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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ウィルの言葉の真意を知る

「『最悪に相性の良い相手』というのは……?」


 ウィルの言葉に、クリスが首を傾げる。

 それに対して、青年は端的に答えた。


「ジアレイスにとって、『呪いの主』は理想的な存在なのです。しかしこれこそが、彼を狂気に走らせる最悪の出会いだったと言える。……まあ、それを引き寄せたのが彼の資質だったのだから、自業自得と言えばそうだったのかもしれませんが」


 そう言ったウィルは、ジアレイスの性質について自分なりの分析をしているようだ。

 彼は、あの男がどういう思考からこの行動に至ったのかを話し始めた。


「元々ジアレイスという男は、世界の頂点に立ちたいと考えるタイプの人間ではないと私は理解しています。5年前まで……前国王が生きていた時は特に何の反逆の意思も見せていなかったことからも明らかです」

「……確かに、奴はあくどいことはしていたが、親父に対して敵意を示すようなことはなかったな。どちらかというと、親父の親友という一番近しい位置にいることを鼻に掛けていたような……」

「まさにそれです」


 ウィルは我が意を得たりとレオの言葉に頷いた。


「ジアレイスは権威主義者で選民思考……そのくせ、劣等感の塊なのです。以前マルセンさんからもお聞きしたことがありますが、彼は自分より優秀な者を権力で排除し、他人を蹴落とすことで人より上に行こうとしていました。しかし彼も残念ながらそこまで馬鹿ではないので、自分が本当の意味で上に行ったわけではないことは分かっている。それがさらに劣等感を増長しているのです」

「まあ、自分より下の地位だと見下してた相手が自分より優秀だったと知って、それを実力でなく権力でしか排除できなかった時点で、負けを認めたようなものだからな……。それも、相手はマルセンだけじゃないだろうし」


 下手に他人の排除を簡単に為せるだけの権力を持っていたことも、ジアレイスの歪みの原因だろう。

 せめて悔しさをバネに実力を上げようとする気概があれば良かったのだけれど。


「そんな、内心で劣等感を募らせるジアレイスには、自尊心を満たしてくれる存在が必要でした。それは絶対的な権威、彼が格上だと認める者。そこから信頼と承認を得ることで、ジアレイスは自分が特別な人間であるというプライドを保っていたのです」

「絶対的な権威……親父か。なるほど、国王の親友という居場所は、だいぶ景色が良かっただろうからな」


 他の者がどれほど優秀でも、国王の親友という肩書きの方が強い。

 私情を挟むタイプの愚王なら尚更だ。

 つまり、ジアレイスは国王以外の全てを見下せる『親友』の位置にいることで、精神的に安定していたのだ。


「でもさ、ウィルくん。自尊心を満たしたいなら、自分がトップになっちゃって下から崇められた方が良くない? ジアレイスがわざわざ自分の上に権威を置くのはどうして?」

「それは、彼が下の者に対して不信感を抱いているからです」


 クリスの疑問にも、ウィルはすでに回答を持っていた。


「ジアレイスは、下の者が皆上の者を蹴落としてのし上がることを考えていて、本心から上を敬うような心なんて持ち合わせていないと思っています。まあ、自分がそう考えているから他人もそうだと思い込んでいるんです」

「……あー、下からの言葉はどんな賞賛も裏があって、信用ならないと思ってるから嬉しくないし、承認欲求も満たされないのか。下の者だけいても心が安まらないってことだな」

「その点、自分より上の権威からの言葉には忖度や虚飾がないから自尊心を満たせる。権威からの賞賛が下の者に伝わることで、優越感も生まれる。この立場が、彼にとってベストポジションなわけです。だから自分の精神の安定のために、ジアレイスは常にナンバー2でいたいと考えています」


 ウィルの考察が確かならば、前国王が死んだ途端に『呪いの主』に鞍替えしたのは、それを次の権威として選んだからに違いない。

 大精霊と同等の存在だとすれば、ジアレイスがそれを権威として申し分ないと考えてもおかしくないのだ。


 国王が殺されたと知った時のあの男の変化は、少々洗脳の影響を感じたけれど。

 展開としては、どちらにしろ大して変わりはなかったのだろう。


 結局ジアレイスは自分が世界のナンバー2になるために、『呪いの主』を『神』というナンバー1にしようとしているのだ。


「この前提で今の状況を考えると、ジアレイスは自分の安定のためにも、『呪いの主』を『神』にしたい。そしておそらくですが、『呪いの主』もジアレイスを使って『神』になろうと画策している。利害が完全に一致し、その達成のためなら世界の破壊も厭わない、最悪の同調をしているわけです」

「なるほど、だから『最悪に相性の良い相手』か……」


 今まで見えてこなかった魔研の目的が、ここに来てやっと明確に姿を現してきた。

 どこまでも自分勝手で偏向的な思想に反吐へどが出るが、何も分からず対応するよりずっといい。情報が詳らかになるほどに、対策は立てやすくなるのだ。


 今のうちに、不可解な部分は潰しておきたかった。


「……ウィル、他にもお前の考えを聞きたいんだが」

「はい、どのようなことでしょう」

「まだ親父が生きてた頃から、魔研では神を作ろうとしていた形跡があった。あの頃のジアレイスは親父の権威を笠に着ていたはずなんだが、なぜさらにその上の神をも作ろうとしていたんだと思う?」


 5年前の魔研の地下で見た祭壇とグラドニの肉片。もしもあれが神を作るための準備だったとすると、奴らは前国王が生きていた時からその支度をしていたことになる。


 すでに自尊心のよりどころとなる存在がいたはずなのに、神まで作ろうとしていたのはなぜなのか。

 その考察を求めると、ウィルは口元に手を当てて、しばし考え込んだ。


「ジアレイスたちは、前国王が生きている時から神の生成を計画していた……? となると、もしかして……」


 軽く目を伏せて、ぶつぶつと何事かを呟いている。

 しかしやがて考えがまとまったらしく、視線を上げてレオを見た。


「その情報から私が思うに、もしかすると最初に神を作ろうとしたのは前国王なのかもしれません」

「……親父が?」


 思わぬ答えに、レオは目を丸くする。

 一体どういうことなのか。

 驚くレオに、ウィルは推論を披露した。


「レオさんの言う通り、前国王が生きていた時ならジアレイスはその権威を笠に着ていたはずなので、神など必要なかったと思います。それでも少々荒唐無稽にも思える神の生成なんていうものに手を出すとすれば、その理由は『国王に頼まれたから』に他ならないのではないでしょうか」

「ああ、そっか。ジアレイス自身にとって必要のないものを生成するってことは、余程金になる依頼を受けたか、親友の国王様に命令されたかどっちかってことだもんね」

「私はネイさんの上げた前者のような、他の者による大金での依頼はないと考えます。そもそも神を作れるという前提を知るものは巷にはいませんし、一般人にとってはそんなことをする意味がないからです」

「……ん? その言い方って……」


 ウィルの考察に引っかかりを感じて、クリスが目を瞬く。


「前国王にとっては、神を作る意味があるってこと?」

「そう考えます。だからこそ、それをジアレイスに依頼したのでしょう」


 クリスの問いかけに、ウィルはしっかりと頷いた。


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