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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】アレオン、対価の宝箱を使う

 チビたちが囚われている檻に近付いて、入り口らしきものがないかとぐるりと一周する。


 しかしそれらしいものは見当たらず、腕を組んだアレオンはしばし考え込んだ。


(ここで時間を掛けることはできない……。兄貴がジアレイスを呼び出してくれたとはいえ、宣戦布告を終えれば戦闘は半魔と研究員に任せて奴は地下に戻ってくるだろう)


 もう他に手立てはない。

 アレオンは覚悟を決めた。


(対価の宝箱……)


 これを最後と考えつつ、意識をそれに向ける。

 すると瞬きを一つした間に、視線の先の壁際に宝箱が現れた。

 さっき小部屋で見付けたものと色違い、白地に黒の金具の宝箱だ。


(まだ、全然白い。大丈夫だ……)


 自分にそう弁解し、すぐに駆け寄ると蓋を開ける。

 チビたちを救い出すためには、躊躇っている暇はないのだ。


「お久しぶりです、アレオン様。そろそろお呼び下さると思っていましたわ。何なりとお望みを」


 これもさっき見たのと同じ顔の妖精もどき。

 やはりアレオンの宝箱もジアレイスの宝箱も、同じこの妖精もどきの管理下なのだろうか。だとすると、この魔法の檻がどういうものなのか分かっているはずだが。


「……そこにある魔法の檻を解除して、中にいる者を救い出したい」

「かしこまりました。相応の対価をいただければ、必ず願いを叶えて差し上げられます」


 その言葉に、アレオンは少々違和感を覚えて眉を顰めた。

 もちろん叶えてくれるというのだから問題ないが、それは矛盾ではなかろうか。


「……おい、この檻もジアレイスが対価を払って用意したものだろう? 俺がそれを解除したら、奴の願いは叶わなかったことになる。……もしかして、お前らの『必ず』願いを叶えるっていうのは嘘っぱちなのか?」


 怪訝に思ってそう訊ねると、妖精もどきはふわふわと優雅に首を振った。


「いいえ。もうすでにあちらの願いは叶っています。この檻は『半魔を閉じ込めて魔力を吸い上げる檻が欲しい』という要望からお出ししたもの……。ですから、閉じ込めて魔力を吸い上げた時点で願いは叶ったのです。魔力を吸い尽くして半魔が気を失うまで、とは請われておりませんから」

「はっ、だからもうそれを覆してもOKってか」


 もはや詭弁に近いが、そうやって付け入る隙を与える望み方をする方が浅はかだということか。

 こうして望みを覆して、それを取り返すために再び宝箱と取引をさせる、まさに悪徳商法のようだ。アレオンとの対立構図を作ったのもこのためなのだろう。


 それに乗っかるのは甚だ不愉快だが、対価の宝箱がないとこの状況を覆すことすらできないのも事実。

 ジアレイスとも取引していることを隠しもしないのは、知った上でもアレオンが宝箱に頼るしかないことを分かっているからだ。


 アレオンは一つ大きな舌打ちをして、本題に戻った。


「あの檻を解除して、中にいるチビたちを無傷で救い出したい。今すぐだ」

「かしこまりました。では対価として、チビ様が大事になさっている『ウサギのぬいぐるみ』を宝箱にお入れ下さい」

「……っ、ウサギ……」


 代償として提示されたものに、思わず後込みする。

 アレオン自身のものなら何でも差し出すが、それがチビのものとなると話が違う。それが、チビの代わりとして委ねられ、あちこちに持ち歩いたものならなおさらだ。


 初めてアレオンがチビにあげたもので、だからこそあの子どもがとても気に入って大切にしていることを知っている。


(その人物にとって大事なものを対価として取り上げる宝箱……全く、性格の悪ぃ……)


 アレオンにとって執着するものはチビだけだ。だからこそ、あの子が大事にするものはアレオンだって大事にしてやりたい。

 ……あのウサギのぬいぐるみを勝手に手放したと知ったら、チビはどれだけ悲しむだろう。


(……だが、迷っている時間はない)


 とても心苦しいけれど、背に腹は替えられない。

 結局チビを失うことが何よりも恐ろしいアレオンは、ポーチからウサギのぬいぐるみを取りだした。


「……これを対価に、アイテムを……」

「ではそれを宝箱に入れて、蓋を閉めて下さい」


 これは仕方のないことなのだと自分に言い聞かせて、アレオンは宝箱の蓋を閉めた。

 それを妖精もどきがコンコンと叩くと、ふわっと宝箱が光る。

 途端に、アイテムを期待してアレオンの愁眉が開いた。


 宝箱が光った後の色の変化になど気が行かない。

 急いたように蓋を開けたアレオンは、そこに両手を差し込んで、恭しくアイテムを持ち上げた。

 まるでさっき隠れて見ていたジアレイスと同じように。


 そのことに、アレオン本人は気付くことはなかったけれど。


「これが、魔法の檻を解除するアイテム……。どうやって使うんだ?」


 アレオンの手中には、水晶玉のようなものがあった。魔力がこもっているのか、中に白い靄が渦巻いている。

 落としたら割れてしまいそうだ。


「それを、魔法の檻に向かって投げつけます。アレオン様は魔法を使えませんので、これが手っ取り早いかと」

「投げつけるとどうなる?」

「そもそも魔法の檻がチビ様たちを閉じ込めてから時間を掛けて魔力を吸い上げているのは、あの方々が檻の吸魔キャパシティを超える量の魔力をお持ちだからです。つまり、それ以上大きな魔力を吸うと、過剰魔力によって檻自体の術式回路がオーバーフローし、制御しきれず壊れてしまうんです」

「……なるほど。その術式回路を壊すために、この魔力を流し込んでオーバーフローさせてやるということだな」


 とても分かりやすい。

 そして、このアイテムによる望みは必ず叶うのだから、もうチビたちの解放は約束されたようなものだ。

 アレオンは魔力の玉を持って、宝箱に向かって屈んでいた身体を起こした。


「……蓋閉めるぞ」

「はい、アレオン様。またのご利用をお待ちしております」

「……何かあったらな」


 今、この場で宝箱を壊す気分にはなれない。

 アレオンは次の『万が一』のために、やはり対価の宝箱は必要だと自分に言い訳をする。

 もはや、チビのウサギのぬいぐるみを対価に差し出した事への葛藤や罪悪感は薄れていた。


 対価の宝箱の蓋を閉めて、アレオンはそのまま檻へ向かう。

 そして玉を振りかぶると、躊躇うことなく魔法の檻の側面に向かって投げつけた。


 パリン、と玉が割れた瞬間に爆発が起こり、魔力でできた檻の外壁を吹き飛ばす。次いで過剰供給された魔力に術式回路が暴走して、骨組みからバリバリと稲妻のような魔力放出が起きた。

 さらに行き場を失った魔力によって渦巻いた風が、その空間を強くかき回す。


「くっ……チビ!」


 アレオンでも踏ん張っていないと飛ばされそうな風。

 おそらくその中心にいるチビたちはそれほど影響は受けていないだろうが、だからといって手元に取り戻すまでは安心もできないのだ。


 その強風が落ち着くのを待たず、アレオンは外壁が崩れた檻の中に飛び込んだ。


「ア……アレオン様」

「……アレオン様が助けて下さったのですね」


 吹き荒ぶ風の中、まず視界に捕らえたのは寄り添うキイとクウ。

 そしてその二人に庇われていたのだろう、向かい合う竜人の隙間からチビが顔を出した。


「……お兄ちゃん」

「チビ!」


 アレオンはすぐに駆け寄り、膝をついて子どもを腕の中に収める。

 その小さな身体を確かめるように背中を撫でて、それから安堵のため息を漏らした。


(良かった……怪我などはなさそうだ)


 突然目の前から取り上げられた宝物を、ようやく取り戻した。

 ここから脱出するまではまだ気を抜けないが、それでも心の余裕はだいぶ違う。


 アレオンはチビを腕に抱きながら、キイとクウを見た。


「よくやってくれたな、二人とも。防衛術式を崩し、チビを護ってくれたこと、礼を言う」

「いえ、結局チビ様もろともジアレイスたちに捕まってしまいましたし」

「良いんだ。チビだけ引き離されてどこかに連れて行かれるよりずっとマシだった。……さて、魔力はどうだ? まだ動けるか?」


 檻を解除できたとなれば、ここでうかうかしてはいられない。

 チビを抱えたまま立ち上がったアレオンは、竜人二人に訊ねた。


「魔力的にはどうにかなりますが、まだ地下にはキイたちの力を抑制する結界が張られています」

「クウたちが一緒だと、返ってアレオン様の足手まといになるかもしれません」

「……そうか、あの結界があると、戦うどころかこの地下からの脱出自体が不可能か……」


 それはキイとクウだけでなく、チビも同じこと。

 この結界をどうにかしないと話にならない。


「一応、狐にこの結界を解くアイテムを探しに行かせているんだが……。あ? そういえば、そもそも兄貴たちがジアレイスを呼び出したのって……」


 そう呟いた時、入り口の方から絶妙なタイミングで知った男の気配が近付いてきた。


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