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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、本能的な危機感が募る

 フィールドがうねっている。広場を形作っていたオブジェや柵が軒並みゴトゴトと倒れていく。

 これはトレントが恣意的に地震を起こしているのではなく、地中にある根を移動させているからのようだった。


 さっきまではフラットな地面だったために側根の這っている場所がある程度分かったけれど、今はどこもかしこもモコモコと土が盛り上がって、その特定が難しい。その上、地中の根の動きでエリア全体の土が解され、ふかふかになった足下に踏ん張りが利かず、何とも動きにくい。

 まるでよく耕された畑の中に立っているようだ。


 そのせいで移動のスピードを殺されたネイが、たまらず足場の上に乗った。


「うわ~まさかこんな原始的なやり方で速さを封じられるなんて!」

「逆に土が軟らかくなればなるほど、トレントの根は地中で動きやすく、スピードも上がる……! レオくん、エルドワ、気をつけて! 根が攻撃してくるかもしれないし、真下の土を抉られて落とし穴を掘られる可能性もある!」

「くそっ、確かにこれはまずい……! エルドワ、首輪にブーツを収納してるなら今のうちに履いておけ!」

「ガウ!」


 とりあえず以前もえすで作った沈下無効のアイテムがあれば、落とし穴に落ちる危険だけは回避できる。

 エルドワにそれを装備するように指示すると、レオはユウトを振り返った。

 一応レオもユウトも沈下無効のブーツの中敷きを装備しているけれど、心配なことには変わりない。


 見れば弟は周囲のオブジェと同様に、堪えきれずに背中から転がっていた。


「だ、大丈夫かユウト!?」

「う、うん、平気。揺れで立っていられないだけだから」

「しゃがんでいてもいいから、靴底を地面に付けておけ! そうでないと沈下無効が発動しない!」

「わ、分かった」


 できればすぐに駆け寄って自らの手で抱き起こしたいところだが、それではレオの動きのせいでユウトが注目されてしまう。それは本末転倒だ。

 兄は弟に声を掛けるだけにして、自分は少し離れたところでユウトのところに向かおうとする根の動きに気を配った。


 すぐ近くで動いているのは分かる。

 ただ、全方位から殺気が来ているし、地中をミミズのように這い回る根を捉えるのは困難だ。

 先ほどまでのように地表すれすれに網の目状に根を張り巡らせていたのと違い、潜っている深さもまちまち。

 現状を把握しきれていない、あまり良くない状況。


 レオは苦肉の策として、ユウトの方に敵の意識が向かないように、わざと自分を囮に動き回ることにした。


「レオさん、ユウトくんを一人にして大丈夫!?」

「木の根をどうにかするまでは、不用意にユウトに近付く方が危険にさらすことになる! それより俺たちで根っこの気を引くぞ! 狐、貴様も沈下無効が付いてるだろう! どうせ攻撃も役に立たないんだから、降りてきて囮になれ!」

「レオさん、言い方が辛辣すぎる!」

「ネイくんごめんね! 私が君に比べて特攻持ちで役に立つばっかりに!」

「あんたは逆に失礼!」


 文句を言いながらも、ネイが足場から降りてくる。うねる地面に顔を顰めるが、さすがに身体のバランスを崩すことはないようだ。

 足場に残ったクリスが次々に枝を断ち、キイとクウが空から葉を焼き、凍らせる。しかしやはりすぐに修復されて、効果のあるダメージは与えていない。せっかくの特攻持ちだが、現状こちらもあまり役に立っているとは言い難かった。


「ほんと、この樹液が厄介だなあ! だいぶ消費させたと思うんだけど、無尽蔵かな!?」

「おそらく根から水を吸い上げて生成しているんだろう! とにかく根をどうにかしないことには始まらん! エルドワ、狐! 攻撃は二の次にして、囮になりつつ根の動きと総本数を探るぞ!」

「了解です!」

「ガアウ!」


 レオの指示で、地上組が動き出す。

 すると足の下で数本の木の根が蠢く気配がした。

 やはりこの根っこは移動するものを追尾するようだ。ただ、同じ根が一人を追うのではなく、場所ごとに別の根に追尾をスイッチしている。常に同じ数でこちらを警戒しているのだろう。

 レオは動き回りながらその気配を探った。


「くそ、殺気ばかりプンプンさせてるくせに攻撃を仕掛けてこないから、気配が絞りきれん……」

「うーん、ぐるりと一周してみた感じ、側根はトレントを中心に地表近くに八本あるようです。さらに深部は分からないですけど」

「通常のトレントは身体を支える主根を合わせて根は十一本だったな。そう考えると、深部にまだ側根を潜ませていると思っていいだろう。……ここまで攻撃を仕掛けてこないところを見ると、不意打ちでの一撃必殺を狙っているんだろうな」

「でしょうね。亜種とはいえトレントなら、根っこを使っての奇襲攻撃は十八番のはずですから」


 枝やツタでの攻撃は厄介だが、通常トレントで一番怖いのはどこから来るか分からない地中からの攻撃だ。

 弱点であるウロへの攻撃が難しい場合、やはり攻略するなら根からであり、それを地表から狙えば向こうからも狙われる。


「本来、センサーの役目をする根と攻撃用の根は別ですけど、この亜種は共用っぽいですね。多分攻撃力も手数も段違いかと」

「なるほど、共用か……。ということは、今は地中の全部の根が攻撃に移行していると考えていいな。それならいくらかやりようはあるか……」


 ネイの推論が正しいとすれば、現在の根を使ったセンサーはさっきほどの精度を持っていないはずだ。自らも動いていれば、どうしたって相対的なズレが生じるのだから。おそらく把握されているのは居場所と移動方向程度。


「……これならどうにかなるか。あのトレントが俺たちの思う以上の能力を持っていなければ、だが」


 そう呟きつつも、レオは未だ不気味なほどにぬるい敵の攻撃に、どこか本能的な危機感を覚えていた。


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