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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、キイとクウの行動の意味を知る

「レオ兄さん、どうしたの?」


 クリスと同様に固まってしまったレオを見て、ユウトが首を傾げつつその袖を引いた。

 それにはっとして眼鏡を外すと、ユウトにも掛けさせる。

 すると弟も同じように看板の文字を眺めたところで固まった。


「……えっ? リインデル術式研究所……?」

「ん? リインデル……って、リインデル? この建物の名前?」


 ユウトの呟きに、直接看板を見ていないネイが目を丸くする。

 そこでようやくずっと黙っていたクリスが口を開いた。


「……昔、リインデルの村の名前の由来についてお爺さまに聞いたことがある。古い言葉で『リイン』は転生や化身をさせること、『デル』は削除や消失を意味し、『リインデル』はこの二つを合わせた造語なのだと」

「それはまた……ずいぶん縁起の悪そうな名前にしたもんだな」

「私も初めて聞いた時は、何でわざわざそんな名前にしたんだと思ったよ。でもだからこそ、そんな縁起の悪そうな名前がこの建物の名前と偶然一致するなんてありえない。……おそらく、この名前は意図的に私の村に引き継がれたんだ」


 この建物が、クリスのいたリインデルの村のルーツだということだろうか。だとすると、当然意味があってのことに違いあるまい。リインデルの村はここから名前と一緒に何を引き継いだというのか。


「……『リインデル』の名はまとめると、『輪廻させずに消す』っていう意味なのかね。魂の循環から外し、消滅させる……? このラボは、その術式を研究していたってことかなあ」


 ネイが言うように、この研究所の看板にある『リインデル』は、名というよりは研究内容を表していると考えられる。だとすれば、もしや死生観や倫理感を問われる研究をしていたのだろうか。

 しかしクリスはその推論に同意することはなく、小さく唸って顎を擦った。


「ん~……人の輪廻を人為的に管理することに、特にメリットはない気がするよ。そもそも『消滅』に特化していることからして、別の意図があるんじゃないかな。……例えば、人以外の何かを対象にしているとか」

「人以外の何かって……あっ! もしかして『アレ』ですか!?」


 クリスの言葉にユウトがすぐに反応する。

『アレ』というのはもちろん『復讐霊』のことだ。ここは空間が繋がっていないからその名を口にしても問題ないのだが、弟は律儀に指示代名詞を守るらしい。

 ユウトの出したその答えに、クリスはうむと頷いた。


「復讐霊の創造主への転生を阻止し、消滅させる……。これが正確な解釈として合っているのかは分からないけど、そういう意味の機関の名前だとすれば……」

「ここがエミナの『復讐霊対策術式本部』だったってことか」

「多分ね。……そして我が故郷リインデルには、何かしらここから引き継いだものがあるはず……。一体それは何だったのか……」


 クリスにしては珍しい、難しい顔で黙り込む。

 おそらくこれまでの村での記憶、祖父との会話、目にした文献などを脳内でさらっているのだろう。

 しかしそれは思いの外短い時間で終わり、彼はすぐにいつもの顔でこちらを振り向いた。


「まあ、ここで考えていても仕方がないね。情報が少なすぎるし、見たところ瓦礫の中にヒントになりそうな物も見当たらないし。奥にある王城の方が期待できそうだから、そっちに向かおうよ」


 切り替えが上手いというか、相変わらず重い感情を隠すのに長けた男だ。色々思うところはあるだろうに、クリスはそれを外に出すことをしない。

 それが大人だと言えば、まあそうなのだろう。だがレオから見ると、難儀な性格だなと思う。


 この男はこうして日々生まれる感情の澱を、どう消化しているのか。……もしも腹の底に長年溜め込んでいるのだとしたら、少々恐ろしい。こういうタイプこそ、プッツンすると怖いのだ。

 とはいえその矛先が、仲間の方にくる心配はあまりしていないけれど。


「あっ、クリスさん、待って下さい。先に、さっき宝箱で手に入れた物を見て欲しいんですけど」

「うん、何が入っていたんだい?」


 いつもの様子に戻ったクリスに、ユウトが声を掛ける。

 ユウトは特に仲間の感情に影響を受けやすい。それも分かっているからこそ、クリスは努めていつも通りを装うのだ。


 使役する強大な力からユウトを守るには、その精神の安定を自分たちが護ってやらなければと彼は言っていた。

 それを大人としての責務と自負している限り、弟の前でクリスが負の感情を顕わにすることはないのだろう。


「宝箱に、何だか不思議な石が五個入っていたんです」

「不思議な石?」

「はい。この赤い燃えるような……」


 言いつつユウトが先ほど手に入れた石をポーチから取り出した。

 それを見たクリスが、明らかに目を輝かせる。これは素だ。興味深い物を見付けた時の彼はその表情を隠さない。


「これは私も見たことがないな。でもすごくエネルギーを感じるね。固定アイテムの宝箱から出たことを考えれば、世界にとって重要な物だろうけど」

「クリスさんも見たことないんですね。グラドニさんとかジードさんなら分かるかな」

「どうだろう。これはこの場で見付かったことから考えても、『ここ』で人工的に創られた物じゃないかと私は思うんだ。グラドニさんが知っている可能性はあるけど、ジードは知らないかもね」

「ここで創られた……っていうと、この研究所で、ってことですか?」

「そう」


 クリスは頷き、ユウトの手のひらから石を受け取る。

 そしてその形をなぞるように指を滑らせた。


「さっき、あそこに術式装置があったろう? そこに、ちょうどこのくらいの大きさの、ティアドロップ型のくぼみがあった。もう大半が壊されていて一つしか見えなかったけど、もしかすると五つのくぼみがあったのかもしれない」

「えっ? てことは、これはあの装置の関連アイテム……? でも、あんなに壊れてしまっていては使えませんよね」

「これはあくまで私の個人的かつ希望的な推論だけど。……固定宝箱には、世界から失われたら困るアイテムが入っているんだろう? だとしたら、まだ今後別の形で使用する機会があるんじゃないかな」


 にこりと笑ってクリスは石をユウトに返す。


「だからとりあえず、今の時点では答えが見付かるまで前に進むのが先決だ。……もうここには何もない。進もう」


 言葉の最後に惜別のような哀愁のような複雑な響きが乗ったことにレオとネイは気付いたけれど、特に何も言うことはしない。

 それを指摘されたとてクリスも困るだけだ。

 レオは彼の言葉を言葉のままに自分の方に引き取った。


「そうだな、何もないなら進むか。まだ先はどれだけ長いか分からないんだ。……ただ、その前にあいつらの話を聞く必要がありそうだが」


 レオが視線を上げると、全員がつられて空を見る。

 すると羽ばたきの音が二つ、上空から降りてくるところだった。

 さっきまで遠くを飛んでいたキイとクウだ。


 二人は地響きを立てないようにふうわりと着地すると、すぐに言葉を話せる小さなドラゴンの姿に変化した。

 そして、いつも丁寧な彼らには珍しく、前置きもなしにしゃべりだす。どうやら慌てているようだ。


「レオ様、レオ様。大変です」

「どうした、キイ、クウ」

「フロアにいる敵が二匹になりました」

「……は?」


 妙に焦っているからどうしたのかと思ったが、こちらが何もせずに宝箱を開けていた間に敵が四匹から二匹に減ったという。

 もしかしてこの間に外に排出されたのだろうか。だとしたら朗報ではないのかと思ったが、竜人二人はとんでもないと首を振った。


「最初一匹減った時は、キイたちも外に排出されたのかと思ったのですが」

「残った三匹のうちの一匹が、明らかにクウたちが確認した時と姿を変えていたのです」

「それを不思議に思い、キイが皆様の上空で待機しつつ、クウに敵の様子を見に行ってもらっていました」

「ふむ……クウが離れた場所を飛んでいたのはそのためか」


 もちろんキイとクウがこんな時に勝手なことをするわけもないけれど、その理由に納得する。

 そのまま視線で続きを促したレオに、二人は話を続けた。


「その後、二匹に減った時にまた一匹が姿を変えました。この時点で、ようやくクウたちにも事の因果らしきものが分かったのです」

「因果?」


 敵の変化に、何かきっかけとなる要因があったというのか。

 一体何が、と不可解に思っていると、答えはすぐにもたらされた。


「魔物は、レオ様たちが宝箱を開けた瞬間に消滅しました。……いえ、消滅したと言うと語弊がありますね。正確に言うと、別の魔物と合体して数を減らしたのです」

「つまり、どうやら宝箱を一つ開けるごとに敵が合体して、強くなっていく仕様のようなのです」

「……はあ!? それは、宝箱を開けるほど敵の数は減るが、倒すのが難しくなるということか……!?」

「はい。現在二匹とも都市の奥の方にいますが、すでにすごい殺気です」


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