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兄弟、職人ギルドに行く

 夜の街中は、大通りを外れれば8時くらいでもだいぶ閑散としている。

 レオはそこをユウトと2人でゆっくりと歩いていた。


「……ルアンがネイの弟子になった?」


 その道中で話題に上ったのは、予想外の師弟の話だった。

 ユウトはどこか嬉しそうにふわふわと笑っている。


「ルアンくんは最近ずっと元気なかったんだけど、ネイさんが師匠になってくれると決まってすごく喜んでたよ」

「あのネイが師匠か……」


 レオは、以前からルアンには盗賊としての素質が十分にあると思っていた。いい師に付けば、彼女はきっと大化けすると。

 あの気ままなネイが直弟子としてルアンを採用したのは、それが分かっているからだろう。


 ……しかし、あの男はちゃんと弟子を育てることができるんだろうか。

 思いの外マメな男だから、おそらく放任はしない。どちらかというと、ドS丸出しのスパルタになる気がする。ルアンに変な属性が付かないといいが。


 ……まあ、こちらが心配することでもないか。ネイは意外に子ども好きだし、妙なことにはならないだろう。


「あいつの弟子になって、冒険者としての活動はどうするんだ?」

「今まで通りダグラスさんと活動するって。それ以外の時はネイさんのとこに通うらしいよ」

「そうか」


 ネイが彼女に信用を置くようになれば、おそらく国の内情やレオたちの情報も知られることになる。だがあの歳でもしっかりしているルアンなら問題ない。頼りにできる隠密が増えるのは大歓迎だ。


「ルアンもそのうち、ユウトの護衛を任せられるくらいになるかもな」

「きっとルアンくんは強くなるよ。……でも、僕だって強くなるもん。そのうち、多分、護衛いらない程度には……」

「大丈夫、ユウトは今も十分強い。でもどんなに強くても、俺のためにユウトの護衛は絶対付ける」

「……過保護だなあ」


 ユウトがわざとらしく頬を膨らます。街灯の下でも少し頬が赤く見えるのは、その過保護を弟なりに密かに嬉しいと思ってくれているからだろう。

 その可愛らしさに微笑んで、レオは膨らんだ頬を突っついて空気を抜いた。






「今日はお2人でお出ましですか? 珍しいですね」

「こんばんは、ロバートさん」

「はい、こんばんは。ユウトくん、とても可愛い装備ですね。お似合いですよ」


 職人ギルドの支部長室に入ると、いつも通りにロバートがひとりで出迎えた。行儀良く挨拶するユウトに、彼も挨拶を返す。レオだけの時にはないやりとりだ、とロバートは笑った。


「今日も納品で?」

「悪いが、今日は納品じゃないんだ。あんたのところにあるギルドカードの運用端末を借りたくて来た」

「この端末を?」


 ソファに座ったレオは、すぐに本題に入る。

 その意外な内容に、ロバートは目を丸くした。


「何にお使いになるんですか? 私用での操作は禁止されていますが……」

「私用じゃない。カードの指紋認証登録をしたいんだ。これの」


 レオはゴールドにランクSSSの刻印が押されたギルドカードを取り出し、テーブルの上に置く。

 ユウトにも促してカードを出させて、そこに2枚置いた。


「ランクSSSカード……! なるほど、先日言ってた王国直属冒険者の、ですね……『ソード』さんと『もゆる』ちゃんですか」

「仮登録はもうされてる。あとは指紋を読み込むだけになってるはずだ。本登録を頼みたい」

「そういうことなら、大丈夫です。……親指の指紋ですと今登録してある本来のカードと照合されて重複で弾かれますので、人差し指で登録して下さい」

「人差し指でもいいんですか?」

「やむを得ない事情がある場合は、ギルド支部長以上の許可があれば親指以外でも登録できます。一応本部でのチェックもありますが、どうせ王国直属の冒険者を弾く者はいませんよ」


 ロバートはそう言うと、端末を操作してレオとユウトの指紋を採り、手早く登録を済ませた。


「……はい、OKです。これでカードの本登録ができましたよ」

「ありがとうございます、ロバートさん」

「いえいえ、どういたしまして。それ以上の恩恵が今後受けられると思えば、お安いご用ですよ。……これからは、高ランク素材の代金はこちらのカードにお入れするのですか?」

「その方がいいだろう。魔物を倒した者と、素材を売った者の名義が違うのは、やはり不自然だしな」

「では、私の高額取引の相手として登録してしまいますね。本部に稟議書を回して、今まで以上の金額を扱えるようにしておきます」

「頼む」


 ランクA素材もかなりの高値だったが、ランクSを超えると市場に出回ること自体がほとんどないため、さらに高額になる。

 さすがにロバートが無断で動かせる金額ではなくなるのだろう。

 だから事前に高額取引をする相手として本部に許可を取り、登録しておくというわけだ。


 本当にこの男はそつがない。


「この間のワイバーン素材は売れたのか?」

「もちろん、速攻ですよ。特にドラゴン系は武器防具に重宝されますからね。買い取りでザイン支部の金庫がほぼすっからかんになりましたが、すぐに利益が乗っかって返ってきました」

「なら良かった」

「あの素材だけで職人ギルドのザイン支部の金庫がすっからかん……?」


 ロバートの言葉を聞いたユウトが隣で若干引いている。


「高額取引の登録をすれば、次回からは本部の金庫から買い取り金を出せるので安心して取引できますよ。引き続きよろしくお願いします」

「ああ」

「……すごい大金を動かす話なのに、何で2人ともそんなに普通なの?」


 どうやら動いた金額にブルっているらしい弟を、兄と支部長はほっこりした目で見た。


「……庶民感覚のユウトくんの反応に安心しますねえ。癒されます」

「いつもは金額の多寡なんか別に気にしないから、こういう反応を見るのは面白いな。ユウトは大金にキョドる姿も可愛い」

「……褒めてないよね?」

「褒めてる」

「褒めてます」

「そんな感じしないんだけど……」


 ちょっと拗ねてしまったユウトの頭を宥めるように撫でる。

 そうしながら、レオは向かいに座るロバートに話を振った。


「でも、今後はさらにユウトがちびっちゃうくらい金額が大きくなることは確かだな。余剰も出てくるだろうし少し出資をしたいんだが、職人ギルド経由で受け付けてくれるか?」

「ち、ちびんないもん……」

「ふふ、もちろん、大歓迎です。どこか希望の出資先が?」

「魔工翁のところだ」


 レオは魔工爺様の腕を昔から知っている。自身で直接王都のパーム工房を訪れたことはないが、ネイにこっそり魔法道具を買いに行かせたことが何回かあった。


 あの頃は色々なアイテムを扱っていたものだが、ザインの店では設備が足りないのか品数がかなり少ない。レオはそれを残念に思っていたのだ。

 隠居の身だからかと思ったが、そういうわけでもないらしい。だったら、魔法道具作成の後押しをしたい。


「魔工翁ですか……あそこを本格的に後押ししようとしたら結構な額になりますが」

「構わん。あそこの品物が一流なのは知っているからな。出し惜しみはしない」

「分かりました、ありがとうございます。とりあえず、魔工翁には職人ギルドから話を通しておきます。……ただ、それをあの方が受けるかどうかはまた別の話でして。できれば、後日直接お話をしていただいた方がいいかもしれません」

「……偏屈な爺さんだからな。分かった、そうする」


 普通は出資話が来ればありがたがるものだが、彼は違うのだろう。

 まあ、そういう頑固なタイプは、レオは嫌いじゃない。

 それに、魔工爺様はユウトもだいぶ気に入ってくれているし、注文に融通の利く取引先として確立しておきたいのだ。


 今後、ランクSSSとして活動するなら、彼の魔法道具は是非とも色々手に入れたい。


「あっちにはいつ頃話を持って行ける?」

「私以外だと相手にされないので、私の予定が空いた時ですね……。ええと、4日後くらいなら行けます。それで大丈夫ですか?」

「ああ、構わない。その後に店に行くことにする」

「よろしくお願いします」


 4日か。その間に、ネイに少し魔工爺様の周辺を探らせよう。

 交渉に有利な情報が手に入れば御の字、何か問題があるなら先回りできるかもしれない。


 レオはそう考えて、今後の算段をするのだった。


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