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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、クリスの憎悪の大斧を問題視する

 王宮前の大きな広場。そこに差し掛かると、エルドワが身体を低くした。

 レオたちにも警戒しろということだろう。すでに強者の気配は痛いほど感じている。まずは敵の姿を確認しようと、一行は物陰から周囲を窺った。


「……ん? 何かこの広場だけ、生気に溢れてないですか?」


 そしてまず、その違和感に気付いたのはネイだった。


「ほんとだ。奥の花壇に花が咲いているね。水場もあるし広場のあちこちにある立ち木も青々としてる」

「特殊なフィールドかもしれん。一度乗り込むと戦闘から逃げられない仕様になっている可能性があるな」

「あっ、見てレオ兄さん! 広場の向こう、王宮に続く道の途中に階段がある!」

「うわあ、あの辺も特殊フィールドの中っぽいですよね~。ここが索敵範囲だとすると、忍んでいこうとしても降りる前に敵に見付かるだろうなあ」


 やはり敵を倒さないと次には進めないようだ。

 今後全部のフロアが同じ仕様とは限らないが、覚悟はしておくべきだろう。


「……ところで、肝心の敵はどこなのかな? レオ兄さん、分かる?」

「まあ……多分あれだろうな」

「そうですね、おそらくあれです」

「やっぱりあれかあ」

「アン」


 さすがにユウト以外は全員、敵の見当がついている。

 その答え合わせのように空を仰げば、キイとクウが広場の真上を飛んでいた。その真下にあるのは……そう、広場中央のひときわ目を引く巨木だ。

 風もないのにさわさわと木の葉擦れの音がしている。


「このフロアの敵はトレントだ。あの中央のデカい木があるだろう」

「えっ!? あの木が魔物なの?」

「うん、厄介だよね。気配が分散しているところを見ると、おそらく地下一面に根っこが張り巡らされてる。一応攻撃してくる根っこはそのうちの何本かの側根だけど、それ以上にセンサーを兼ねた根毛によって、私たちの動きを感知されることが面倒なんだよ」

「地中に張り巡らされた根っこのせいで、地面一体が俺たちの動きを把握する高性能な圧力感知板になってるみたいな感じだからね~。それで行動を先読みされて、踏み切る瞬間に地面が陥没したり足首掴まえられたりして、思う通りに動けないのがまた腹立つんだよね」

「さらにこいつはその亜種だ。もっと面倒な相手だと考えた方がいい」

「ええ~……」


 ユウトが難敵の出現に眉尻を下げるのを、レオは頭を撫でて宥める。

 何にせよ、一筋縄では行かない敵が出てくるのは想定内だ。それでもありがたいことに索敵エリアに入るまでは動かないようだし、今のうちに作戦を決めてしまおう。


「おそらく木に擬態している間は、ある程度近付くまでは攻撃してくるまい。ただ動きは把握される。基本は、対応される前に素早く動くことだ」

「俺は重心移動を意図的にずらしたり、反応される前に動くのは得意ですから、様子見の初撃は俺が行きますよ。ただ、特攻武器とかじゃないんで、大したダメージは与えられないと思いますが」

「トレントは樹人……括りとしては植物プランツ巨人族ジャイアントだからな。俺も獣や竜への特攻武器はあるが、植物や巨人特攻は持っていない」

「あ、じゃあ私が一番有利かな? 一応、斧は植物樹木系に特攻があるから。……とうとうこれの出番が来たね」


 そう言いつつクリスが意気揚々と取り出したのは、以前手に入れた憎悪の大斧(ヘイトアックス)だった。


 敵を倒し、その憎悪ヘイトを蓄積することで威力を増していく、クリスにしか扱えない斧型ユニーク武器。それが憎悪の大斧だ。

 これはどんどん攻撃力が上がっていくが、憎悪が溜まりきった時、瀕死の大ダメージを食らうリスクがある諸刃の剣である。いや、この場合諸刃の斧か。どうでもいいが。


 とにかくそれを見た途端、ユウトが青ざめた。


「だ、ダメですよクリスさん! そんな危ない武器を使っちゃ!」

「平気だよ、まだほとんど使ってないから大してヘイトも溜まってないし。それに今のうちにどのくらいでヘイトが溜まりきるのか、できるだけデータを取っておきたいんだよね」

「ヘイトが溜まるまで使う気満々じゃないですか! 全然平気じゃない!」

「大丈夫、私にはそうそう死なない加護が掛かってるから」


 元々リスク上等のクリスは、やはり生存に幸運を全振りしている自分の加護を知ったせいで、さらにリスクを冒すことに躊躇いがなくなっている。

 本気で心配するユウトを余所に、笑顔で言い放った。


「まあ、溜まったヘイトを被ったところでHPは1残るんだし、親切じゃない? 万が一死んでもレオくんが蘇生用のリバースリング持ってるからどうにかなるでしょ」

「稀少なリバースリングをこんなとこであてにすんな。3回しか使えないんだからな」

「万が一の話だよ。多分死なないから問題ない」

「いや、だいぶ問題なんですけど!?」


 ユウトからかなり強めに突っ込まれても、クリスは笑顔でどこ吹く風だ。強い。レオなら弟に嫌われまいかとハラハラして、すぐに従ってしまうというのに。

 柔和そうな顔をして、中身は本当に無茶な男だ。


「……ユウト、クリスには何を言っても無駄だ。ここで説得に応じて見せても、どうせすぐに勝手な自分判断で危ないことするからな」

「臨機応変と言って欲しいなあ。一応私はその時々で一番利のある判断をしているつもりだけど」

「利と一緒にリスクも取るから怖いんですよ!」

「うん、ごめんね」


 ぷりぷりと怒るユウトに、クリスはにこやかな顔で頭を撫でる。

 驚くほど弟の怒りが届いてない。

 その悪びれない様子に毒気を抜かれ、怒る気が失せたユウトはただ大きなため息を吐いた。


「……もしも斧の返りダメージを受けたら、すぐに薬で回復して下さいね。近くにいたら僕も回復できますし」

「ありがとう、頼りにしてるよ。他にも君たちに取り戻してもらった定期再生魔法リジェネレイトの魔石も持ってるから安心して」

「……安心はできないけど、許容します。仕方なく」


 まだ多少不満げなのは仕方あるまい。弟はそれで言葉を収めた。

 それに微笑んだクリスが再び話を戻す。


「さて、通常のトレント攻略と同じなら、まずは根っこを切るのが先決だよね。主根は難しいけど、めぼしい側根を切り離せれば地下に張り巡らされた根のセンサーが使い物にならなくなるし」

「ただトレントを筆頭に植物系は治癒が早いからな。切ってもすぐに樹液で接合しちまうだろ。特に今回の亜種だとさらに治癒が早くて厄介だろうし、イタチごっこになりそうだ」

「まあ、それはね。特攻のおかげで私の攻撃は通りやすいけど、治癒は阻止できないから」

「皮肉な話ですが、俺たちみたいな腕に覚えのある者の攻撃だと刃物傷の切り口が綺麗で細胞組織が壊れないから、接合しやすいらしいですしね~」


 ダメージを与えたところで、すぐに回復されては意味がない。

 根性論で突き進めるゲートでは到底なく、レオたちは初っぱなから考え込む羽目になった。

 特に後々のことも考えれば、できるだけ効率よく行きたいのだ。

 そう頭を絞るレオに、隣からユウトが訊ねてきた。


「僕の魔法は? 植物系なら炎の魔法が効くんじゃない?」

「あそこまでデカいと、炎の魔法も表面を焼くだけだ。地下の根から水を吸い上げてダメージを減らされる上に、やはり回復も早い。それにユウトには攻撃より、根っこをどうにかするまでの間、足場を作っておいて欲しいしな」

「あ、そっか。地面を移動すると行動を読まれちゃうもんね」


 そうだ。ネイのようなトリッキーな動きができないレオとクリスは、足下を取られると攻撃の踏ん張りが利かないし、攻撃のタイミングもバレバレになってしまう。

 ならばユウトにクズ魔石で作った足場を浮かせてもらって、そこを移動するしかない。


 つまり直接的なトレントへの対応は、こちらでどうにかしなければならないのだ。


 だが、どうするか。再び同じところに思考が戻って、腕を組んで考え込む。

 すると、弟の足下にいた子犬がぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 エルドワにはユウトを護ってもらうつもりだったからここまで言及をしてこなかったのだが、どうしたのだろう。


「エルドワ?」

「アン!」


 ……これは何かの自己アピールだろうか。なんだかキリッとした顔をしている。


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