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兄弟、無自覚にいちゃいちゃする

 夜の街外は昼間とまるで雰囲気が違う。

 殺気なんか全く分からないようなユウトですら、歩いているだけで何かぞわぞわした空気を感じる。魔物の咆吼、草むらで何かが動く音、そんなものがやけに近くに聞こえて、ついレオの背広の裾を掴んだ。


 それに気付いた兄が当然その手を振り払うわけもなく、逆に庇護下に置くように弟の肩を引き寄せる。

 そのまま滑った指先が宥めるように頬を撫でた。


「そんなに怖がらなくても大丈夫だ。魔物は人間よりも気配に敏感だからな。俺に向かってくる奴は相手を判別する能力を持たない弱い魔物か、余程力に自信のある魔物だけだ」

「……それって結局、多少なりとも襲ってくるってことじゃないの? こんな月明かりしかないようなところだと、兄さんがいてもやっぱりちょっと怖いよ。不意打ちとか食らいそうだし」

「だったら眼鏡掛けるか?」

「……眼鏡?」


 掛けていた眼鏡を外したレオが、それをユウトに差し出す。

 意味も分からず眼鏡を受け取って掛けてみると、突然見晴らしの良くなった視界にユウトはぱちくりと瞬きをした。


「うわ、何これ。暗いのにすごくよく見える」

「その眼鏡には暗視の術式が入ってる。俺も今日まで気付かなかったんだが、ミワが勝手に付けたようだ。それがあると視界が広がるから、かなりマシだろう」

「確かに……。んー、でもやっぱり、これは兄さんに返す」


 ユウトはすぐに眼鏡を外し、レオに戻してしまう。


「いらないのか?」

「うん。それは僕が着けてるより、兄さんが着けててくれた方が安心できる。兄さんがちゃんと見えてるって分かれば怖くないよ」

「そうか。まあ俺もこの眼鏡がある方が、『もゆる』をちゃんと確認できるから安心する」


 言いつつ揶揄うように顎下を擽られて、弟はつい頬を赤くして眉根を寄せた。


「……そ、その名前で不意打ちで呼ばれると恥ずかしい……」

「恥ずかしがることはないだろう。可愛いぞ、『もゆる』」

「ちょ、やめてってば。何なのもう、兄さんばっかり名前も見た目も格好良くてずるい。強くて頼りがいもあるし……、無敵なんだもん、ずるい」

「何だ、褒めてるのか」

「え? 何が?」

「……無自覚とか、お前、ほんと可愛いなあ……実は天使だろ知ってた」


「こんな魔物のごろごろいる森の中で、何いちゃいちゃしてるんですか」


 不意に背後から声がして、ユウトが驚いて振り向く。レオはその存在に気付いていたのだろう、ちらりと視線を向けただけだった。

 見ればジャージ姿のネイが、すぐ後ろに立っている。


「ネ……『先生』。無事合流できたんですね、良かった。……あれ、いちゃいちゃしてるって、誰が?」

「さあな。俺たちじゃないだろ」

「うわ、2人で自覚なし? あんなバカップルみたいな会話しといて、どんだけ常態化したブラコンですか、怖いわ~」


 怖いと言いながら何故かニヤニヤしているネイを、若干自覚のあるレオが少し強めに蹴飛ばした。


「いたた……。まあ、『もゆる』ちゃんが可愛いのは分かりますけど。初めて見ましたが、魔女っ子似合ってますね」

「タイチの渾身の作だからな」

「ふふ、可愛い子は護りがいがあります」


 そうして合流した3人は、目的のエリアへ向かう。

 途中にランクAのモンスターが2体ほど襲いかかって来たけれど、レオとネイがそれぞれを秒で倒して、素材だけを回収した。


 ほどなく、Mエリアに入る。

 すると何故かすでに、魔物と誰かが戦っている音がしていた。


「鳥の声と、虎の咆吼と、……何の音だろ。何かが暴れてる?」

「おそらく野次馬で来た冒険者が魔物に見つかったんですねえ。迷惑だなあ。この音、おそらくサモナーペリカンが2体目の魔物召喚しちゃってますよ」

「3体程度なら問題ない。……だが、これ以上増えられると厄介だな。ターゲットを見つけたら、まずはペリカンから始末するか。『もゆる』、俺が指示をしたら、敏捷アップの魔法を掛けてくれ。その後はペリカンに攻撃を」

「うん、分かった」


 音のする場所に向かって、レオが先行する。

 ユウトのすぐ後ろにネイがついて、周囲を警戒しながら進んだ。


「……よし、いた!」

「魔物が上手い具合に野次馬を散らしてくれたみたいですね。あー、2匹目の召喚魔物はハンマーテイル・アリゲーターか。さっきの音は尻尾を地面に叩き付けてアースクウェイクを起こした音だわ」

「尻尾が槌の形になってるワニなんですね。すごく大っきいし力が強そう」

「ランクS以上の魔物は、でかくて力が強い上に素早いのがデフォルトだ。気を抜くなよ。じゃあ『もゆる』、敏捷アップを」

「うん」


 ユウトは杖を使い、レオに補助魔法を掛ける。

 その恩恵を受けるとすぐに、兄は魔物の前に飛び出していった。


「うわ、ちょっと、何もあんなに堂々と3匹の真ん中に飛び込まなくても!」

「平気だよ、『ソード』さんは昔からあのスタイルだから」


 ペリカンがいるのはここから一番奥だ。手前の魔物が襲いかかってくるのを、レオが剣で受け止め、力任せにその巨体を左右に流す。

 そうしてサモナーペリカンの前から召喚された2匹をずらして、魔法のためにレオが作った道に気が付いて、ユウトは右手を構えた。


 ここに来るまでにすでに指輪には魔力を込めてある。

 魔力の筒を作り、そこに風の魔法を詰めると、ユウトはペリカンの頭に狙いを定めた。


 正直、今の自分の魔法ではランクSの魔物に有効な傷を付けられる自信がない。だったら無駄な攻撃はあきらめて討伐はレオに任せ、その補助をするのが得策だ。

 威力ではなく動きを重視して、ユウトは魔法を撃ち出した。


 銃弾のように一瞬でペリカンに到達した魔力は、魔物の額に当たって即座に展開する。全然威力のない魔法に警戒を見せなかったペリカンだったが、途端に風が渦となり、それに大量に巻き上げられた周囲の砂塵や枯れ葉に視界を塞がれて、ようやくその場で慌てたように首を振り翼をばたつかせた。


「よし、偉いぞ、『もゆる』!」


 分かりやすく隙のできた魔物など、レオの敵ではない。

 敏捷の上がっている彼は素早く手前の2匹をすり抜けて、暴れるペリカンの首を一刀両断にした。さすがだ。


「『もゆる』ちゃん、面白い戦い方するね。……っとと、やば、こっちに気付かれちゃった。向こうで『ソード』さんがハンマーテイルを相手にしてる間、こっちは電撃虎をいなしますか」

「ねえ、教えて『先生』。召喚した魔物がやられた場合、召喚された魔物同士って連携したりするの?」

「うわっ、教えて先生、って何か良いわ~。あ、何だっけ? 召喚された魔物同士? 統制してるのは召喚した魔物だから、そいつがいなくなったら連携なんかしないよ。相性が悪い魔物同士だと戦い始めたりするし」

「そっか。じゃあちょっと試してみようかな」


 こちらに向かって電撃虎がやってくる。ハンマーテイル・アリゲーターはレオの方を向いている。共に強力なランクS。その力を利用してみよう。

 ユウトはポーチからこっそりと魔法のロープを取り出した。


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