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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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ペナルティを負ったユウト

 ユウトの背中に発現したのは、発光する白い羽だった。

 以前の天使像を使った時とは違い、だいぶ大きい。そして翼は四枚もある。おそらく飛行能力も十分にあるだろう。


 なるほど、ユウトにもう天使像が『必要ない』というのは、この翼がその上位互換だからか。

 けれど、そこでネイの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。


(んん? ユウトくんが過去に取り上げられたもの……って、結局羽のこと? でも、確か五年前に一度取り戻していたはずでは……?)


 記憶違いでなければ、五年前に魔研に連れ去られた際に、ユウトの翼は戻されている。それをむしり取った当人たちの手によって。

 ネイは実際その現場を見たわけではないけれど、その後のレオがユウトの翼を見たようだったから、おそらく間違いないはずだ。


 あの時戻ってきたのとは別に、まだ取り戻せていない何かがあるのだろうか。

 そう思って様子を見ていると、自身の背中に付いた羽を確かめたユウトがそれをぱたぱたと動かした。


「わあ、これ主精霊さんたちのそれぞれの加護が付いてるんですね。ありがたいです」

『元々のユウト様の翼に比べるとブースター的な役割は落ちますが、多少はお役に立てるかと』

「多少どころか、ものすごく役に立ちます! 僕のは世界の理に背いたペナルティで取り上げられてしまったから、いつ戻るか分かりませんし」


 その会話に、ネイはさらに困惑する。

 一度取り戻したはずの翼が、世界の理に背いたペナルティとして取り上げられて、未だに戻ってこない、ということらしいが。


(ユウトくんが世界の理に背いた……?)


 いつそんな事態になっただろうか。

 これまでレオからもらった報告を脳内で反芻しても、今ひとつ思い当たることがない。

 ……ということは最近の話ではなく、おそらくユウトが暗黒児ダークチャイルドと呼ばれていた頃のことだろう。あの時期のレオ……アレオンは今よりもずっと秘密主義で、仲間意識も薄かった。

 最後のジアレイスとの直接対決の話も、結局詳しくは聞いていないのだ。


 ……レオに訊ねたら答えてくれるだろうか。

 しかし内容の如何によっては、レオをひどく動揺させることになるかもしれない。下手に口にするのもはばかられる。

 ひとりそう悩んでいると、隣からクリスがこちらを突いてきた。


「……ねえねえ、ネイくん。今ユウトくんが世界の理がどうとか言ってたけど、リガードと何の話してる?」

「ん? えーと、ユウトくんって元々翼を持ってたんだけど、それが以前、世界の理に背いたペナルティで取り上げられたらしいんだ」

「……ユウトくんが世界の理に背いたって? そんな子じゃないでしょ、彼は。どちらかというと、レオくんの方が……あ」

「……ん? 何?」


 言葉の途中で、クリスがはたと何かに思い当たったように止まる。

 それに気付いたネイは、すかさず逃さず突っ込んだ。


「クリスさん、もしかして何か心当たりが?」


 レオはクリスに対し、かなりの信頼を置いている。今やエルドワと同等程度にこの兄弟に近い立ち位置、ネイの知らない話を知っている可能性があった。


 果たして彼はこの質問に対し、『レオくんの許可がないと詳しいことは話せないけど』と小声で口を開く。


「……君はホーリィの魔法を知ってる?」

「え? えーと、確か聖属性の魔法だよね。禁忌魔法の一歩手前の、使用危険魔法の一種だったはず」

「うん、さすがよく勉強してるね。それで合ってる。もう少し突っ込んで言うと、その魔法発動に自身の命を燃料として差し出す必要があるから、使用危険魔法に指定されてるんだ。とはいえ使える者がかなり限定的なせいで、国への届け出も管理もされてないんだけど」


 そう言ってクリスはさらに一段声量を落とした。


「実はそのホーリィの魔法を、以前ユウトくんが使ったらしいんだよ」

「……はぁ!?」


 思わぬ内容に、ついネイは素っ頓狂な声を上げてしまった。

 それに慌てて自分の口を押さえる。

 驚いたユウトがこちらを振り返ったけれど、雑談しているだけだ、何でもない、と手を振ってごまかした。今彼にこちらに来られても困る。


 再びユウトがリガードと話を始めるのを確認してから、ネイはこそりとクリスに問いかけた。


「……さっき、ホーリィは自身の命を燃料として差し出すって言ったよね? ユウトくん、生きてるけど……?」

「うん。それこそが世界の理に背いたことなんだよ」


 クリスの説明によると、ホーリィには特異性があると言う。

 それは人や魔族が学問によって練り上げた術式ではなく、世界の粛正のために用意された『原始の魔法』だということだ。

 その力の大きさから、代償として命を差し出すことが理で決められている。


「ユウトくんはホーリィの魔法を発動したけど、その代償を払わずに途中離脱したんだって。本来ホーリィは世界の取り決めで、命を使い切るまでキャンセルできない魔法だ。つまりその理を反故にしたせいで、ユウトくんがペナルティを負ったんじゃないかな」

「ああ、なるほど……」


 ホーリィは自己犠牲の傾向が強い聖属性の最上位魔法。

 だとすればその状況はネイの中で大体の想像が付く。主人のために死にたがった子供の、最終手段。


「てことは、魔法の途中離脱をさせたのはレオさんか」

「その辺りの状況の詳細についてはノーコメントで」


 クリスはレオに一応の義理立てをして、苦笑とともに肩を竦める。

 まあこれで色々察せるでしょ、という顔だ。


「その話を俺でなくクリスさんにしてた辺りが、超ジェラシーなんだけど」

「君は当時からの同行者だもん。状況を知っているネイくんには話しづらかったんじゃないかな。その点私は件の内容に関しては全く無関係だからね」

「それは分からないでもないけどさ~」


 ちょっとだけ拗ねて見せて、再び視線をユウトに戻す。


「ま、どんな状況でもユウトくんが生きてたのは御の字だけど」

「それはね、ホントに。レオくんだけじゃなく、私たちにも、世界にとっても」


 ともあれ、この見解は二人の間で一致する。その横にいるエルドワも頷いてる。


「それにしても……ペナルティで取り上げられたユウトくんの本来の羽って、どこにあるんだろ」

「ん? 消えちゃったわけじゃないのかい?」

「ユウトくんは『失われてない』って言ってた」

「あ、さっきの話はそこにつながるのか。へえ……。それは気になるね」


 五年前、ユウトに羽が戻った時、確かそれを察知したチャラ男はその魔力増大の気配に驚いていた。

 つまり、ユウトは羽を取り戻せば、さらに力が増すということだ。


 これ以上彼に力が集まることを恐ろしくも感じるが、それが必要なのも事実。

 その行方も、気にしておくべきだろう。


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