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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、『もえす』で新しい剣を手に入れる

 今日は新しい剣を受け取りに行く日だ。


 昨晩の9時から今朝の7時までずっと抱き枕ユウトと引っ付いていたおかげで、今日のレオはすこぶる機嫌が良い。もこもこパジャマの抱き心地マジ最高だった。

 今晩受けるだろう多少のセクハラも華麗にスルーできそうだ。


「今晩は『もえす』に行くの?」

「ああ。やっと剣ができるからな。これでどんなクエストも受けられるぞ。少し街の外で試し切りもしてくる」

「……僕も行っていい?」


 部屋で向かいのテーブルに座るユウトは、上目遣いにこちらを覗った。


「この間買ってもらった杖と指輪使ってみたい」

「ああ……。まあ、どうせ1時間もいないし、夜の敵とは言えその辺にいる魔物なら今さらどうということもないか。いいだろう」

「やった!」


 喜ぶ弟に兄も微笑む。平和だ。

 気になるのは今後の筋肉増強剤の行方だけだった。






「こんばんは」

「あああユウトくん久しぶり! レオさんいっつもユウトくん連れて来てくれないからさあ、目の保養できなかったんだよねえ! 今日もちっちゃ可愛いなあ、萌える!」


 リリア亭で夕食を終えてから『もえす』を訪ねると、店頭にタイチがいた。

 レオひとりの時には普通に応対してくれるタイチだが、ユウトがいるとテンションが違う。やはりウザい。

 その反応にビクッとしたユウトが側に寄ってきて、兄の後ろに半分隠れた。


「怯えるユウトくんもカワユス」

「おい、今日は俺の剣ができてるはずだが、どうなってる?」

「あ、朝から姉貴がニヤニヤしながら仕上げしてたから、もうできてるんじゃないかな? ちょっと待ってて」


 さすがに、仕事はきっちりしているようだ。

 カウンター奥に消えたタイチは、すぐにミワを伴って戻ってきた。


「来たな兄、私の渾身の剣を受け取るがいい! そして手に取って構えてみるがいい! その姿に私が喜ぶ!」

「手に取る気が失せるから黙れ」


 無造作にカウンターに置かれた剣を受け取る。

 ……なるほど、これはすごい。

 今まで持っていた鋼の剣とは刀身の長さも幅も違い、当然重さも違った。違和感があるはずなのに、それでも柄を握ればしっくりと手に馴染む。レオに合わせて計算し尽くされているのだ。


「柄は兄の指のサイズに合わせて握りを調整してある。断絶付けてるからすんなり振り切れるように、剣の重心は若干突端に寄せてるぜ。その分力が要るし扱いも難しいが、兄なら苦もねえだろ」

「ああ、問題ない」


 だがデザインは、やはり少し懲りすぎている。

 鞘も柄も、装備に合わせた黒。そこに赤のラインの縁取りと、白金色の金具が付いていた。片手・両手兼用のバスタードソードは柄が長く、その末端にはライオンの顔の刻印が入っている。


「……この刻印は?」

「あ、これは見て驚け。その刻印を捻って引き抜いてみ?」


 怪訝に思いながらも言われた通りに捻ると、かちりと留め金のようなものが外れた。刻印を引き抜く。

 後ろでそれを見ていたユウトが驚きの声を上げた。


「わあ、剣の鞘と柄の色が赤に変わった!」

「黒のままだとスーツ眼鏡の方に合わねえだろ。この金具がオリハルコンなんだけどな、ここに魔力を通して魔石プレートでできた本体に色を反応させてんだ。これなら特徴的な赤のラインも同化するし、同じ剣には見えねえ。本当は別々に作りたいとこだが、命を預ける相棒は一本で十分だからな」

「なるほど。これは助かるな」


 今後、敵が強くなればなるほど剣との馴染みは重要になってくる。全く同じものを作ってもらっても、使用頻度や相手にした敵で具合が変わってくるのだ。その2本を自分でいちいち調整などしていられない。

 しかしこれならば、一本で済む。


 特注の剣なのにレオと『ソード』が同じものを使っていたら、正体がバレてしまう可能性もあるのだ。

 それが回避できたのだから、ミワの異常なこだわりに今は感謝をしておこう。


 レオは鞘から剣を引き抜いて、刀身も確認した。

 少し幅広なのは、盾を持たないレオの防御のためだろう。刃は鋭く、バランスには寸分の狂いもない。

 さすがは魔工爺様の孫、というところか。


「くううっ、かっちり装備にスタイリッシュな剣を持つ兄、理想のビジュアル過ぎる! ベルトに引っかけると、いい感じに上衣の裾から見えるのも堪らん! やべえ、私は神を作ってしまったかもしれん……!」


 ……これがなければ、もう少し素直に賛辞も出るのだが。


「……まあ、いい出来だ。これで問題ない」

「あざっす! ウチは質とデザインにはこだわってるからね!」

「そのデザインへのこだわりを捨てれば、すごい名店になるだろうに……」


 『もえす』は、あまり名を売る気はないのだろうか。

 魔工爺様の孫、という出自だけでも集客できそうだけれど。


 ……そういえば、現在この2人とあの老人との関係はどうなってるんだ?

 複雑そうな家庭事情、訊いていいやら、悪いやら。


 そんなことを考えていると、不意にタイチがユウトの手元を指さした。


「あれ、ユウトくん、その指輪……」

「あ、これ? 裏路地にある魔法道具のお店で買ったんです」


 あっ。何も知らないユウトがあっさり核心に迫った。


「やっぱりそう? 実はあそこ、俺たちの爺ちゃんがやってるんだよ」

「えっ!? そうだったんですか?」

「どれどれ。……じじいのデザインは相変わらず機能性重視だなあ。もっと萌えを追求したらいいのに。今度忠告しとこう」


 ……どうやら別にタブーの話ではないようだ。

 つうか、老人に萌えを強要すんな。


「……ここは、魔工翁の店と交流があるのか?」

「ん? じじいなら隣の民家で私らと一緒に住んでるぜ。工房を共有してるから、よくウチの奥で萌え系雑誌に囲まれながらアイテム作ってる」

「ここでか!?」

「爺ちゃんのとこ、狭いからね」


 ということは、魔工爺様は自分の工房自体を持っていないわけか。ロバートが言ったように、彼に出資をするとなると設備や工房から必要だから、だいぶ高額になるだろう。

 ……だが、孫との関係が良好ならば、ここに留まりたがるだろうか? だったらいっそ、『もえす』ごと出資対象にしてもいいかもしれない。


「魔工翁は最近あまり色々なアイテムを作っていないようだが、ここの設備で足りないものでもあるのか?」

「さあ、どうかな。俺たちは爺ちゃんが何作ってるかはノータッチなんだよね。特に何か設備が足りないとは言われてないけど」

「あー、何か魔法消耗品は作る気失せるって言ってたな。配合とかすぐに奴らに解析されて、劣化商品を量産されるからって」


 奴ら。おそらく、王都にいる魔工爺様の子どもたち……『もえす』2人の親のことだろう。その一言で、その関係性があまりよろしくないのが分かる。


 だとしたら、これ以上は踏み込むまい。

 後はネイが持ってくる情報を待とう。


「量販店で売ってるものって、魔工爺様の作ったものの劣化品なんですか?」

「大体そうだよ。廉価品と言えば聞こえはいいけど、アイテムメーカーの俺らからしたら、ちょっと噴飯物の劣化品。需要があるのはわかるんだけどね。そのやり方が問題」

「噴飯物……」


 ユウトが何だか難しい顔をしている。


「……タイチさん、商品を見たらどれだけ劣化品か分かりますか?」

「ん? 多分わかると思うよ」

「薬品でも?」

「うん。薬なら裏に配合されてる薬品名が載ってるし」

「……ちょっと、これを見て頂きたいんですけど……」


 弟が取り出したのは、昨日買った筋肉増強剤だった。

 おそらく劣化品と言われたその効能が気になったのだろう。

 兄も気になってつい身を乗り出す。


「この薬、ムキムキの男らしいボディになるって売り文句だったんですけど、本当になれます?」

「筋肉増強剤かあ……これ、10秒も保たないよ」

「継続時間はそれほど気にしないです」

「ええと……ああ、うん……。予想通り酷い配合だなこれ……」


 タイチは眼鏡のリムに手を添えて薬品名を見、眉間にしわを寄せて唸った。


「一応ムキムキになるけど、身体の一部だけだよ。それも場所はランダム。筋肥大の魔法が発動して、最初に動いた筋肉に反応するんだ。首だけ格闘家みたいに太くなったり、右手の二の腕だけぶっとくなったりするよ。男らしさとか何それ状態」

「一部だけ……?」

「とにかく魔法濃度薄めすぎなんだよね。つか何でこれ代わりに余計な甘味料とか入れてんの。味で勝負かよ」

「甘味料……」


 話を聞いて、ユウトが萎れている。

 可哀想だがこれは仕方がない。うん、めっちゃ仕方がない。


「村ネズミが拳で倒せるって書いてあったのに……」

「あいつ病原菌持ってるから、拳で倒すと汚いよ」

「そういう話じゃないんですぅ~!」


 レオは半分涙目のユウトを、心底安堵した面持ちで宥めるように撫でた。

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