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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ラフィールに半ギレされる

「魔妖花は一つだけ実を成らした後に枯れてしまうのだが、その実を加工することで花と同じ効果を発揮する。……私はこの実を手に入れるために、ユウト様専用の魔妖花を育てていたのだ」


 ラフィールは次にユウトがガントを訪れるまでに実が付けば良いと思っていたようだが、我々の再来訪が彼の予想以上に早かった。

 その上、ユウトはすでに魔力の匂いを周囲に振りまいていたため、急いで実を付けさせなくてはと考えたらしい。


「魔妖花の実はユウト様の感情や体調に見合った香りを調香する他に、ユウト様の魔力の香りを相殺できる匂いを放つこともできる。……先日来た時に乗っていた馬車に、魔物除けを付けていただろう。あれも同じような原理で、おぬしらの匂いと混ざり合う別の香りを放つことで魔物を惑わせ、遠ざけているのだ」

「あ、もしかしてあの魔物除けがやたら高いのって、魔妖花の実だからなのか! それ、ガントでしか作れないってことだろ?」

「そうだ。あれは汎用性を高くしているから、ユウト様専用のものほど効果はないがな」


 あの魔物除けの効果はすでに実証済みだ。

 それよりもさらにユウト専用に特化した香りを放つ魔妖花の実。

 ならばユウトの魔力の匂い消しにかなり効果が期待できる。


「その骨粉を今晩のうちに施してユウト様の魔力を当ててやれば、おそらく明日の朝には実が成るはず。……どうだ? これでその骨粉の重要性がレオ殿にも分かっただろう」

「それは分かったが……」


 この骨粉を施肥するのが、かなり重要なことは理解した。

 しかし、それをレオがやる意味が分からない。花を愛でる心も植物を育てる興味も持ったことがない男に、そんな大事な作業を丸投げされても困る。


「……骨粉撒くだけならやっぱりあんたがやればいいだろ。俺がやって何か間違いがあったらどうするんだ」

「だから、できるならとうにやっている。だがユウト様が可愛すぎて無理だと言っているだろう」


 ……確かにユウトは可愛すぎる。完全同意だ。

 それを言われると譲歩するしかない。


「ちっ……仕方ねえな、だったら俺が一旦ここに魔妖花の鉢植え持って来てやるよ」

「駄目だ。施肥はユウト様の魔力の影響下でせねばならぬ。強い魔力を当てるためには、その枕元でするのが最善なのだ。……良い匂いで間違いなく可愛らしいユウト様の寝顔を見ながらとか、私では手が震えるしうっかり魔力を漏らす自信がある」

「うっかりお漏らしすな。……ユウトの寝顔が天使なのは確かに間違いないが」


 ラフィールは至極真面目な顔で変態じみたことを言う。

 ……まあ、彼の名誉のためにも、ユウトの匂いにやられているせいだと思っておいてやろう。


「あんたの魔力が漏れると何が問題なんだ?」

「成長中の魔妖花は、他者の魔力が干渉するとその影響を受けてしまうのだ。葉に触れることすら許されない。骨粉に掛けた魔法術式もかなり無理な構築をしたから不安定で、私が吐息を吹きかけただけでも効果が崩れる」

「ああ……だから魔力が皆無の俺が最適なのか」


 こんなところで自分の魔力のなさが役に立つとは。


「そうだ。これは魔法を使わないエルドワやクリスでも、身体に宿る魔力があるから無理なのだ。……正直、レオ殿の体内の魔力のなさは奇跡に近い。どういう経緯でそのような身体になったのかは知らぬが、よくこれまで健やかに育ってこれたものだ」


 そういえばクリスも以前、レオの魔力のなさは死人並みだと言っていた。

 しかしそう言われても、レオにはまるで心当たりがない。自分にそれほど極端に魔力がないと知ったのも最近だし、いつからどんなタイミングでなんて、今更知る由もないのだ。


「まあ、俺のことはどうでもいい。……とりあえず、肥料をやるのが俺にしかできない仕事だというのは理解した」

「そうか、それは良かった。レオ殿なら葉や花に触っても問題ないからな。上手くやってくれ」


 レオが請け合うと、ラフィールは安堵して眉間のしわを解く。

 まるで、この話はこれで解決したといった様子だ。

 だが植物を育てる知識などゼロのレオは、骨粉を手にしたまま首を傾げた。


「おい、それでどうすりゃいいんだ? この骨粉を花の上から振り掛けりゃ良いのか?」

「……は? 何の冗談だ? 花に直接肥料を振り掛ける者なんてこの世に存在しないだろう」

「ここにいるが」


 花付きと実付きの肥料という話だったし、知らなければ同じようにする者は他にもいるに違いない。

 レオがしれっと答えると、ラフィールは信じられないものを見たという表情でしばし言葉を失った。


「ひ、肥料のやり方を知らない者が存在するだと……!? エルフの里でもガントの村でも皆が知っていることだというのに!」

「そりゃ、この辺じゃ生業にしてる奴の方が多いから当然だろうが、王都の街中じゃ知らねえ奴もいる。いいから、間違ったことされたくないならちゃんと説明しろ」

「くっ、植物の恩恵を受けておきながら、何と嘆かわしい……! 今後王都の教育カリキュラムに植物の育て方を導入するように国王様に進言してやる……!」


 半ギレ状態でぶつぶつと文句を言いながら、ラフィールは食堂にあった小さな鉢植えを一つテーブルに持ってきた。

 もちろん魔妖花ではないが、大きさは近い。


 ラフィールは植物の根元近くの葉を持ち上げて、土の部分をレオに示して見せた。


「全く、幼子以外にこの説明をせねばいかんとは……。良いか、肥料はこの土の上に撒く。絶対に茎や根に直接触れさせるな。肥料焼けを起こして、最悪枯れてしまうからな」

「……肥料焼けとは?」

「付着した養分濃度が高すぎて、浸透圧で内側の水分が奪われ細胞が脱水を起こすことだ。もちろん直接触れていなくても土に肥料を与えすぎると同じことが根で起きるが、今回の骨粉は私の魔法で土のバクテリアを活性して溶け込ませた上で、上手く吸い上げられるように作っているから問題ない」


 説明を聞いてもよく分からないが、まあいい。

 とりあえず茎や根に掛からないように気を付けて土の上に骨粉を撒けばいいようだ。


「肥料を撒いた後はそのままでいいのか?」

「撒いた骨粉が土に吸収されたら、そこに吸わせるようにじょうろでたっぷり水をやってくれ。鉢の内側にまんべんなく掛けて、鉢底から受け皿に水が流れてくるくらいだ」

「分かった。じょうろはどこにある?」

「二階に上がる階段下に用意してある。水も入っているからそのまま持って行け」


 工程としてはそれだけらしい。

 気を付けるべきことはあるが、思ったよりも簡単だ。

 レオは少し安堵して、小瓶を部屋着のポケットにしまった。


「できれば、エルドワは今晩ユウト様のそばに置かぬようにしてくれ。万が一にも魔力が干渉しないようにな」

「ああ」


 今日だけはエルドワはレオのベッドに置くしかないだろう。

 嫌な顔はするだろうが、あれは聞き分けの良い子犬だ。問題ない。


 レオが頷くと、ラフィールは今度こそこの話を終わらせた。


「では、次の話だが」


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