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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、古竜と子犬のやりとりを見守る

「えっ、と、『おぞましきもの”もどき”』というのはどういうことでしょうか?」


 混乱したままグラドニに訊ねると、彼はうむ、と頷いた。


「現在、彼奴らは『魔尖塔”もどき”』を使って、滅びを引き寄せようとしておると聞いた。あの”もどき”は『人魔尖塔』といい、『魔尖塔』とは似て非なるものじゃ。……そして、それに引き寄せられるのも、『おぞましきもの』とは似て非なるものなのじゃ」


 ということは、対応も変わるということだろうか。

 ユウトは最後の最後に秘めておいた切り札を取り上げられたような不安な心持ちになって、古竜に疑問を投げかけた。


「……では万が一、世界を救うために以前の『聖なる犠牲』のやり方をなぞらえても、同じ結果にはならない……?」

「途中の過程は被ることが多いじゃろうが、結果は違う。まず世界の身代わりになった者は再生することなく完全消滅しおるし、そもそもアンブロシアを使ったところで魔法効果が違うじゃろう」

「……対象や使い方によって反応が変わるからですか?」

「そうじゃ。それに何より、今はアンブロシア自体が3つに分かれたことで効果が限定されておる。同じ結果にはなるまいよ」

「そう、ですか……」


 ここまで世界を救う教訓を得ようと『聖なる犠牲』の行動を追ってきたけれど、全く同じように危機を回避することはできないようだ。

 最悪、自分の命を賭して世界を守れるなら、と思っていたけれど、そんな簡単な話ではなくなった。


 ああ、なんてこと。

 密かに落胆したユウトだったが、しかし隣のエルドワは逆に目を輝かせた。


「『魔尖塔』も『おぞましきもの』もニセモノなら、エルドワたちでも倒せるかもしれない!」

「うむ、良い心意気である、小僧。じゃが、一筋縄では行かぬのも確かじゃ。何せ、規模が違うからの」

「ならエルドワはもっと頑張って強くなる! ユウトを護るためにできることがあるなら何でもする!」

「はは、覇気があるのう。まあ、少々落ち着け」


 気炎を上げる子犬に、グラドニは口角を上げる。彼はその気勢を制するものの、エルドワの闘志を買っているようだった。

 小さいながらも遙か格上の古竜に自分の考えを述べられる、確固たる意思と胆力、そしてユウトへの忠誠が眩しい。


 グラドニは目を細め、それから鷹揚にエルドワに手招きをした。


「よし、小僧。近う寄れ。わしから良いものをやろう。愛し子を護っていくなら、これからの戦いで役に立つ」

「良いもの?」


 ユウトを護るのに役に立つ、という古竜の言葉に、子犬はすぐにピッと耳を立てて反応する。

 それからユウトを見、視線で了解を取ると少しビクつきながら立ち上がった。


「……ユウトを護るのに役に立つなら、何でも欲しい。何をくれる?」


 格上の古竜に畏れを感じつつも、主人を護りたい想いが勝つ。おそるおそるグラドニに近づいたエルドワは、その目の前にきちんと正座した。

 頑張って礼儀正しくあろうとするのは、主人たるユウトに恥をかかせたくないゆえだろう。

 良い子だ、と古竜は微笑んだ。


「では、わしの血を少量分けてやろう」

「血? グラドニの? え、でも……」


 エルドワはその申し出に、戸惑いつつ目を丸くした。

 元々ドラゴンの血や肉はとても滋養に良いが、古竜の血肉はそれとはまた別格の妙薬なのだ。

 そしてグラドニからもらうということは、古竜が持つ多彩な薬効だけでなく、不老不死というおまけ付き。それがどんな効能になるかは分からないが、何にせよ一滴でも膨大な値段のつくものだ。

 エルドワはそれを知っていた。


 もちろん非常にありがたい申し出だが、同時にその希少性ゆえに躊躇いが出るのも当然だろう。


「……欲しいけど、対価はどうなる? エルドワ個人で出せるものはあまりない。ユウトに迷惑掛かるのはダメ」


 そんなあくまで慎重で殊勝な子犬に、グラドニはうむ、と頷いた。


「問題ない。これは愛し子から譲り受けたアンブロシアの対価の一部じゃ。時流を変えるのに手を貸す観点からして、小僧の力の底上げもその一助となるじゃろう。そのための血の提供じゃ」

「本当!? それなら欲しい!」


 新たな対価が必要ないと分かると、エルドワは身を乗り出し、ぱたぱたと尻尾を振る。

 その素直な反応に笑みを浮かべつつ、グラドニがベルトに掛けていた小刀を取り出した。


「……小僧、先に言っておくが、欲を出すでないぞ。強い薬を摂取し過ぎれば毒となるように、わしの血を啜りすぎると身体が力に耐えきれなくなることがある」

「分かった。どのくらいならいい?」

「ふむ、そうじゃな。小僧は愛し子の血を摂取しておるようじゃから、ひと舐め分くらいなら、ある程度副反応抑制の恩恵にあずかれるじゃろう」

「……副反応って何?」

「わしの血が体内に入ることで、小僧の身体の中から抵抗がくることじゃ。その反応は様々じゃが、制御の利かなくなった血が沸騰することで、魔獣化して暴れたりする程度じゃから問題ない。多少辛いじゃろうが、時間が経てば収まるしの」


 あっけらかんと言うグラドニだが、それに対してエルドワは眉を(ひそ)めた。


「ここでエルドワが暴れて、ユウトに怪我させたら困る」

「問題ないと言っておろう。小僧ごときが巨大化して暴れたって、わしが首根っこ掴んで抑えておいてやるわい」

「むむむ……それもちょっと屈辱……。でも、ユウトが危なくないなら、まあいい」


 その実力差を言葉にされて少し拗ねても、優先するべきことは間違えない。そんな子犬に口元を緩ませつつ、古竜は手のひらに小刀を近付けた。


「うむ、良し良し。小僧、もう少しこちらに来い。……では、行くぞ」


 グラドニはエルドワをすぐそばまで呼び寄せると、手のひらに小さな傷を付ける。そしてじわりと血の滲んだ場所を子犬の鼻先に差し出し、ちらりと自分の様子をうかがう瞳に鷹揚に微笑んだ。


「怖じ気づいたか?」

「……平気」


 グラドニのからかうような物言いに少し強がって見せながら、エルドワはその手のひらにぺろりと舌を這わせる。

 すると、途端に子犬の身体が総毛立ち、尻尾がぶわと広がった。


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