兄弟、ランクS依頼リストを手に入れる
久しぶりに日用品を迷宮ジャンク品の店で買った帰り、ユウトとレオはばったりとネイ師弟に会った。
「よお、ユウトと兄ちゃん! 今日は一緒なんだな!」
「あ、ネイさん、ルアンくん。こんにちは」
「……ルアン、なんで君が師匠の俺を差し置いてレオさんたちにタメ口なの? 敬語使いなさいよ、敬語」
「別にいい。気にしない」
「マジで? じゃあ俺も……やあ、レオっち!」
「ふざけんな貴様。殺すぞ」
「えー、何その理不尽」
どこか殺伐としたやりとりをする大人2人の隣で、ユウトとルアンはほのぼのと会話をする。
「今日はダグラスさんたちとのクエストはお休み?」
「うん、オレが大盗賊になる修行してるって言ったら、こっちを優先して良いって。クエストはとりあえず週一くらいになった」
「そっか。じゃあ頑張って強くならないとね」
「そだな」
ルアンの表情は明るい。それを見てユウトも嬉しくなる。
ダグラスたちに僧侶系への転向は嫌だと正直に言えて、やっと目標へも動き出せたのだ。
ネイとの師弟関係も問題なさそうだし、良かった。
「今は何してたの?」
「ふっふっ、盗賊は軽々しく仕事の秘密を口にしちゃいけないんだぜ」
「仕事の緘口? 盗賊も隠密と諜報スキルが要るんだっけ」
「師匠が覚えておいた方がいいって。ランクが上がると必要になるんだってさ」
「そうなんだ」
その師匠は、レオと2人で少し離れたところに移動して、何かのやりとりをしている。
「ネイさんとは、どう? 仲良くやってる?」
「うん、まあね。結構厳しいけど、育てようとしてくれてるのが分かるし、修行中以外は優しいよ。……ただ、普段はすごいズボラ。部屋めっちゃ散らかってるし、ご飯も適当。あまりに酷いから、さっきオレが掃除してきたとこ」
「へえ、以外。結構几帳面そうなのに」
「仕事に几帳面な分、反動がすごいんだって」
ルアンは男の子みたいな身なりをしているが、昔からリサにみっちりと家事をたたき込まれているらしい。掃除洗濯、料理もお手のものなのだろう。
「飯も作ってあげたら、美味いって言ってくれた。家族以外に作るなんて滅多にないから、何か嬉しいよな」
「ルアンくんの料理かあ。僕も食べてみたいな」
「そう? 料理ならユウトもできそうじゃん」
「僕、オムライスとホットケーキしか作れないんだよね。レオ兄さんがすごく上手いよ」
「オムライスとホットケーキ! うわあ、かっわいい~!」
ルアンにめっちゃ頭撫でられた。
「つか、兄ちゃん料理までできんだ。すげえな」
「男料理だけどね。僕にちゃんとした食生活をさせようとして、勉強したみたい」
「そんなとこまでユウトのためか。徹底してるわ」
ルアンは感嘆とも呆れとも取れる声を上げる。まあ、その両方かもしれない。
そうしているうちに、話を終わらせたレオとネイがこちらに戻ってきた。
「待たせたな。戻るぞ、ユウト」
「あ、うん」
もうここに用がないんだろう。レオはそのまま去る様子だ。
ユウトは慌ててネイたちに挨拶をした。
「ネイさん、ルアンくん、今日はこれで」
「ああ、じゃあな」
「またね、ユウトくん」
苦笑する2人に見送られ、ユウトはレオと帰途についたのだった。
リリア亭に着くと、レオはそのままユウトの部屋へ入ってきた。
荷物を置いて、テーブルに座る。
兄に倣い、弟も荷物を置いてテーブルについた。
2人で向き合ったところで、レオが上衣の内ポケットから書簡を取り出す。
それにはまた、この間と同じ封蝋が付いていた。ライネルからのものだ。
「……これは?」
「今、ネイから受け取った。兄貴が寄越した、ザイン周辺のランクS以上のモンスターやゲートのクエストリストだ。普通はこの中から行けるものを選んで、冒険者ギルドで依頼の受諾をすることになる。緊急のものだと、この依頼を至急やってくれと直接来ることもあるがな」
「へえ、これで選ぶんだ。……でも、依頼受け付け窓口に行ったら、僕たちの正体バレちゃうよね?」
「そこはネイを使う。あいつちょうど無職だしな。代理人として依頼の受け付けと報告を代行させる」
なるほど、それなら問題ない。彼なら秘密を明かすこともないし、他人に尾行をされるなんてこともありえないだろう。
「ランクSは冒険者ギルド直属の冒険者が受けるんだよね? 僕らは王国直属だから、ランクSSから?」
「緊急の直接依頼はそうだが、フリーで行く分には関係ない。そもそもランクS以上の冒険者の絶対数が少ないから、ゲートなんかはどれからでも潰してくれというスタンスだ。ランクSの冒険者がSSSの依頼に挑むことも許容されてる。……まあ、そんなことしたら十中八九死ぬけどな」
そう言って、レオはテーブルの上にリストを広げた。
クエストはランクSから始まり、次いでランクSSへ。用紙3枚分くらいある。その大半はランクSだ。
「……ランクSSSのクエストがないけど」
「ザインにはない。……エルダールのランクSSSゲートは今、王都にあるひとつだけだ」
「そうなんだ」
ランクSSSとはそれだけ特別だということか。でも確かに、そんなゲートがぽこぽこと増えられたら困る。
「ランクS以上のクエストって、街の近くにはあんまりないんだね」
「街の近くにできると、緊急クエストの直接依頼ですぐに消されるからな。大体、すぐには影響のない場所にあるゲートやモンスターが残されている」
「だから街からも街道からも遠いとこにあるのか」
ライネルからの書簡にはエルダールの地図も入っており、それぞれの依頼の場所も印が付けられていた。ユウトがその地図を見ている間、レオはリストに目を通す。
「あれ、冒険者ギルドの地図だと、エリアってA~Kだよね? この地図、Zまである」
「Lから先のエリアにはランクS以上のモンスターが出るからな。冒険者ギルドでは、一般の冒険者はKまでしか行かせないようにしてるんだ」
「そうか、他のクエスト受けに行ってランクSと鉢合わせしたら大変だもんね」
ユウトが地図を眺めながら納得していると、反対側からレオもそれを覗き込んだ。
「……さて、欲しい素材の魔物はエリアMだな……ここか。この距離なら転移魔石を使えば半日で帰ってこれるだろう」
「ゲート攻略じゃないの?」
「ランクS以上のゲートは最低でも70階ある。SSだと100階以上、SSSは150階以上だ。ゲート攻略する時は、それなりに計画を立ててから行かないと苦労するぞ」
「最低でも70階……翌日絶対筋肉痛になりそう。それじゃあ長丁場になるし、アイテムも色々揃えないといけないんだね」
「持ち込むアイテムは本当に重要だ。ゲート攻略の準備としてもまず、必要な素材を取りに行く」
「それがエリアMにいる魔物の素材なの?」
「そうだ」
レオがリストの依頼のひとつを指さす。
そこにはランクSの討伐クエストが載っていた。
「サモナーペリカン……どんなモンスター?」
「こいつ自体は大した強さじゃないんだが、のど袋の部分に空間魔法を持っていてな。そこから他の高ランクの魔物を召喚するんだ」
「召喚? ってことは、呼び出されたモンスターとペリカンを同時に相手にしなくちゃいけないってこと?」
「そうなる。召喚される魔物はランダムだが、ランクS級が来るから気が抜けない。召喚も1回だけで終わると限らないしな」
「うわあ、大変そう……」
「大丈夫だ。俺とユウトなら問題なくやれる。……召喚される魔物によって少し難易度が変わるが、まあ、最悪ネイもいるし」
「あ、そっか。ネイさんも一緒に来てくれるんだっけ」
そういえばユウトを護ってくれると言っていた。
何と言っても彼はレオが認める実力者だ、心強い。
「クエストにはいつ行くの?」
「とりあえず、ネイの同行用の装備が揃ってからだな。……まあ、そんなにこだわって凝ったもの作らないだろうから、すぐだ」
「ネイさんも変身するの?」
「そうなるな。『もえす』で作ってるから、おそらく普通の鎧にはならない」
「へえ、ちょっと楽しみ」
スーツ眼鏡と魔女っ子なんてコンセプトの分からないパーティに入って来るのだから、もう何だっていいだろう。ミワがネイにどんなデザインの装備を作るのか、興味がある。
「きっとミワさん、張り切って格好いいの作るんだろうね」
「……どうかな」
わくわくと言ったユウトに、何故かレオは明後日の方を向いた。




