り出した。

 ゲートの中だから地図は出ないが、同じフロアにいればユウトと自分の位置関係はこれで分かるのだ。

 外周を回っている間はすぐに転移してしまうため、いちいち確認していたら充填魔力が消費されてしまうので控えていたが、ここなら問題ない。


 さっそくレオが画面を開いて位置確認をすると、ユウトはここから壁を隔てて十五メートルほど離れた場所にいるようだった。


「じゃあ、これからそこを目指して行くんですか?」

「いや、ユウトの方から来させる。迷宮の奥に進むには、ここを起点に目印を辿って行くことになるからな。……それに俺の通信機には、この画面を開いたままユウトを探しに行くだけの魔力残量がない」

「あ、ほんとだ。充填率十%以下になって点滅してる」

「このゲートでだいぶ使ったからな。次の通話でぎりぎりだ」


 おそらく今通信しても、悠長に会話などできまい。

 それでも、一言告げられればいい。向こうにはエルドワがいる。

 レオは通話ボタンを押すと、いつも通りワンコールで出たユウトが何を言うより先に言葉を告げた。


「ユウト、もう動いていいぞ」

『えっ? レオ兄さ……』


 そこで通話が切れる。通信機を耳元から離して画面を見ると、真っ暗になっていた。本当にぎりぎりだったのだ。


「……ユウトくん、分かりますかね?」

「大丈夫だろ。俺がその場から動くなと言っておいたのを解除すれば、あとは俺のところに来る。向こうの通信機は魔力切れなどしないからこっちの居場所は分かるし、エルドワがいれば最短距離で来れるしな」

「では、俺たちは待ちながら次の目印を探す感じですか?」

「そうだな」


 ユウトたちはすぐに到着するだろう。後は進むだけだ。

 だがどこに向かって進むかが大きな問題。レオたちは再び周囲を探りだした。


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