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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、ネイが認知できない

 クリスの拠点には、もう竜人二人のための部屋ができている。

 もはやジラックの内部で工作できることもないし、キイとクウにはエルダールに戻って戦力になってもらった方が断然いい。


 そしてジラックから彼らを引き上げさせるなら、双方の事情を知っているネイが適任。

 この男なら、多少の情報収集も期待できる。


「そうですね。もう二人がジラックに留まる必要はないですし、いつまでも治安の悪いところに置いておくのも可哀想ですもんね。……ついでに、ウィルとリーデンの情報もちょっと漁ってきます」

「ああ」


 こちらが指示しなくても、こいつには欲しい情報が分かっているのだ。

 自分からそう申し出たネイに、レオは軽く頷いて付け足した。


「ついでに、可能なら住民たちに小さな噂をまいてこい。ほんの一人二人にでいい」

「噂? ……あー、もしかしてイムカ殿のこと?」

「そうだ」


 そろそろ、このあたりも手回しをしていい頃合いだ。


 逃げ場も寄る辺もなく、現領主からの弾圧やひどい扱いに絶望し、無気力になっている住民たち。

 このままでは、その支配下でいいように煽動されてしまう。


 しかしそこに、イムカ生存の噂を流せばどうなるか。

 希望を見いだし、現領主に対する反骨心が生まれ、兄弟が相対する時に必ず内応する者が出る。

 それが狙いだ。


「Xデーまで隠しておいてもいいが、それだと住民側に心の準備ができない。情報が遅れればジラック側の煽動に乗ってしまうものも出てくる。……ほんの僅かでも希望の芽を植えておけば、おそらく流れは変わってくるだろう」

「そうですね。気概のある者は秘密裏に団結して動くかもしれないですし……ちょっと良さそうな人間を見繕って、情報を漏らしてきます」


 しばらくジラックで動いていたネイは、すでにその噂を告げる候補者にあたりを付けているようだった。

 ならばそちらはもう問題はない。


「ところでレオさん、キイとクウを連れ帰って来ても、クリスが不在じゃ拠点に鍵掛かってて入れないんじゃ?」

「平気だ。早めに帰ってくるつもりだし、一応拠点にはアシュレイを留守番で置いていく」

「……あれ、リインデルには馬車で行くんじゃないんですか?」

「馬車だとどうしても日数が掛かるからな。一度ガントに飛んで、そこからリインデルまでは歩く」


 馬車だとガントに行くにはジラックを迂回しなくてはいけない。往復するにはさらに倍の時間が必要で、それならリインデルまで歩いた方が早いのだ。


 ガントからリインデルまでは丸一日。そこからは転移魔石で戻って来れることを考えれば、こちらの方が時間の節約になる。

 そう言うと、向かいで話を聞いていたユウトが目を瞬かせた。


「そっか、アシュレイは置いていくんだ。村から村まで歩くなんて、久しぶりだね」

「そうだな。疲れたらおぶってやるから、遠慮なく言え」

「平気だよ、もえすで作ってもらったブーツのおかげで疲れ知らずだもん。エルドワ、疲れたら僕が抱っこしてあげるね」

「アアン? アン、アンアン!」


 ユウトの言に、膝に乗っていたエルドワが不服げに鳴く。

 それを苦笑したネイが代弁した。


「エルドワはどっちかって言うと、ユウトくんのこと背中に乗せて運びたいんじゃない?」

「アン」


 どうやらユウトが疲れたら、レオとエルドワで取り合いになりそうだ。

 まあ、ユウトは自分から疲れたなんて弱音を吐くような子ではないけれど。


「さて、とりあえずアシュレイが残ってるなら問題ないですね。俺は早速ジラックに飛ぼうかな。……キイとクウ、転移魔石は?」

「おそらく持ってないから貸してやれ。あいつらは人間にくっついて飛べるタイプの半魔じゃないからな。……二人ともパームとロジーの工房で働いてたから、転移自体は問題ないはずだ」

「なるほど、OKっす」


 ネイは途中になっているラスクの欠片を口に押し込むと、立ち上がってポーチから取り出したマントをまとった。

 隠密で使う、周囲からの認知を著しく阻害するマントだ。


 普段はこんなものに頼らないネイだが、やはりジラック入りはこの男でも慎重になるらしい。


「……あれ? ネイさん、消えた?」

「いや、消えてないんだけどね。ユウトくんは認知できないか。でも気配に敏いひとにはバレちゃうんだよな~。うお、エルドワ、超こっち見てる」

「あ、声は聞こえるんですね。レオ兄さんとエルドワは見えるんだ」

「何を言う。俺はユウトしか見てない」

「いや、そういう話じゃないんだけど。……まあいいや、ネイさん、気を付けて行ってきて下さいね」


 認知できないせいで、ユウトがズレたところを見ながらネイに声を掛けているのが可愛い。

 ネイもそれを見てほっこりしている。


「ユウトくんには尖った感覚がなくて安心するなあ」

「ええ……鈍感ってことですか?」

「違う違う。癒やし力って言うか……。これは尖った俺たちだからこそ分かる感覚かもなあ」

「分かる」

「アン」

「……僕にはよく分かんないんですけど」


 レオとエルドワにも同意されて、ユウトは首を傾げている。

 まあ、本人にはなかなか理解しがたいだろう。


 普段他人の策の裏を掻き、隠れた悪意を暴こうと腹の探り合いばかりして、感覚を尖らせているレオたち。

 しかし、この柔らかな空気を持つ弟の前では、そうして尖っている必要が一切なくなるのだ。ユウトの周りは、普通に息が吸える場所。


 それがどれだけありがたく、護りたいものなのか。

 伝えたところで、ユウトにとってはやはり『よく分かんない』ことなのに違いない。


「じゃあ俺はこのままジラックに飛びますね。リインデルも何があるか分かりませんから、そちらも用心して下さい」

「まあ、クリスもいるし、こっちは三日以内には戻れるだろ」

「……クッソ! レオさんのクリスに対する信頼感に嫉妬!」

「うるせえ、とっとと行け」


 歯がみするネイを追い立てて、その姿が消えるのを見送るとレオも立ち上がる。

 それにユウトがぱちりと目を瞬かせた。


「あれ? ネイさん行っちゃった?」

「ああ、行った。俺たちも準備するぞ。昼になったらクリスが来る」


 遅い朝食だったため、昼までそれほど時間がないのだ。

 部屋着から着替えて、徒歩旅用の必要道具をポーチに詰めないといけない。


「僕も何か準備した方がいい?」

「劣化防止BOXに三日分+αの食材を詰めてくれ。お前の好きなものでいい」

「分かった。お水は?」

「エルドワ用含めて水筒三つあれば、後は携帯キッチンから水が出るから問題ない。クリスも自前で用意してるだろうしな」


 最近は馬車に全て積んでいるし寝泊まりも荷台だったから、こんなのは久しぶりだ。

 ユウトもどこか楽しそうに準備をしている。


 ハイキングと言うにはちょっと物騒な場所だけれど、その道程だけでも多少の気分転換になればいい。

 そう考えながら、レオは二人用のテントや寝袋をポーチに入れた。


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