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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、深夜にネイの報告を受ける

 その日の昼間、ユウトはレオに連れられて魔工爺様の店に来ていた。


 客を選ぶこの店は、いつ来ても大体他に誰もいない。少し内々の話をカウンターでしていても、特に問題がないようだった。


「ロバート支部長が持ってきた出資話は、お前たちからのものだったのか」


 レオから直接出資の話を聞いた魔工爺様が、驚いたように目を見開く。

 まあそうだろう、彼はユウトたちのことをランクDの冒険者だと思っている。普通に考えれば、出資できる金なんか持っているわけがないのだ。


「冷やかし……というわけでもないな。そんな話をあのロバート支部長が持ってくるはずがない。それにお前たち、よく見れば儂の孫たちが作った装備を着ているじゃないか。ただのランクD冒険者が手を出せる代物ではない。よほど稼いでいると見える」

「まあ、副業の方でぼちぼちな。……それで出資の話なんだが、あんたは乗り気でないと聞いている。何が不満か聞いてもいいか」

「……不満があるわけではない。ただ、現状に満足している。店の敷地も狭いし、このくらいの規模が一番なんだよ」


 そう言った魔工爺様の表情は、ユウトの目には到底満足げに見えない。ちらりとレオを見ると彼も分かっているらしく、それで引き下がる様子はなかった。


「俺たちは店舗を大きくしろと言うつもりはない。それよりも、あんたの技術や創作センスを眠らせておくのがもったいないと思っている。もっとこう、様々な種類のアイテムを作成する手伝いをしたいんだ。それがゆくゆく、俺たちの冒険の助けにもなるだろうしな」

「僕も、もっとお爺さんのアイテム使ってみたいです。杖や指輪もだけど、魔法のロープもすごく使いやすくて……お爺さんのアイテムなら、もっと色々欲しいです」


 ユウトも横から告げると、魔工爺様は少しだけ表情を緩めた。


「ほう、お前さん、儂の魔法のロープを持っているのか」

「あ、はい。たまたま大祭の時に中古で見つけて……これです」


 ポーチから引っ張り出したロープを渡すと、魔工爺様がそれを手にとって懐かしそうに眺める。


「これは、マルセンが使っていたロープだな……。冒険者を引退したと聞いてはいたが、お前さんがこれを引き継いでくれたのか。魔力が馴染んでよく使い込まれている。……良いアイテムは、良い使用者によってその能力が最大限に発揮される。良いお手本だ」

「……こういうの、もっと作らないんですか?」

「……良いアイテムを作っても、良い使用者ばかりじゃないからな」


 ユウトにロープを返し、魔工爺様は肩を竦めた。


「流通させることで横流しや劣化コピー品を作られることが心配なら、店頭販売はせずに俺たちへの専売にしてくれてもいいんだが」

「……現状のままでいいと言っているだろう。どうせここには設備を置くスペースもない」

「あんたは『もえす』でクリエイト作業していると聞いた。俺たちは何なら、『もえす』ごと出資対象にしてもいいと思っている」

「……孫たちの店も?」


『もえす』も引き合いに出すと、老人は少しだけなびいたようだった。しかし首を縦には振らない。

 やはりアイテムを作りたくないわけではなく、作ることを躊躇っているという印象だ。そう、迷っている。

 その様子を見たレオは、ずっと探るように彼に向けていた視線から魔工爺様を解放した。


「……まあ、今すぐ決めろという話ではない。良かったら孫たちとも話してみてくれ。俺たちの名前を出せば、すぐに分かるだろう」

「……あの子たちの店を護るには……。もしあれが作れれば……分かった、少しだけ話し合ってみよう」

「ああ、良い返事を期待している」


 さっきより僅かに力の戻った老人の声に、レオは満足げに頷いた。






「こんばんは、レオさん」


 時刻は日付を跨いだ頃、静かにレオの部屋の窓が開いてネイが入ってきた。

 何か報告がある場合は、ユウトの寝たこの時間に来るように伝えてある。ここは二階だが、この男にとっては造作もないこと。ネイは全く音を立てずに床に降り、窓を閉めた。


「……『もえす』に転移ポーチ用の素材は届けたか?」

「もちろん、行ってきましたよ。タイチが3日もあればできるって言ってました。レオさんに、完成品を受け取る時は絶対ユウトくん連れて来てと伝えて欲しいって」

「自分が作った可愛いポーチを下げてるユウトが見たいのか……仕方がないな」


 ユウトがいる時のタイチはウザいが、弟を可愛いと絶賛する点においては完全同意せざるを得ないので許容する。

 セクハラまがいの発言をしない分、ミワより全然マシだ。


「ミワは工房の奥で魔工爺様と話をしてたみたいです。ま、俺が行くまでタイチも一緒に話してた様子でしたけど」

「……昼間に魔工翁に出資の話をしたからな。そのことかもしれん」

「会話の内容、探りましょうか?」

「いや、いい。そのうち自分で直接魔工翁に訊きに行く。……ところで、わざわざこの時間に来たということは、何か特別な報告があるんだろう。手短に話せ」


 レオは腕組みをして、椅子の背もたれに身体を預けた。

 聞く体勢を取ったレオに、ネイはそっと近付いて向かいの椅子に座る。そうして、ひときわ声を潜めた。


「魔工爺様の件、少し王都でも調べました。……そしたら、魔法生物研究所の名前が出てきまして、レオさんにもお知らせしておこうと」

「なっ……!?」


 その名称に、レオは思わず大きな声を上げそうになった。勢いよく立ち上がりかけて、すんでのところで思いとどまる。

 大きな音を立てるわけにはいかない。隣の部屋にはユウトが眠っているのだ。


 レオは数度深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、荒げそうになる声を努めて抑えた。


「あの魔工翁が、魔法生物研究所と取引をしていたということか……!?」

「いえ、彼自身は直接関わっていません。どうやら息子が裏で、魔工爺様の構築した術式理論やアイテム構成図を魔研に売っていたようです」


 魔法生物研究所……通称『魔研』は、以前王都の近くに存在した、魔物や特異体を研究する施設だ。前国王が作ったもので、当時は多くの魔物たちがそこで飼育観察されていたが、今はもう無い。

 ……5年前に大きな爆発があり、全て吹き飛んだのだ。


 魔研は表向きでは魔法生物の生体を調べ、その魔法原理を研究して人間社会にフィードバックするという趣旨の活動をしていた。

 しかし実際はあらゆる術式や薬を使い、無理な交雑を繰り返し、兵器としての魔物を作り上げることを目的とした、マッドサイエンティストの集まりみたいな組織だった。


 胸くそが悪くなるような場所で、そこにいる人間も最悪で、レオは魔研を酷く嫌悪していた。

 そんなところに魔工爺様が関与していたのかと思い、つい気が立ってしまったのだ。


「関与していたのは息子の方か……」

「魔工爺様が保管していた魔法アイテム関係の資料が盗まれたことがあって、その犯人は結局捕まってないんですけど。家の者はみんな、息子が盗んで研究所に売ったと思っています。まあ実際、その直後に息子は海辺の街に別荘買ったりしてますからね。分かりやすい」

「魔研に特殊な魔法道具が色々あったのは、魔工翁のアイテム構築データをベースに自作していたからか」

「道具だけじゃなく、薬もです。そっちのデータは娘の方が売ったらしいです」

「なるほど、薬もか……。自作だから、魔研の薬はあんなに効き目が強かったんだな。投薬されて、苦しんだ末に死んだ魔法生物もたくさんいた。魔物に該当しない者も……」


 そんな非道も、前国王の庇護の下で容認されていた。隔離された施設の中での出来事、その行いが外に出るわけもない。

 どうにかレオが訴えようにも、国民の前にも臣下の前にも出ることがない自分にはどうしようもなかった。直接父に訴えられれば良かったが、そうすれば面白がってさらに非道を助長しただろう。


「……俺も魔物はさんざん殺してきたから文句を言える立場ではないが、あの殺し方はどうしても許しがたかった」

「盗まれた自分の資料がそんな使われ方をしたことを知ってるのかは分かりませんが、魔工爺様はその盗難事件以来、積極的な創作活動をやめてしまったのです。自分に以後関与しないという条件で息子と娘に全資産を渡し、隠居してしまいました」

「……だから新たなアイテムを作る踏ん切りがつかないのか……。これは根深いな。実際、また何か新アイテムを作ったら、そのデータを盗まれる可能性もある。今度はそれをどこに売られるか……」

「ですよねー」


 そう軽く同意したネイが、頬杖をついた。


「……最近、ミワと魔工爺様が金属配合についての談議をしていたんです。おそらくミワが持ってる特殊技術、金属を繊維と一緒に織り込むための、最適解を導く話か何かじゃないかな」

「金属配合談議だと……?」


 レオはいきなりずれた話をする男に眉根を寄せる。その言葉の裏に忍ばせた意味に気付いたからだ。


「……まさか、すでにそのデータが狙われているのか」

「おそらく。俺が『もえす』に行った時、工房の屋根の上に間諜らしき人間がいるの見たんで。俺に気付いてどこか行きましたけどね」

「……お前の知っている間者か?」

「いえ。多分王都の冒険者ギルドで雇われた盗賊じゃないかな。声の漏れ聞こえる場所を探してうろうろして、諜報員としてはいまいちな感じでしたし」

「事情を知ってるわけでもないから、『もえす』工房の下調べはしていなかったわけか」


 ということは『もえす』が狙われたというよりは、魔工爺様が後をつけられた際に思わぬデータの存在を発見されてしまったというところだろう。

 今後『もえす』を調べ回って、盗みに入る可能性がある。


「どうしますか? しばらく『もえす』を張っておきます?」

「……いやそれよりも、とりあえずはミワとタイチに伝えておけ。今回俺たちが秘密裏に処理してやっても、今後もぞくぞくと盗人たちが来ることになる。本人たちに対応を考えさせよう。……まあ、少しだけサポートしてやれ」

「ええー? 自分でやった方が早いんだけどなあ」

「ミワに感謝されるかもしれんぞ」

「別に嬉しくないんですけど」


 ぶつくさと文句を言っているが、どうせ命令通りに几帳面に動く男だから気にしない。

 それよりも、記憶によみがえってしまったあの胸くそ悪い魔研の惨状の一端を担ったという、魔工爺様の息子と娘をどうにかしなければいけないだろう。


 ……当時のあの子を苦しめた、その一端を担った人間をただで置くつもりはないのだ。

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