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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、戦闘エリアに侵入する

「エルドワ、おいで。僕の血をあげる」

「アン」


 戦闘エリアに入る直前、ユウトはエルドワに血を差し出した。

 すでに犬の姿に戻っていたエルドワは、尻尾をぴるぴるしながら主人に寄ってくる。まるで大好きなおやつを見せられた子犬のようだ。


 グラドニからもらった力に加えてユウトの魔力も体内へと取り込むべく、ぺろりとその血を舐める。

 するとエルドワは、途端にその姿を変えた。


「ガアウ!」

「……あれ、エルドワ何だか前より大きくなってない……?」

「わあ、魔界の文献で見た冥界の門の番犬の姿にそっくりだね! 牙が鋭くて強そう! 前腕と腿の筋肉すごいな、素早さもかなりのものだろうね!」

「うわあ~、エルドワ前よりすごいグレードアップしてる? グラドニの血のせいだけじゃなく、ユウトくんの魔力も強くなってるからだろうな」


 子犬はグンと成長して、体高だけでユウトの身長を軽く超えてしまった。以前よりも一回り以上大きい筋肉が付き、巨大なオオカミのような精悍な見た目になっている。

 ただその尻尾だけは子犬の面影を残し、ぴるぴると振られていた。


「エルドワ、もう準備は良いな?」

「ガウ!」


 声を掛ければいつもと違う獣の鳴き声がする。しかしその響きは従順で、確かにあの子犬なのだと隣でユウトが笑った。


「では行こう。気を抜くんじゃないぞ」

「了解で~す」

「うん、頑張ろうね」

「ガオ!」

「みんな、気をつけて下さいね」


 レオの合図で全員が敵のフィールドに入っていく。

 途端に足の下に微かな弾力を感じるのは、この真下に木の根っこが張り巡らされているからだろう。

 それを不快に思いながら、まずレオとユウトがそこで足を止めた。

 索敵範囲のギリギリ内側。二人の待機場所はここなのだ。


 他の仲間たちはそのままトレントの方に向かう。

 その間にユウトが準備していたクズ魔石の足場を取り出して、ふわりと宙に浮かせた。


「足場はトレントを囲むように配置すれば良いかな?」

「ああ。それぞれの距離は一定で、一つ置きに高さだけ変えろ。低い方は地上一メートルくらい。高い方は上の枝葉に届くくらいがいい。トレントに感知されないレベルの魔力で足場を維持するんだぞ」

「ん、分かってる」


 こういう時、以前リトルスティック・ベーシックで培った微妙な魔力の扱いが物を言う。

 敵は強くなればなるほど、取るに足らない微々たる魔力に意識を向けなくなるものだ。それを逆手にとって、ユウトは最小限の魔力でもって、足場の存在を感知させないようにする。


「よしっ、設置できた!」

「ではそのまま保持。向こうもそろそろ仕掛ける頃だろう」


 最初の一手はネイが行くことになっていた。

 あの男はパワーは足りないが、図抜けたクリティカル率を持っている。初撃は様子見とはいえ、幹に渾身の力を叩き込みに行くはずだ。

 後はそれに対し、トレントがどんな反撃を見せるかで展開が変わる。

 そこからは個々人の対応力が肝となるのだ。


「あ、ネイさんが手を振ってる」

「……振り返してやれ」

「うん」


 これはあちらが攻撃を始める合図だ。

 ユウトが手を振り返せば、こちらも了承の合図になる。

 そこでクリスとエルドワは立ち止まり、ネイだけが前に進んだ。


 一歩、二歩。

 すると明らかに大木が葉を揺らし、枝に絡まっていたツタが蠢き始める。接近するネイを攻撃対象者としてロックオンしたのだ。

 その殺気が自分に向いたことで、ネイにもスイッチが入る。

 次の瞬間、その姿はユウトの視界から消えた。


「あれっ? ネイさんいなくなっちゃった……?」

「いや、左に回ってる」


 すでにネイはトレントを惑わし、ツタや木枝の照準を狂わせている。

 その素早い移動は、今は遠目で見ているから把握できるが、目の前でやられるとレオですら追い切れないほど難儀なのだ。

 その動きによって敵を混乱させると、ネイはついに逆手に握っていた短剣を振りかぶった。


「よっと!」


 軽いかけ声と共に振り抜かれた剣は、レオの予想と違わず幹に向かう。それは小気味よい音と共に、トレントの木肌へとめり込んだ。

 ……と言っても、切っ先がほんの少しだけ。

 聞こえたよく通る高音の攻撃は間違いなくクリティカルだったはずだけれど、どうやらそれでもネイの腕力ではここまで。防御力もだいぶ高いようだ。

 ネイは剣をすぐに引っこ抜くと、即座に飛び退いた。


「そろそろ来るよ! 構えて!」


 それと同時にクリスが叫ぶ。

 この攻撃で、トレントが完全な臨戦態勢になったのだ。

 地中で根っこが蠢いているのかレオたちのところまで足下がぐらぐらと揺れて、兄は慌てて弟を抱き上げた。


「キシャアアアアアアア!」

「うわ、トレントに顔が出た! 何かゾンビみたいで怖い!」

「俺がついているんだから怖がる必要はないぞ、ユウト」


 トレントの幹に現れたウロでできた目は、確かにこうして見ると虚ろで得体が知れなくて、かなりホラーだ。しかしよく見ると、腕にあたる枝もある。トレントが巨人族ジャイアントにも区分されることを考えれば、木に顔があるのはそれほど違和感のあることではなかった。


 ビビる弟を宥めながら、レオは今のうちに必要な情報を与える。


「ユウト、覚えておけ。今は目に光がないからゾンビのようだが、逆にあそこに明かりがともった時の方が要注意だ。トレント系は、あそこに『木魂こだま』を宿しているからな」

「……木魂?」

「木魂は攻撃を跳ね返す反響シールドだ。明かりが点いていない時、あの目のウロは木の芯に繋がっていて、そこに攻撃を届かせることで内側からダメージを与えることができる。しかし赤い明かりがともっている時は物理攻撃を反射し、青い明かりがともっている時は魔法攻撃を反射する。芯を狙ってむやみに攻撃するとこっちがダメージを食うから気をつけろ」


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