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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、エルドワを呼ぶ

 背負ってみればそのサイズはぴったりで、レオはようやくこのリュックが確かに自分のためのアイテムなのだと得心が行った。

 そして元々軽いユウトだが、子犬になればさらに軽い。それを背負うレオのステータスも上がっているものだから、リュックの中にいる弟は負荷どころか恩恵でしかない。これなら戦う上で何の問題もないだろう。


 しかしそういう実質的などんなことよりも、ユウトがすぐ側にいるというだけで、レオの気概が違った。

 可愛い姿が見えないのだけは不満だが、その生命を背中に感じる安心感は大きい。もはやこれは兄弟で完成された究極の戦闘形態ではなかろうか。


「俺は無敵になった気がする」

「それは良かった。ユウトくん、危ない時はリュックの中に頭まで隠れるんだよ」

「キュン」

「ユウト、どうせその姿では魔法も使えないんだ。リュックの中で寝ててもいいぞ。俺がその間に終わらせてやる」

「キュン? キュンキュン!」

「あれ、ユウトくん何だかやる気に溢れたキリッとした顔してる」

「何だと!? 俺も見たいんだが!」

「はいはい、それは後で見せてもらって。どうしたのユウトくん。……あ、なるほど! これってそういうことか……!」

「何だ! どうした!?」


 ユウトとクリスが背後で何か確認している。

 めちゃくちゃ気になるが、振り向いたところで見えないのがもどかしい。


「クリス! そういうこととは何だ! 説明しろ!」

「うん。ええとね、どうやらユウトくんも攻撃できるみたいなんだ。ほら、リュックに魔法石がはまってただろう? これがあれば精霊を介さず、子犬の状態でも魔力を魔法に変換発動できるんだよ。こう、肉球を魔法石に当てて……うわ、魔法石ごしに肉球見えるの可愛い」

「俺も見たい!」

「うん、後でね。……よっと」


 クリスはレオのことはさらりと流して、攻撃に来た根を弾き返した。すっかり攻撃パターンを読まれたものの、逆に言えば先回りする向こうの反応もこちらに合わせて次第にパターン化してくる。おかげで攻勢には出れなくても、攻撃をさばくだけならすでに問題ないようだ。

 これはおそらく敵にとっても悪くない状態で、このままユウトだけを狙い、他は近付かないように適当に牽制しつつ、回復の時間を稼げばいいと思っているのだろう。


 こうして消耗も相まって、ある程度油断してくれている今ならばやれる。

 ユウトを背負って無敵感半端ないレオは、全く負ける気がしなかった。


「本体は一撃で確実に真っ二つにできる」

「だろうね。……問題はそれで終わりになるかどうかだ。アンデッドの属性も持っているとなると木魂の方に魔物としての核があるのかもしれないし、未だ主根に危急用の樹液を蓄えていていて、真っ二つにしても修復されてしまうかもしれない」

「すぐ近くまで接近すれば、木魂に吸収されずにユウトの魔法を本体に当てることもできる。魔法石の火力があれば、本体は修復される前に消し炭にできるだろ」

「うーん、まあ、それは可能だろうけど……。木魂が核になっていた場合、あれが残る限り戦闘が終わらないかもしれないんだよね。地上部分を消し炭にしたとしても、地中の主根の中に逃げ込まれるとかなり厄介だ」


 木魂とは木に宿る霊魂、いわゆる霊体だ。つまり木魂自体は物理攻撃を通さない。

 普通のトレントだと魔物の核自体は本体の方にあるのでそれを斬れば木魂も消えるのだが、この亜種はその例に留まらないようだ。


 元々木魂の方が核だったのか、それとも途中で移動したのかは分からない。けれど、アンデッドの属性を発現したその時点ですでに、木魂に核が入っていた可能性は高いだろう。


「木魂みたいな霊魂は、本来ならユウトくんの魔法で倒してもらうところなんだけどね……」

「……だが、魔法攻撃は吸収されてしまう」

「そうなんだよ。……レオくん確かアンデッド特攻の武器持ってたと思うけど、私やネイくんがそれを借りて追従するのは難しいだろう? かと言ってレオくんが武器を二振り持って攻撃に行っても、持ち替えるそのわずかな隙で敵を討ち漏らす危険がある」


 先に本体を真っ二つにすれば、木魂は地中の主根の中に逃げ込んでしまう。先に木魂を真っ二つにしても、核を本体に戻して、元の魔法反射と物理反射に分離してしまうだけかもしれない。

 どちらにしろ面倒なことになるのは請け合いだ。


「理想を言えば、本体への攻撃、木魂への攻撃、ユウトくんの炎魔法、この三つを同時に遂行したいところだけど」

「無茶を言うな。ユウトがいれば無敵なつもりだが、さすがにあれだけの敵を相手に、右と左に違う剣を持って同時に振り回してどうにかなると思うほど慢心はしていない」

「うん、それは分かってるけどね。ただ、私たちには今のレオくんと同時に攻撃に行ける術がないからなあ……」

「キュン!」

「……ん? どうしたの、ユウトくん」


 レオとクリスの話を聞いていたユウトが、不意にリュックから身を乗り出して大きく鳴いた。何かひらめいたのだろうか。いくら弟の言葉でも、さすがに子犬の言っていることは分からない。

 しかしその声の大きさで、どうやらレオとクリスに話しかけているわけではないというのは分かった。


「キュン! キュンキュン!」

「ガアウッ!」


 それに応えたのはエルドワだった。

 向かってくる根との攻防を切り上げて、巨体に似合わぬスピードで駆けつけてくる。

 そして脇目も振らずユウトの入っているリュックに鼻先を近付けると、ユウトが労うようにその鼻頭を肉球でぽんと撫でた。


「キュンキュン、キュゥン? キュン」

「グゥ、ガウ。ガウ、ガア」


 二人のやりとりは、やはり何を言っているか分からない。

 しかしその様子を見ていたクリスが、ああ、と手を打った。


「そう言えば、エルドワは地獄の門番の一族の血を引いているから、アンデッド系には特攻あるんだっけ。もしかして、霊魂も捕食できるのかな」

「そういやそうだったな。おまけにユウトの側にいるとステータスが上がるんだったか。……だがさすがにエルドワでも、ユウトを『装備』している俺についてこれる速さはないと思うんだが……」

「ガウッ! ……アン!」

「えっ? エルドワ?」


 不意に鳴き声が変わったことにレオが振り返ると、目を丸くしたクリスの足下に子犬に戻ったエルドワがいた。

 一瞬どうしたのかと思ったけれど、しかしレオもクリスもすぐにその行動の意味を理解する。


「そうか! エルドワも俺がリュックに入れて連れて行けば、同時攻撃に参加できる……!」

「なるほど! ユウトくんがわざわざエルドワを呼んだのはこのためだったんだね!」

「キュン」

「アン」


 二人の肯定の鳴き声を聞きつつ、クリスがすぐさまエルドワを抱き上げてユウトと同じリュックに入れる。子犬とはいえ、さすがに一人用に二人が入ると狭そうだが大丈夫だろうか。

 しかし心配するレオを余所に、二人をリュックに収めたクリスはにこにこと目尻を下げた。


「うわあ、何これ和むなあ。リュックにころころもふもふの可愛いがみっちり詰まってる」

「俺も見たい!」

「レオくん、我慢我慢。後のご褒美に取っておいて」

「そう言うあんただけがご褒美映像見てるのは理不尽じゃないか!?」

「だって君に見せたら、可愛すぎてリュックを前に抱えて行くとか言いそうだもの。……そもそもそれほど見たいなら、ここで押し問答しているよりトレント倒してくる方が早いんじゃないかな? ねえ、二人とも」

「キュン」

「アン」

「くそっ、可愛いを味方につけやがって……!」


 こうして攻撃の算段が整った今、確かにクリスの言う通り、トレントを倒しに行った方がいいのだろう。それをユウトとエルドワにも同意されて、レオは悪態を吐きつつも左手を剣の鞘に掛けた。


「トレントを倒したら、撮影会だからな!」

「はいはい。楽しみすぎて、先走って失敗しないようにね」

「するか!」


 戦闘と可愛いは別だ。

 ひとつ深呼吸をして、レオは自分の中でスイッチを切り替える。

 特に今はユウトのおかげで集中力が爆上がりしているのだ。トレントを倒すことに照準を合わせれば、自身の動くべき道筋が見えるようだった。


「……行くぞ。ユウト、エルドワ、振り落とされるなよ。攻撃は三人同時だ。俺が鞘から剣を抜いたら、すかさず攻撃に行け」

「キュン」

「アン!」


 エルドワが木魂に飛び掛かれる位置で足を止めれば、この優秀な子犬はレオとほぼ同時に敵を屠ってくれるだろう。小さいからといって、その能力が衰えるわけでなないのだ。

 一方でユウトはレオと同時に行動を起こしても、間違いなく一瞬の遅れが出る。それがちょうど、レオがトレントを両断した直後の魔法発動になるはずだ。タイミングとしては最善にして最良。


 これならいける。

 絶対の自信を持って、レオはトレントに向かって駆けだした。


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