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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、リインデルを訝しむ

「正確に言うと、その一部だったと考えるべきだろう。過去の文献では、ここにあった城の天辺の見張り台から、人間の街が見えるほどだったというからな」

「当時にこの付近にあった人間の街っていうと、ジラックあたりかな。エルダール王国になる前だから、名前は違うだろうけど」

「ここからジラックが見える……って、だいぶ大きな城ですね。想像も付かないや」


 まあ侵攻の拠点なのだから、多少の誇張はあるにしてもかなりデカかったのは間違いあるまい。


「でも大きかったわりに、この辺りには遺構が全く残っていなかったんだよね。普通それだけ大きな建物があったら、朽ちたとしても土台の部分や建築石材の残骸がたくさん見つかるはずなんだけど。ジードさんは、その理由を知ってます?」

「……当時のことについては、実は魔界の方にもあまり資料はないのだ。これは私の推察だが、ここにあった城は特殊なもので建てられたのではないかと考えている」

「特殊なものって?」

「この世界に存在しない物質だ。……これ以上は私も研究段階ゆえ、語ってやる気はない」

「この世界に存在しない物質、か……。うん、興味深いお話をありがとうございます」


 クリスはそれ以上特殊な物質の情報を追おうとはせず、そこで一旦引き上げた。そして再び、この通路の奥にあるものに関してジードに話を振る。


「とりあえずその城が消えて、内部にあったこの横穴だけが残ったってことなのかな。この施工を見るに、当時もきっと隠されていたんでしょうね」

「だろうな。城がでかく存在感があるほど、こうして小さく隠された場所には目が行きづらくなるのだ。外部からの侵入者はおろか、城にいた者ですら知らなかった可能性はある」

「……ではこの奥には、味方にも知られたくない余程重要なものが眠っていると考えて良いのでしょうね?」

「当然、そういう結論になるな」


 この中途半端に低い位置、特殊な物質で作られた城の中でわざわざここだけ魔界の魔造鉱石で作った意味。

 ここまで深い横穴を掘っていることから考えても、明らかな隠し部屋だ。


 誰が何のために用意したものなのか。

 ……今もその重要なものというのがこの奥に存在しているのか?

 クリスは『嫌な予感がする』と言うが、やはり確かめに行くべきなのか。


 考え込むレオの隣で、ユウトがジードにずばり訊ねた。


「ジードさん、この奥には何があるんですか?」


 裏のない弟の純粋な疑問。これだけ可愛いユウトに訊かれれば、もし知っているならジードは答えずにはいられまい。

 その回答に意識を向ける。


 しかしジードは少し困ったように眉根を寄せた。


「もゆるの質問には答えてやりたいが……正確なことは言えんな。歴史書を書いた者のほとんどはこんな横穴の存在を知るわけもないし、そもそも最終戦争ハルマゲドンに関しての文献はほぼ憶測ばかりだからな」

「憶測、ですか?」

「当時の最終戦争に関わった中枢の者は全員死んでいるのだ。文献を書いたのは、辛うじて残った下っ端からの話をまとめた第三者。そこに独自の解釈が入るせいで、どの書物も内容が微妙に違う」

「……なるほど」


 ジードの言葉に、クリスが納得したように頷く。


「最終戦争の話は登場人物なんかは同じでも、首謀者が誰かとか仲間同士のやりとりの内容とかが文献によって違ってるのはそのせいか。話の流れ自体はそんなに変わらないけど」

「それらの雑多な文献から、ここに隠されているものを割り出すのは難しい。……唯一、ルガルとお前の祖父の通信で、それらしい話が出ていたことはあるが」

「ルガルとお爺さまの……ということは、あの本の内容……!」


 確かに、この隠し部屋に言及している書物があるとすれば、それは横穴の存在を知っているクリスの祖父と話し合い、ルガルが編纂したらしい魔法研究機関にある本くらいだ。

 ジードの話を聞いて、本に目を通したことのあるクリスも何か合点が入ったようだった。


 そのまま視線を伏せて何事かを思案して。

 やがて再び顔を上げて、小さく唸ってレオを見た。


「んー……レオくん、今はやはりその奥に行くのはやめた方がいいかもしれない。確かなことは分からないけど……多分、今の私たちでは何もできないと思う」

「……どういうことだ?」

「詳しいことは後で話すよ。……とりあえず、この奥にジードさんが探している本がないのだけは確かかな」

「……そうだな」


 クリスの言にジードも同意する。


「この先に進むよりは、お前の祖父の書類を漁る方が有益そうだ。まずは書物リストをとっとと探せ」

「分かりました。……レオくんたちはどうする? それでも見に行く?」

「……いや、今回はやめておく」


 問われて、レオはそう返した。

 危険などほとんど顧みないクリスがここまであっさりと突入を見送るなんて、余程のこと。

 その違和感は妙にレオの心をざわざわとさせる。

 こんな状態で、得体の知れない通路をユウトを連れて進むなんてできなかった。


 弟を挟んで逆隣にいたエルドワも、ほっと息を吐く。


「この先はエルドワも心配。匂いも魔力も無効化されちゃうところだから、ちゃんともゆるを護れるか分からない」


 この大きな子犬まで不安を吐露するとはよっぽどだ。

 もちろんこのままずっと放置する気はないけれど、やはり相応の準備と覚悟が必要なようだった。


 そんな珍しい展開に、ユウトが少し戸惑い気味に首を傾げる。


「えっと……じゃあ、元通りにする?」

「……そうだな。ガラシュに見つかると問題だし。……もゆる、ブライトリング消して良いぞ。ここの扉を閉める」

「うん」


 結局レオは扉を閉め、本棚も元に戻した。

 そうして元通りになった部屋で、壁にもたれ、クリスたちの書類探しを眺めながらレオは考える。

 村の隅で、こんなものを隠していたリインデルの意図についてだ。


(……このリインデルの存在はやはり謎だが、この横穴が存在理由のひとつである可能性は高い。村はこの横穴を護っていたのか? 監視していたのか? そもそも、魔族と村との関係は? ……分からないことだらけだ)


 今クリスたちが漁っている書類の中に、その答えはあるのだろうか。

 Xデーを前に増える懸念に、レオは内心でため息を吐いた。


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