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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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神様の創り方

 クリスがそれを口にした瞬間に、和やかだった周囲の空気がぴりっと張るのが分かった。

 特にユウトは、自分の前では滅多になされない魔研の残党たちの話にはっとして、強い意識を向けてくる。もしかするとこれまで思い出した記憶の中に、何か気になることがあったのかもしれない。


 それを視界の端に置きながら、クリスは言葉を重ねた。


「ジードさんはガラシュと敵対してますし、所属する魔研のことも色々調べてご存じなのではないかと思いまして」


 これは半分フェイクだ。本当は彼が魔研側に属していたことがあるからなのだけれど、それをユウトの前で言うのは得策でないとクリスは心得ている。その事実をクリスが知っていることで、ジードから疑念を抱かれるのも避けたい。

 だから努めて遠回しの理由付けをした。


 どうせこの段階に至っては、ジードの今までの経緯など些末事なのだ。

 現状として彼がジアレイスやガラシュと対峙し、ユウトの味方である。この事実があれば、今は十分だった。


「……彼奴らのことは、まあ、多少は知っている。我ら兄弟にガラシュを通じて様々な打診があったからな」

「打診……というと?」

「父の遺した公爵家の力と引き替えに、精霊の祠を封印する手伝いをしろと請うてきたのだ」

「公爵家の力って……ヴァルドさんのお爺さんとお父さんが殺された時に、魔王がそれを取り上げて封印したっていう本のことですか?」

「そうだ」


 ユウトはヴァルドから聞いて、公爵家の本のことを知っているようだ。彼がそれを確認すると、ジードはごまかすことなく頷いた。


「我が一族に代々受け継がれる権力は強大。兄弟たちは皆それを欲しがっていた。実際、どうやって手に入れたのか彼奴らの手には紛れもなくその本があったものだから、兄弟たちはこぞって手を貸した」

「……ふむ、やはりその本があったせいで、ジードさんたちの一族が体よく利用されたんですね」


 そうだろうとは思っていたが、これで確実だ。

 ヴァルドの一族が精霊の祠の封印に関与していたのはこのため。

 一部自身の意に沿わない者もいたようだが、そこはおそらくガラシュの力を借りてゲートに放り込んだのだろう。


 そんな中で、ひとり別の思惑で手を貸していたのがこのジード。

 その目的は気になるところだが、ユウトの前でその辺りを探るのは御法度。クリスはすぐに話を本題に移した。


「魔研が……ジアレイスたちが、貴方がたの一族を使って、何を企んでいたかご存じですか?」

「……直接彼奴らの企みを訊いたことはない。まあ、その行動や考えの方向性から、企みを推察することは十分可能だが」

「推察でも良いので、ジードさんの考えをお聞かせ下さい」


 クリスはジードの言葉を促す。

 人間界よりもディープな魔界の知識が豊富で、ジアレイスたち並みに危険思考だった彼ならば、似た思考展開をしていても不思議ではないのだ。

 少し前まで彼の中に巣くっていた、排他的な悪心。

 今はその感覚にも頼りたい。


 そう思いながらクリスがじっとジードを見つめると、同じようにユウトも彼を見つめ、次の言葉を引き出してくれた。


「……彼奴らは昔、世界を我が物にしようとしていた」

「昔……? では、今は?」

「今の彼奴らは、世界を破壊しようとしている」

「世界を破壊……。その方針転換がいつからかご存じですか?」

「おそらく5年前だ」


 5年前、と聞いて浮かぶのはもちろん王位の交代だ。

 ライネルが父王を討ち、ジアレイスが魔研を追われた。


 そうなると、やはり拠点でレオたちと出した推論が、俄然真実味を帯びてくる。

 クリスはそれを確認するようにジードに告げた。


「私たちは、魔研がエルダールの前王をこの世界の神にしようとしていたのではと考えていたのですが」

「うむ。その理解で合っている。彼奴らはエルダール王を神とし、世界を完全に私物化しようとしていた」

「私物化って……エルダールの王なんて、わざわざ神にならなくても世界を掌握しているようなものなのに」


 クリスとジードのやりとりを聞いたユウトが、不可解だというように首を傾げる。

 それに対してジードが肩を竦めた。


「残念ながら欲深い者というのは、それだけでは飽き足らぬのだ。彼奴らは、自身の上に創造主……神がいるのを不満に思っていた。創造主というのは世界のバランスを取る者。王都ばかりをひいきになどしないし、身分などで優劣も付けない。全ての富を己のものにしたかった彼奴らにとっては、邪魔な存在だったのだよ」

「だがそれも、5年前にライネル陛下が父王を殺し、王位に就いたことで変わった……。ジアレイスは前王を殺し自分たちを日陰者にしたライネル陛下を、ひどく憎んでいる。そこで奴らは陛下の治めるこの世界を破壊する方に舵を切ったんだね」


 クリスはジードに確認するというよりも、ユウトに説明をするように語る。

 この辺りは、彼も知っているべきだ。

 ユウトはそれを真面目な面持ちで聞いていた。


「……神というのは、創れるものなのですか?」

「世界に存在するものは総じて、生み出され廃れていくのが習いだ。それは創造主も同じことで、世界の改変期や終末に古いものが消え失せ、また新しい神が生まれる。彼奴らはそれを人為的になそうとしたということだ」

「……つまり魔研の人たちはわざわざ世界のバランスを崩し、世界を終末に近付けようとしているのですね……」


 いつもは温厚なユウトが、眉根を寄せて口を引き結んでいる。

 ジアレイスたちの悪意に嫌悪を感じているのだ。

 私欲・私憤による世界への反逆。それを向けられたエルダールには、彼の大切な仲間たちがたくさん住んでいる。


「ジードさんは、新たな神の創り方を知っているんですか……?」

「いや、さすがにそれは知らん。創世に関する書物は読んだことがあるが、それですら本来開示されるものではないからな。神創りの法を知るのは創造主になりえる大精霊たちか、それに匹敵する力を持つものだけだ。魔界図書館を預かるルガルでさえ、その情報にはアクセスできんだろう」


 魔界図書館の管理人ですら手に入らない情報。

 それではクリスたちが多少足掻いてみても手に入るまい。


 しかしそうなると、さらに大きな疑問が湧いて、クリスは誰にともなく問いを口に上せた。


「……あれ? だとすると、ジアレイスたちは何で神の創り方を知ってるんだろ……?」


 思い返すに、魔研は明らかにそのやり方を知って動いている。

 だがその情報がどこからきたのか見当も付かない。


(そんな情報、リインデルの書庫にもなかったはずだ。ガラシュ……が知っているならジードも知っているだろうし。一体、どこから……)


 クリスが眉間にしわを寄せて首を捻っていると。


「……おそらく彼奴らの知識の出所は、復讐霊……エルダールに巣喰う、呪いの主。お前が言う、『彼奴らの後ろに付いている者』だ」


 ジードはその答えを持っていた。


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