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弟、兄から指輪の使い方を教わる

『もえす』を出た後も、ユウトはしょげていた。

 余程、筋肉増強剤の使用を楽しみにしていたらしい。


 レオとしてはもう安堵の一言で、内心で万歳三唱しながらしょんぼりした弟を宥めていた。


「そうがっかりするな。飲む前に分かって良かったじゃないか」

「……確かに飲んだ後だったら衝撃で気を失いそうだけど……。楽しみにしてたのに……」

「何でそんなにムキムキになりたいんだ」

「別に今の自分に不服があるわけじゃないけど、変身願望っていうか……。一度でいいから男らしい体つきになってみたかったんだよ。レオ兄さんには分かんないだろうなあ……」


 ユウトは小さく口を尖らせた。


「いっそ一気に5本くらい飲んだら、全身ムキムキにならないかな」

「やめておけ。劣化薬なんて副作用も怖いぞ。その薬も処分しろ」

「……でもあんなに売ってるくらいなんだから、使い道あるかも」

「あれは多分、売れ残りを激安で処分してただけだ」

「……それでもいい。一応とっとく」


 まだ未練があるのか、すぐには処分できないようだ。

 しかしまあ、さすがにユウトも進んで飲もうとはするまい。レオはそれ以上突っ込むのを止めた。

 これを取り上げてしまったら、魔工爺様のところで正規品の筋肉増強剤を作ってもらおうなどと思いついてしまうかもしれない。


 レオは一旦、この話題からユウトの意識を逸らした。


「ところでユウト、一緒に街の外に出るなら、一応討伐クエスト受けていくか?」

「あ、そうだね。その方がいいかな。冒険者ポイントもたまるし」


 素直な弟は、すぐに兄の思惑に乗っかってくれる。


「じゃあ冒険者ギルドに行くか。まだ開いてるはずだ。時間的にあまり良い依頼は残っていないだろうが、報酬が低くても別に気にしないしな」

「うん。報酬目的じゃないもんね」


 そう言って、ユウトは手元の指輪を見た。

 今日彼がレオについてきた目的は、そもそもこの指輪を使ってみるためだ。

 そちらに思考が向いたユウトは、ようやく少し元気になったようだった。






「E+3か……この辺りかな?」

「そうだな。空を飛んでいるか、木にぶら下がっているはずだ」


 今回受けた依頼は、吸血コウモリ5匹の討伐。

 ユウトの指輪の練習にはもってこいだ。

 とりあえず敵に備えて、レオはユウトに簡単な指示を出した。


「コウモリが現れる前に、まず杖を使っていた時と同じように、指輪の魔石に魔力を集めろ」

「魔石、5個くらい付いてるけど」

「5個全部に溜めろ。これは上位魔石の中でもさらに質が高い、純魔石だ。僅かな魔力を大きく増幅してくれる」


 兄の言葉に従って、弟は指輪に魔力を溜める。


「……ん、はい。魔力充填したよ」

「じゃあまず、一匹目を仕留めよう。……ああ、あそこにいるな。右側の大きな木の枝にぶら下がってる。魔力を溜めた魔石をひとつだけ使うぞ。風の魔法でいい」

「エア・カッターでいいの?」

「十分一撃で倒せる。ミドルスティックの時は魔力を制限していたが、この指輪は魔力を増幅するものだ。威力は今までの比じゃないぞ」

「な、何か怖いな……エア・カッター!」


 少しおっかなびっくりという様子でユウトは魔法を発動した。

 すると彼の指先から出た魔法は、思いの外大きな空気の刃となって魔物のもとに飛ぶ。大気が唸り、次の瞬間には太い木の幹がコウモリと共に半分に切り離されて、どさりと地面に落ちた。


「うわ、ちょっ、これ、思った以上に威力がある!」

「でも1回使えば感覚が分かっただろう。次は出力を調節すればいい。今のお前ならすぐに適応できるはずだ」

「それはそうだけど……」


 すでに道具を使わない魔力のコントロールもしているユウトだ。何も問題はない。


「今度は指輪ならではの応用な。今の攻撃で警戒した吸血コウモリが、2匹飛んでるだろう。あれを同時に仕留める」

「同時? 範囲魔法ってこと?」

「範囲魔法でもいいんだが、今回は違う。消費魔力を節約できるし応用も利くから、この使い方も覚えておけ」


 そう言って、レオはユウトの指輪に触れた。


「魔石に溜めた魔力は数発同時に撃ち出す事ができる。この指輪だと最大5発同時発射ができるってことだな。今回は2発しか使わないが」

「え、飛んでる敵に2発同時に当てるってこと? それって難しくない?」

「別にエアー・カッターを2発同時に撃ち出すなんて芸がないことをするわけじゃないぞ。まあ、あくまで練習だ。後でお前なりに応用の仕方を考えろ。……とりあえず、ひとつはエアーカッターで、もうひとつはファイア・ボールで撃ち出す」

「エアー・カッターとファイア・ボール……もしかして、複合魔法にするの?」

「そういうことだ」


 どうやらユウトは何をするのか察したらしい。褒めるようにその頭を撫でて、レオは視線をコウモリに移した。


「撃ち出した魔法を複合して、ファイア・ストームにする。2つの魔法を、魔物の側でぶつけて暴発させるんだ」

「その魔法に敵を巻き込むんだね。なるほど……これは色々応用できそう」


 言いつつユウトはコウモリに向かって手を伸ばし、魔力に属性を付与する。

 しかし、そこで止まった。


「どうした」

「……こういう場合、魔法の名前どっちを言うべきだろ。先にファイア・ストームって言っちゃうのも何だし、かと言って2つ言うのも変だし……」


 何だかどうでもいいことで悩んでいる。


「……どっちでもいいだろう。別に言わなくてもいいし」

「でも、無言っていうのは何か違うんだよ。魔法っぽくない」

「お前、魔法名にはこだわるな……。もう何にでも使えるマルチスペルでも作っておいたらどうだ」

「マルチスペル……」


 ユウトはしばらく考えていたが、良い単語が見つからなかったようで首を振った。


「とりあえず『食らえ!』って言うことにする」

「……まあ、いいんじゃないか」

「あ、『食らうがいい!』の方がカッコイイかな」

「分かった。もういいから『兄さん大好き!』にしろ」

「何で」


 さすがに兄の提案は却下された。


「まあ今日はこれでいいや、『食らえ!(仮)』」


 ようやく弟から放たれた魔法は、まっすぐに夜空に漂う吸血コウモリのところへ飛ぶ。

 そして、2匹のちょうど真ん中あたりで衝突し、轟音と共に風に巻き込まれた火が爆発的に膨れた。

 まさに炎の嵐。

 一瞬で爆風に飲み込まれたコウモリが焼け落ち、風で散れる。


「……あ、討伐証拠素材まで焼けたかも」

「構わん。その分多く倒せば良いだけだ」


 今回の討伐証拠素材はコウモリの翼。炎を使うとこうなる。

 まあ、分かっていて指示したことだから気にしない。


「しかし、魔法の同時発射と複合魔法かあ……。いろんな組み合わせで試してみたいな。もっと魔法の種類も勉強したい」

「魔法の種類の勉強か。俺は知識として教えることはできるが、実演してやることはできないからな……。王都の魔法学校あたりに行かないと……」


 ライネルもユウトに薦めていた魔法学校。一度行ってみてもいいかもしれない、けれど。


「王都か……」


 あまり良い思い出のない場所。エルダーレアのことを考えると、レオは少し気が重くなるのだった。


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