兄、身内の半魔の所属を確認する
「……そうか、ユウトは幸運に極振りされてるんだな」
「うん、そう」
レオの言葉に、エルドワが頷く。
確かに出会う半魔が増えるにつれ、ユウトの幸運はどんどん値が上がっていた気がする。それが最も顕著なのが、宝箱で手に入るアイテムだった。
ゲートにある中身がランダムクリエイトされる宝箱には、開ける者の幸運値が大きく係わる。だからこそいつも弟に開けさせていたのだが、なるほど、驚くほどの稀少アイテムが手に入るのは傘下の半魔たちから来る幸運も受け取っていたからか。
レオはユウトの必然とも思える引きの良さに、ようやく合点がいった。
そこにさらに大精霊の加護もあったのだから、その結果は当然だったのだ。
「今のユウトにはラダの半魔全部とヴァルド、エルドワが傘下にいるってことだな。もっと増やせばユウトの能力がさらに上がるというなら、めぼしい半魔は全て引っ張り込みたいところだが……。そういや、キイとクウはどうなんだ?」
すでにレオと召喚魔として契約をしてしまっているが、人間との上下関係はノーカウントだろう。ならばユウトの下に付けたいと考えて訊ねると、彼らは首を振った。
「残念ながら、キイたちはユウト様の直下には付けません」
「クウたちはユウト様の下に入れる魔性をもっていませんので」
「……お前たち、魔性を持ってないのか?」
キイとクウはユウトに付くための魔性がないという。
ドラゴンの中でも最上位に位置するグレータードラゴンでも、そんなことがあるのだろうか。
それに、さっきの話では魔性を持たないラダの者でもガイナの魔性下に付いているらしいのに、なぜ彼らに魔性がないとユウトの下には付けないのか。
そう怪訝に思ったレオに、二人は苦笑をした。
「魔性はあるのですが、キイたちは造られた半魔ですので、その要素が薄いようなのです」
「ユウト様の魔性の格が高すぎて、クウたちの魔性では下に付くことが不可能なのです」
「それは……半魔が持つ魔性の格の高さによって、下に付ける者が選別されるということか?」
「そうです。ユウト様の魔性に魅了される者が高位の者ばかりなのは、ユウト様の魔性の格に見合う者がそのランクだからです」
キイとクウの話によると、自分たちよりも著しく魔性が強い、かつ格が高いユウトのような者の直下に付くことはできないらしい。
魔性の格の高い者には力や忠誠心が強い者が集まるというのは、まさにそういうことなのだ。
「ただ、今回のエルドワの魔性上昇によって、キイたちはエルドワの下に付くことができるようになりました」
「エルドワは経験値不足によりまだ格がそれほど高くありませんので、クウたちでも下に付けます。同じパワー型魔獣ですから相性も良いですし、エルドワを介してユウト様にも能力を上納できます」
「そうか、エルドワの下に付けば問題ないんだな。それでいいか? エルドワ」
「うん。二人が良いならエルドワは大丈夫。キイとクウだったら安心だし」
エルドワは快諾した。格が低いうちはなかなか良い配下が付かないというが、この竜人二人なら申し分ない。ここで上下の信頼関係が築けると、エルドワの格も上がっていくらしいから一石二鳥だ。
その関係を結ぶ方法も、エルドワの血を一滴ずつキイとクウが舐めるという簡単なもので、すぐに済んだ。
「あと引っ張り込めそうな半魔というと、ラフィールと……そう言えばアシュレイはどうなんだ? あいつも多分ユウトの直下に付ける魔性はないだろう?」
アシュレイも役には立つが、ずっと一人だったことを考えても、他の半魔を惹き付ける魔性はありそうにない。おそらくユウトほど魔性の高い者には付けないはずだ。
ならばエルドワに付けたいが、今回だいぶ魔性が上がってしまったから、難しいだろうか。そう思いつつ訊ねると、子供はあっさりとその懸念を払拭した。
「アシュレイはもうエルドワの下にいる。初めて会った時にもうアシュレイの体内には長年の瘴気が溜まってたし、前のエルドワの魔性でも取り込めるランクだったから、結構前に組み入れた」
「そうだったのか、知らなかった。……でも確かに、あいつは最初からエルドワにビビってたし、格上として見てたもんな。お前の下に付くのも当然か。途中からだいぶ性格が落ち着いてきたのも、エルドワの下について瘴気が薄れたせいかもしれないな」
一度関係を結べば、エルドワの魔性が上がっても関係はそのままらしい。
そうしてアシュレイがエルドワの下にいるのなら、その能力もユウトに向かう。だったら彼に関してはこれで問題ない。
後はラフィールだが、彼はどうだろう。エルフ族は他人の血を飲まないと言うし、この上下関係を築けない気がするが。
「……クリス、エルフ族っていうのはこのヒエラルキーに組み込めるのか?」
「エルフ族……ラフィールは無理じゃないかな。浄魔華の蜜を摂取してるおかげで体内の瘴気はかなり少なめだから、元々その体系に入る必要がないもの。それに種族的にもユウトくんの血を飲めないしね。……あ、血を飲めないという点ではジードも引き込めないな。彼は聖属性の血を吸えないから。魔性だけは血族としてヴァルドさんと同等くらいだろうし、エルドワやヴァルドさんの下にも入れないからね」
「……別にあいつはどうでもいい。端からユウトの傘下に置く気はない」
レオは意図的に言及しなかった男の名前を出されたことに眉を顰める。
しかし、そもそもあの男はユウトの傘下に入ることができないようで助かった。そうでなければ、なんかの拍子に弟が勝手にジードを仲間にしそうで気が気じゃないところだ。
まあ、ラフィールとジードはアテにするような戦闘要員でもないし、ユウトに心酔する外部の協力者という形で十分か。
そこまで半魔の所属を整理して、レオはふとあと一人気になる男がいるのを思い出した。
「そういや、クリス。あんたの仲間のオルタルフとかいう二重人格、特殊だから誰の傘下にも入ってないと言ってたが、入れないのか入らないのか、どっちだ?」
今は魔研側で操られているものの、奪還できればユウトの傘下に組み込めるかもしれない。パワー型のようだし、ユウトでなくてもエルドワの下に置ければ役に立ちそうだ。
そう思って訊ねると、クリスは眉間に手を当ててうーんと唸った。
「オルタくんか……どっちと言われても、入れないし入らないらしいんだよね……。とりあえず右目と左目の人格が違うんだけど、それだけでなく魔性も違うみたいで」
「人格によって魔性が違う? そりゃ面倒臭えな……」
「そうなんだよ。所属できるランクが定まらないから、人格が統合されるか片方が消えるまでそのままでいるんだって。でもそうやって一人でいると体内の瘴気が溜まる一方だから、彼は時折ガントのラフィールのところで浄魔華の蜜を使った飲み物や食事を摂取させてもらってたんだ」
「なるほど、ラフィールとオルタルフに面識があるのはそのせいか。……一応それで事足りてるなら、誘っても来ないだろうな。相応の魔性の強さがあれば、ユウトに籠絡されるかもしれんが」
オルタルフは一旦保留だ。クリスの仲間だった方の人格なら問題ないが、もう片方の情報がなさ過ぎる。
とりあえずめぼしい半魔は大体ユウトの傘下に入ったし、今はこれで十分だろう。
この話を終える頃にはエルドワの食事も済んで、テーブルの上の料理の器は空っぽになった。
その後片付けをすれば、あとはゲート攻略のための所持品の最終チェックだ。
明日の朝食用のパンはもう買ってあるし、準備は万端。
全ての用意を済ませると、「よし!」と気合いを入れたユウトがやにわに立ち上がった。
「レオ兄さん、ちょっと外に出てくるね!」
「ああ、主精霊『リガード』を呼び出してみるのか」
「うん。これで契約できれば主精霊が揃うし、明日からのゲート攻略にきっと役に立つと思うよ」
「俺も行くか?」
「あ、私が行くから大丈夫だよ、レオくん。精霊は見えないけど、何が起こるか興味があるんだよね。ネイくんもいるし、ラダの村の中だし心配いらないよ」
ちょうど特攻武器の手入れをしていたレオは、ならば平気かとクリスに任せることにする。呼び出す精霊もユウトの味方だ。危ないことは何もない。
さらにその後ろにエルドワが付いて行くのだから、心配するだけ野暮だった。
「何かあったら呼べよ」
「うん!」
一応の忠告だけして、レオはユウトを送り出した。




