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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、古竜と対面する

 今まで弟を魔研関連の事案から遠ざけていた兄が、情報の共有を申し出た。

 これは、ずっとどこか仲間はずれな気分だったユウトにとって、とても喜ばしいことだった。


 レオに何の心境の変化があったかは知らないが、素直にありがたい。時流を変えるためには、兄の動きも王都の動きも把握していた方がいいに決まっているのだ。

 代わりにユウトの話もレオにしなくてはいけないけれど、とりあえずユウトが死ぬという予言の話と記憶を取り戻している話以外は伝えても問題ないだろう。


『聖なる犠牲』の話も今後の戦いには直接的に関わりがないから、特に話す必要はないかもしれない。

 今のユウトは教訓的に『聖なる犠牲』についての過去の出来事をさらっているだけだし、自分だけが把握していればいいことだ。


 そう一人で納得して、ユウトはバラン鉱山の頂上に降り立った。






「こ、こんにちは」

「おお、良く来たな世界の愛し子よ。この正面に座るがいい。子犬は右隣に控えておれ。キイとクウは適当に」


 部屋に入ったユウトたちを、グラドニは笑顔で迎えてくれた。

 そして開口一番、ユウトを『世界の愛し子』などと呼ぶ。


 その呼び方に何となく既視感を覚えるが、ディアが言っていた『世界の希望』と同じような、役割に対する漠然とした呼称なのだろうと考えて、ユウトはあえて突っ込むことはしなかった。


 まあ、そんな自分の呼び名よりも、余程意外だったのはグラドニの見た目の方だった。

 創世からいる古竜というからてっきり白髭の仙人然とした老人かと思っていたのに、目の前にいるのは筋骨隆々の偉丈夫の青年だ。実年齢は置いておいても、ライネルやネイと同年代くらいの見た目をしている。


 不老不死という話だったから、考えてみればこの姿も当然かもしれないが。


 とりあえずユウトは、言われた通りに彼の正面にちょこんと座る。するとすぐに、全身がじろじろとグラドニの好奇の視線に晒された。

 対象物を観察するというよりは、小動物を愛でるような視線。それが肌を滑る感触が、何となくこそばゆい。


「あ、あの、グラドニさん。わざわざ時間を作っていただきありがとうございます。それから、あなたがここに来てもいいように兄を説得してくれたんですよね? 内緒で来てバレるのが心配だったので、助かりました」

「何、気にするでない。わしもうぬには会って話をしてみたかったのじゃ。忍んで来るのではゆっくり会話もできぬでな」


 グラドニがユウトに会いたいと言ったのは、ここに自分たちを招くための適当な口実かと思っていたけれど、そうでもないらしい。

 キイとクウに聞いたような不躾さもなく、思いの外好意的な古竜に、ユウトはほっとして微笑んだ。

 大丈夫、このひとは味方だ。この直感が外れることはない。


「僕に会って、何か確認したいことでも?」

「うむ、……まあ、どんな感じに成長しているか見たかっただけじゃ。わしの話はまた後にしよう。それよりも、うぬの話を聞こうではないか」


 グラドニはにこと笑うと、ユウトを促した。

 その言葉に甘えて、口を開く。


「では、あの……実は、グラドニさんに力を貸して欲しくて」

「ん? 力なら、うぬの兄に貸す約束をしておるが」

「それとは別で僕が個人的に……あっ、その場合、代償が必要なのかな。僕で支払えるものだといいんですけど」

「ふむ……? まあよい、とりあえず詳細を述べよ」


 取引できるかは分からないが、一応話は聞いてくれるらしい。

 ユウトはそれにほっとして、さっそく本題に入った。


「僕たち、時流を変えたいのです」

「時流? 何故にそのようなことを?」

「実は僕、未来が見える者から『聖なる犠牲』として死ぬと予言されまして」

「何じゃと……!?」


『聖なる犠牲』の名前を出した途端、グラドニが表情を変える。

 直前までの緩い空気が、ユウトにも分かるほど一気に張り詰めた。

 やはりジードのところで聞いたように、『聖なる犠牲』は彼にとって重要な関わりのあるものなのだろう。厳しい顔で明らかに前のめりになって、こちらの発言に集中したようだった。


「……それは捨て置けぬ話じゃ。続けよ」

「えっと、近い未来に、僕は世界の危急存亡をかけた戦いで世界を護るために命を落とすみたいで……。その流れになる前に、時流を変えたいと思っているんです」

「このままでは再び『世界の愛し子』が『聖なる犠牲』になるということか……。せっかくここまで力を回復したというのに、復讐リベンジ救済セーブも成せないと……? そんな馬鹿な……」


 グラドニはぶつぶつと独りごちると、そのまま沈黙してしまう。

 何だか深刻そうな反応だ。もしかして、古竜の力を借りても無理なのだろうか。

 不安に思ったユウトがそわそわしていると、不意に隣にいたエルドワが口を開いた。


「グルムは、ユウトが『何も知らずに利用されて』命を落とすって言ってた。でも、今のユウトはあれからいっぱい知った。エルドワたちもいっぱい知った。だからすでに時流は変わってきてると思う」

「エルドワ」


 その声音が少し震えていることに気が付いて、視線を向ける。

 すると、いつになく子どもの犬耳と尻尾の毛が逆立っているのが見えた。

 おそらく遙か格上の魔獣相手に、本能的に緊張しているのだ。それでもユウトをフォローすべく二人の間に口を挟む。


「だけど、大きく時流を動かすには、グラドニくらい大きな力が必要。エルドワはユウトを死なせたくないから手伝って欲しい。エルドワも、できることなら何でもする」


 緊張に身体が固まったままだが、エルドワはグラドニを見つめたままそこまで言い切った。

 その必死さが嬉しく、また申し訳もなくて、ユウトは手を伸ばしてその頭を撫でる。


 それを厳しい顔のままじっと見つめていた古竜が、ふっと目元を和らげた。


「ふむ、ふむ。此度こたびの愛し子は、なかなかに度胸のある良き騎士ナイトを連れておるようじゃ。先の庇護者の方も少々頭が固いのが問題じゃが、あれも役目としての素養は十分」


 そう言ったグラドニの口元には再び薄く笑みが乗る。


「……干渉しすぎるなとは言われておるが、わしとて思うところがある。ここまでだいぶつまらぬ思いをさせられてきたのじゃ。多少は自由にさせてもらおう」


 誰に向かってでもなくそう宣言した古竜は、腕を組んでユウトを見た。すでにその瞳は、先ほど同様の柔らかさを見せている。


 ……何となくだけれど、彼は自分を通して誰かを見ているようだ。

 ユウトは口には出さず、漠然とそう思う。その誰かは、きっとグラドニの気に入った相手だったに違いない。


 彼はユウトを見つめたまま、うむと頷いた。


「よし、うぬの庇護者との約束とは別に、愛し子の方にも手を貸してやろう。その対価は追々考えるが……とりあえずわしは上空にあるランクSSSゲートを排除せぬことには動けぬ。まずはそちらの攻略を優先させよ」

「あ、ありがとうございます!」


 時流を変えるための、強力な助っ人が手に入った。

 ユウトはそれにぺこりと頭を下げた。

 顔を上げれば、隣のエルドワ、そして少し離れたところに座っていたキイとクウも同じように頭を下げていて、ユウトは胸が一杯になる。彼らのためにも、生き残りたい。


 どんな対価を支払うことになるかは分からないけれど、これでみんなを悲しませずに済むならば何でもしよう。

 ユウトはそう心に誓った。


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