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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、泥棒ホイホイもじゃポイ金庫(仮)の完成を見る

「これで完成か。完全なる金庫だな」


 ミワがアイテムに術式を彫り込んで、出来上がった魔法金属の箱の中に『黒もじゃら』を入れた。箱の一番奥には、サモナーペリカンののど袋の端材を使って織ったクロスが張ってある。

 どうやらこれで完成らしい。


「まだちゃんと動作するか分かんねえけどな。ちょうどいい盗人捕まえてきたから、これで動かしてみようぜ」

「ちょ、何する気だ!? 放せ!」

「……そいつ、例の泥棒か?」

「そうですよ。さっきたまたまミワさんを襲ってるとこに出くわしたんで、連れて来ました」


 ネイが男を縛る縄を引っ張って見せた。

 それだけで顔を引きつらせてビビりまくっている盗賊に、レオは呆れたため息を吐く。


「依頼人の娘かもしれないのに、よく危害を加えようと思ったな」

「多分知らなかったんでしょ。依頼も盗みのことだけだろうし」

「いいんだよ、別に関係なんて。おそらく知っててもそれほど結果は変わってねえ」

「……すまないな、お前たちにまで嫌な思いをさせて」

「いらねえ謝罪だ。そもそもジジイはもう隠居してんだから、気楽に生きてろ。母たちのことは、あたしらに任せときゃいい」


 ミワの言葉は力強く、サバサバとしていた。

 分かりやすく裏表のない彼女の物言いは、ド直球で魔工爺様を癒すようだった。

 見た目はこんなで超オタクだが、孫2人がいることで彼はだいぶ救われているはずだ。


「それより、この『泥棒ホイホイもじゃポイ金庫』を試そうぜ」

「何なのその長くて適当なネーミング」

「知らん。ジジイの設計図に書いてあった」

「そ、それは(仮)だ。まさか実際に作れると思っていなかったからフィーリングで付けてしまった。(仮)を付けておいてくれ。後日変える」

「……それ、おそらく自然に(仮)が消えて結局そのままになると思うぞ」


 レオはちょっとユウトのことを思い出して突っ込む。

 ……まあ、これをフルネームで呼ぶ機会なんてないのだから、どうでもいいだろうけれど。


「じゃあ狐目、そいつを金庫(仮)の前に立たせてくれ」

「了解」


 すでに『泥棒ホイホイもじゃポイ』の部分が略されてる。だったらもう(仮)は要らなくないだろうか。ものすごくどうでもいいが。


「くっ、くそ、俺をどうする気だ!?」

「ここから先は未知なる世界……。貴様はその最初の目撃者になる! いや、被験者か。安心しろ、正常に作動すれば死なねえよ」

「待て、じゃあ正常に作動しなければ……!?」

「知らね。どっかに飛ぶ」

「どっかに飛ぶって何だよ!?!?」

「壁の中か地上地下数百メートルの座標に飛んだらロスト」

「即死じゃねえか! どっかの宝箱の罠か!」

「原理としては似てるかもな~。まあ、つべこべ言うな。なるようになる。おい兄、金庫の扉開けてみてくれ」

「……分かった」


 速攻で(仮)が消えたな。本当に心底どうでもいいが。

 とりあえず金庫を作動しないと終わらないので、レオはあっさりと扉を開けた。


「ちょ、待っ、心の準備が……うぎゃあ、何だこれ!?」


 金庫の中から、黒い触手がうぞうぞと伸びてきて、盗賊の身体を絡め取る。なかなかにホラーな光景だ。


「た、助け……っ、……!」


 そのまま男が金庫の中に引っ張り込まれ、そして扉は閉まった。

 ……途端に周囲に静寂が訪れる。


「……ねえねえ、これ、成功なの? 今晩夢に見そうなんだけど」

「知らん。でも気配が消えたから、のど袋のクロスで転移はしたみたいだな」

「うむ、大丈夫だ、作動自体は設計通りだ。さっき子どもたちが取ってきてくれた黒もじゃらも、術式で上手く働いてくれた。泥棒をホイホイして、もじゃがポイってしてくれた」

「名前そのまんまかい!」

「兄に交渉してもらって転移先に王都の留置牢をあてられたし、これでいつ泥棒に金庫を開けられても問題ないぜ。ちゃんと飛んだかは確認できないけどな!」


 レオはさっき王都に行った際、ライネルに牢屋のひとつを転移先として借りてきていた。そこに転移してきた者は泥棒だから、そのまま処罰してくれと言ってある。

 冒険者ギルドにも、本来規約違反である犯罪依頼があったと連絡を入れてきている。依頼主と盗賊、両方に処罰が下るだろう。……依頼人が誰になっているかは分からないが。


「ねえ、これ、開けたら黒もじゃらに襲われるの? これじゃ貴重品とか書類とか入れられなくね? 金庫(仮)っていうより、金庫(?)って感じじゃね?」

「儂とミワとタイチが開けた場合は、黒もじゃらは反応しないようにしてある。この金庫の中は黒もじゃらにとって快適な空間になっていてな。それを提供した儂らにはおとなしく、それを侵そうとするよそ者には敵意を持って排除しようとしてくれるんだ。黒もじゃらは人間嫌いだが、世話をしてれば懐いてもくれるらしいぞ」

「マジで!? つうか、こいつホントに植物!?」

「おまけに大きくなると家全体を護ってくれたりするらしいぜ。どういう状況か想像つかないけど。ま、何にせよ慣れてからだな」


 触手に護られる家……確かに想像がつかない。


 おもむろにミワが身体に巻いていた書類を解いて、束ねて金庫の扉を開けた。

 するとさっきと違い、黒もじゃらは中でちょこんと鎮座している。

 本当に彼女たちにはおとなしいようだ。

 ミワが書類を差し出すと、もじゃは2本の触手を伸ばしてそれを受け取り、金庫の中にそっと丁寧に片付けた。


「うわっ……何、この気持ち!? ただの黒い触手なのに、何か……カ・ワ・イ・イ! さっきとのギャップに萌えるんだが……! 前も後ろも分かんねえのに! もじゃ萌ゆ!」


 ミワが身悶えている。

 うん、萌えが分散してくれるのは大変良いことだ。どんどん萌えてくれ。


「ひとつしか使っていないようだが、もう片方の『黒もじゃら』はどうするんだ?」

「この金庫は儂用だ。そっちは『もえす』の方に設置する金庫に入れる。工房も自宅も向こうだし、あちらにはもっと大きい金庫を設置するつもりだ」

「ああ、そうか。こっちじゃ店舗がメインだものな。……だがこっちにも工房を作りたいなら、出資するが」


 泥棒騒動のせいで返事が保留されていた出資話を不意打ちで持ち出してみる。すると一旦ぱちりと目を瞬いた魔工爺様は、躊躇いのあった以前とは違う笑みを浮かべた。


「……あんたにはサモナーペリカンの端材を無償で提供してもらったと聞いている。これがもう出資の一環の気がするがな」

「まあ、下心がなかったと言えば嘘になる。少しでも恩を感じてくれたなら成功だが」

「十分成功しとるよ」


 そう言って肩を竦めた彼は、やはり笑顔。


「ただ、儂は孫たちと一緒に創作をするのが刺激になるし、楽しい。だからここに別の工房を作る気はないのだ。以前言ってくれたように、『もえす』まで含めて出資してもらえるとありがたいんだが」

「問題ない。俺たちはあんたの孫の能力も買っているしな」

「ありがとう。資料が盗まれる危険もなくなったし、これからは気張ってアイテムを作るよ。とはいえ流通させる気はないから、儂はあんたらのためだけに魔法道具や消費アイテムを作る。必要なものがあったら言ってくれ」

「分かった。出資金はロバートを通して送る。設備投資が必要なら金額を出しておいてくれ」


 これで魔工爺様のアイテムをあてにできるようになった。レオたちにとってこれは大きいことだ。


 今後、上位ランクのゲートに入らなくてはいけない事案は必ず出てくる。レオは不便や危険に慣れているけれど、ユウトを連れて行くならば万全の準備をして行きたいのだ。その際に、魔工爺様のアイテムは欠かせない。

 レオはユウトのためならいくらでも金をつぎ込む用意があった。




 さて、表向きはこれで一段落。


 しかしながら、パーム工房とロジー鍛冶工房はこんなことでは諦めないだろう。送り込んでくる盗人は次々と牢屋送りになるだろうが、その根本をどうにかしなければ。

 彼らが元・魔研所長と繋がっている事実も看過できない。

 その目的や繋がりを暴き、潰してやる。


 ユウトとの今後の穏やかな生活のために。


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