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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、エルドワの『魔物食い』の素養を知る

「アンアンアン!」

「どうしたの、エルドワ?」

「アン! ワウ!」

「うーん、やっぱり犬耳着けてないと何言ってるか分かんないや」


 どうやらやる気に満ちあふれているらしい子犬だが、いかんせん前向きなニュアンスしか伝わらない。

 ユウトがエルドワの前にしゃがみ込んで、小首を傾げた。


「エルドワ、何か言いたいなら一旦人型になった方が早くない?」

「ユウトが犬耳着けて話を聞くのでもいいぞ。後で俺たちに伝えてくれればいい」

「うわ、ナチュラルに私情挟む~。レオさん、W子犬で和みたいだけでしょ」

「気持ちは分かるけど、エルドワが参戦するつもりなら私たちも直接話した方がいいね」

「ですよね。ほらエルドワ、人化して」


 レオの提案はあっさりと流された。

 そしてユウトに命じられれば、子犬はすぐに人型へと変化する。

 やる気満々で耳と尻尾をピンと立てたエルドワは、人の姿でもまたぴょんと飛び上がった。


「エルドワ、あいつと戦う! あいつ、食える匂いがする!」

「食える匂い? ……お前がトレントを食うってことか?」

「そう! 根っこ切ってもくっついちゃうなら、食べてなくしちゃえばいい!」

「エルドワって魔法生物系の魔物食えるの? ……あ、そういや以前俺も一緒に入ったゲートで、スケルトンとかバリバリ食ってたっけ。でもそれ以外であんまりイメージないなあ」


 確かに。エルドワは骨は食うが、嗜好自体は人に近く、他の魔物を好んで食べる印象はない。少なくとも今までは。

 しかしこの子犬から『魔物を食べる』と聞いて、レオははたとその変化の理由に思い当たった。


「……もしかして、グラドニの血を飲んだせいか?」


 グラドニにとって、ほぼ全ての魔物は食物だ。だとすれば、その力を与えられたエルドワも、影響を受けたのかもしれない。


「グラドニの影響も多分あると思う。でもエルドワのおやじさまも魔物食べるから、そもそもは血筋かも」

「えっ、おやじさまって……エルドワのお父さん!?」

「そう。エルドワのあごの強さはおやじさま譲り」

「言われてみればエルドワって、半魔とはいえ冥界の門の番犬の血筋だよね。私が見た魔界の本の逸話では、番犬が冥界への侵入者やそこからの脱走者を食べてしまう描写をよく見たよ」

「あー、こっちの世界にある絵本とかでも、悪いことをして冥界送りになった時に逃げだそうとすると、門の番犬に食べられる話があるね」

「……ってことは、エルドワは元々魔物食いの血筋で、グラドニの血の影響でそれが顕在化してきたってことか」


 だとすると、魔物を食べることによる身体への悪影響はさほど気にしなくていいだろう。

 おそらく今までは、まだ子供だったエルドワの体内には数多の魔物を消化できるほどの機能がなかったに違いないのだ。それが、グラドニの血によって消化器官を強化され、体内環境が整った。


 エルドワの身体が、『魔物食い』として目覚めたのだ。

『魔物食い』は絶対的捕食者……ヒエラルキーの上位の証。魔物であればどんな者も捕食対象になり得る。


「じゃあエルドワも前衛に出てもらった方がいいな。……そうすると後衛でのユウトの護りを誰がするかだが」


 ネイはトレントを惑わす動きができるから外せない。クリスは斧による特攻がある。エルドワも敵の回復を阻止するために必要。キイとクウは状況に応じて、ヒットアンドアウェイで戦闘をサポートしてもらわなくてはいけない。

 ……そうすると、残るのは。


「ユウトの護りはレオがすればいい。そうすればエルドワも安心」

「そうだね、レオくんが適任かな。敵との兼ね合い的にも」

「トレント系って特攻のない長剣で相手するの大変ですしね。すぐにツタに絡め取られちゃうから」

「……くっ、この戦闘では俺が一番不要か……屈辱だ」


 ユウトの護りをすることにもちろん否やはないが、初めて自分が攻撃のメインから外れたことが地味にショックだ。これまで最強だ剣聖だと謳われてきたというのに。


 しかしここで無理に我を通すことは命取りだと分かっている。そこまで浅はかな者は生き残れないのだ。

 ここは弟のためにも耐えよう。

 そうして顔を顰めつつも状況を受け入れるレオに、ユウトが顔をのぞき込んできた。


「レオ兄さん、僕のことは護らなくても平気だよ? フィールドの隅っこで足場を浮かせてるだけだし、他に敵はいないし。レオ兄さんは本当に強いんだから、やっぱり前衛に……」


 ショックを受けているレオを気遣っているのだろう。

 なんて健気で可愛い弟だ。

 それだけで眉間のしわが解けて、思わず抱きしめる。


「問題ない! 俺はユウトの側を片時も離れん! 俺にお前を護る以上の重要な役目などありはしないんだからな!」

「レオさん立ち直り早っ」

「ふふ、でも変に拗ねられるより全然いいじゃない」

「レオは分かりやすい」


 なんとでも言うがいい。

 結局レオにはユウトが居ればそれでいいのだ。


「では、俺はユウトとフィールドの端で待機する。……できればユウトはエリア外に置きたいが、戦闘が始まると空間が閉じる可能性があるからな」

「うん。これだけ周囲と明確な区切りがあるところを見ると、そうなるだろうね」

「キイとクウも分かってるから高度下げてきてるみたいですしね」

「エルドワは同じエリアにユウトがいると力が湧くから嬉しい」

「僕も、みんなの役に立ちたいし、一緒がいい」

「……そうだな、全員で行こう」


 ユウトを危険なところに置きたくないが、その力をあてにしているのも事実。

 今回はその弟を自らの手で護ることができるのだから、いくらか安心だし、気合いも違う。きっと突破してみせる。


 こうして役割配分が終わったところで、5人は再び作戦を摺り合わせると、今回の戦闘に必要なアイテムを取り出しやすいように整理して、準備を終えた。


 さあ、戦闘開始だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここ数日で徹夜も含めて一気読みしてやっとここまで来ました! 最初から少しずつ散りばめられた謎が、読み進めて行くうちに解けていきつつ、どんどん新しい謎も増えて、ちょっと解決しても少し謎を残…
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