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弟、ネイの正体を聞く

 レオはリリア亭に、門限のぎりぎりで帰ってきた。

 まだ部屋で起きていたユウトは、ドアベルでその帰宅を知って、扉を開けて兄を出迎えた。


「お帰り、レオ兄さん」

「ただいま」


 レオは自身の部屋には行かず、そのままユウトの部屋に入ってくる。そして手袋と剣を外して傍らに置くと、椅子に座った。

 何だか少し疲れて見える。

 今日は剣を注文しに『もえす』まで行くと言っていたから、そのせいだろうか。


「ミワさんに剣お願いしてきたの?」

「ああ。3日でできると言ってたから、またその時取りに行く」

「ってことは、それまでは討伐系クエストはお預けだね」

「ランクC程度なら、俺が手を出さなくてもユウトひとりで大丈夫だと思うがな。もちろん同行はするが」

「そっか。ふふ、じゃあもし危なくなったら剣を持たない兄さんは僕が守ってあげないとね?」


 兄の向かいに座り、両手で頬杖をついて微笑む。

 もちろん、レオは剣がないくらいでユウトより弱くなるわけがないが、それでも弟の魔法を認めてくれているのだと思えばちょっと強気に出たくなる。


 いつもと逆転した立場にレオも笑って、ユウトの頭をふわふわと撫でた。


「ああ、頼りにしてる。この間のワイバーン戦でも、上手く魔力を使えてたしな」

「杖なしでの魔力の制御も、だいぶ慣れてきたよ。それでも大きな魔力を使うのはまだ怖いけど……。だけどミドルスティックも卒業できたし、もっと頑張るね」


 実はランクS魔物の討伐を終えた翌日、ユウトはレオから新しい杖を買い与えられていた。

 今度は教材用じゃない、普通の杖だ。

 ……いや、普通と言ったら少し違うか。治癒と補助魔法に特化した杖だ。魔石がいくつも付いていて、かなりお高い。


 例のごとく魔工爺様の店で買ったのだが、『この杖は扱いが難しい』と言いながらも問題なくユウトに売ってくれたから、頑張れば多分使いこなせるようになるだろう。


「言っておくが、その杖は攻撃力ほぼないからな」

「へ? そうなの? それじゃレオ兄さんと二人で丸腰で討伐行くようなものじゃないの?」

「一緒に買った指輪があるだろう。今後はそっちを攻撃に使う」

「指輪……これ?」


 やはり魔工爺様のところで兄に買ってもらった、きれいな指輪を目の前にかざす。小さな魔石を埋め込んだ土台の金属に、文字らしきものが掘られた指輪だ。それはレオの指示で、右手の人差し指にはめられていた。


「指輪はまた杖と違った面白い使い方ができる。そうだな、やり方は今度討伐依頼を受けた時に教えてやる」

「面白い使い方かあ。それは楽しみ」


 先日のワイバーン戦も、魔力の使い方と戦い方を工夫することでレオの力になれた。成せることが増えていく、それが嬉しい。

 日々の試行錯誤により裏付けられた自信は、高ランクの魔物を前にしても揺るがなかった。あの時物怖じせずに戦えたのは、兄の教育の賜物だ。


 これなら、今後も来るだろうライネルからの高ランク討伐依頼も怖くない。


「そうだ、レオ兄さん。今後は、ランクSSSパーティとしての討伐に、ちゃんと僕を連れて行ってくれるよね?」


 ふと、ワイバーン戦に行く前にやたらとレオに同行を渋られたことを思い出した。

 せっかく頑張って魔法を磨いているのに、置いて行かれたら悲しすぎる。


 覗うように小首を傾げて訊くと、兄は苦笑しつつまた弟の頭を撫でた。


「次からは連れて行く。お前の魔法は頼りになるし、今後はユウトに護衛を付けられるからな」

「……護衛?」


 2人だけで行くと思っていた今後の討伐に、3人目の存在を告げられてユウトは目をぱちくりと瞬いた。一体誰だろう。依頼はかなり高ランクの魔物討伐がメイン、それに同行できる実力者。全く心当たりがない。


「僕の護衛って、誰?」

「……お前の知ってる、ネイという男だ」

「え!? ネイさん!? 感謝大祭が終わってライネル兄様たちと王都に戻ったんじゃないの?」


 ネイがライネルの部下だと知ったのは祭り最終日、その後全く会っていなかったから、てっきりもうザインにはいないと思っていた。

 その彼が、ランクSSSパーティに同行する。つまりそれだけの強さを持っているということだ。


 おまけに、レオがユウトの護りを他人に任せるというのだから、ネイの実力は相当なものだろう。全然気付かなかった。


「あいつは兄貴の部下を辞めた。今は無職だ」

「えええ、どうして?」

「さあな。あいつの思考回路は分からん」

「そっか……まあでも、知らない人よりずっといいや。ネイさん優しいから好き」

「…………何だと?」


 ユウトの言葉に、何故かレオがすごく嫌そうな顔をしている。


「兄貴のところに俺を呼び出すために、お前を人質にした男だぞ」

「兄弟の仲を取り持ってくれたんでしょ? 別に僕は何も嫌なことされてないし、気にしてないけど」

「いや、気にしろ。あいつは性格が悪くてドSでドMの変態だ。お前が好きになる要素は何もない」

「……どうしたの、レオ兄さんがそんなこと言うなんて珍しい」


 良くも悪くも他人に興味のないレオが、こんなに悪し様に言うのは滅多にないことだ。不思議に思って首を傾げる。


「俺の大事な大事な可愛い弟が、あんなウザい変態に懐くなんて我慢できん……!」


 よく分からない憤りだ。

 ユウトとしては、ネイのウザいところも変態なところも見たことがないから、ピンとこない。


 とりあえず分かるのは、それだけ嫌がる相手なのに、レオはその実力を買っている……ネイはかなり有能だということだ。

 そんな人がついてきてくれるなんて頼もしい。


「レオ兄さんとネイさんって、元々の知り合いなの?」

「……知り合いというか、付きまとわれていたというか……。そもそもあいつは昔、親父に金で雇われて、俺の命を狙っていた刺客だったんだよ」

「ふえ!? 刺客!?」


 それならあまり関係性が良くないのも納得がいく……気がするが、そんなネイがどうしてユウトの護衛を受けるんだろう。余計にわけが分からない。


「最初に言っておいた方がいいか。あの男……今はネイと名乗っているが、本当の名前はカズサだ。昔は名うての暗殺者だった」

「ネイさんが暗殺者!? 名前も違うの……?」

「まあ、名前はネイで覚えておいていい。今の活動ではその名前で通しているようだからな。……実力は折り紙付き、冒険者で言えば、あいつひとりでランクSSくらいに相当する」

「……ネイさんってそんなに強いんだ」

「そうでなきゃ、お前の護衛なんて任せない」


 レオはそう言って、背もたれに身体を預け、腕を組んだ。


「その強さを持つ暗殺者だったあいつを、数多の有力者が自分の傘下に招こうとした。しかしあいつは気ままで、その時の気分や金払いで仕事を選んでてな。有力者たちは、自分が暗殺対象に選ばれないよう、ずいぶんあいつの顔色を覗っていた」

「……いつ、誰の依頼を受けて殺されるか分かんないもんね」

「そうだな。……そんな中、あいつは親父からの息子暗殺依頼を受けた。相手にするのが弱い人間ばかりで辟易していたから、最強と言われる『剣聖』と本気の殺し合いをしてみたかった、と言ってたな」

「今のネイさんから想像がつかない……」


 ユウトの前でのネイは、暴力的なところもなく、頼りになる大人だった。けれどそういう一面もあるのか。


「それで結果は? もちろん兄さんが勝ったんだろうけど」

「そりゃもう、ボコスコに返り討ちにしてやった。そしたらドMの変態ができあがってた」


 話が終わった。


「……ん? 待って、展開が早すぎてよく分かんない」

「俺もよく分からん。何か、自分をボッコボコにする存在がいることに感動したらしい。それ以来、あいつは暗殺業ほったらかしで俺に付きまとってた。今も進んでボコられに来るので困っている」

「……変態なの?」

「変態だな」


 ……そういう一面もあるのか……。聞かなきゃ良かった……。


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