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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】アレオン、魔研内部に突入する

 炎と氷のブレスが魔研の一階で炸裂する。

 キイとクウは魔道具による攻撃を受けているようだが、そのスピードを緩めることはない。


 二人は、地下にチビがいることを知っているのかもしれなかった。


「キイとクウ、地下におチビちゃんがいることに気付く前に、ブレス攻撃に巻き込んだりしませんかね?」

「平気だろう。さっきチャラ男がチビの魔力を感知できたように、同じ建物内にいるなら二人もチビの存在に勘付いている可能性が高い」


 魔研の研究員から竜人たちへの攻撃は、奴らにとって皮肉なことに、防衛術式のおかげで大きなダメージにはならない。

 これはキイとクウに有利に働く。


 元々ドラゴンは魔法防御も物理防御も高いハイランクの種族なのだから、威力の弱まった魔道具ごときで止められるわけがないのだ。


「問題は、防衛術式が解けてからだ。高出力の魔道具も使えるようになるし、即死系の魔法も効くようになる。逃げ出す前に閉じ込められたりしても厄介だ」

「あー、そうですね……。殺されるよりそっちの方がありそうかな。さっきあいつら、おチビちゃんやキイクウを『使う予定』があるって言ってましたし。生かしたまま閉じ込めようとするかも」

「ああ。だから、防衛術式が解けたらすぐにチビたちを探しに行くぞ」


 とりあえずキイとクウが暴れているおかげで、魔研のこちらへの意識は完全に逸れている。


 まさかここにいるアレオンたちと、竜人二人が繋がっているなどと思ってもいないはずだ。

 こっそりと侵入すれば、自分たちがいなくなったことを魔研の奴らは不可解に思うだろうが、わざわざ人員を割いて探したりはすまい。

 代わりに、特殊なアイテムを使って新たな防衛術式を張る可能性はあるけれど。


「ジアレイスは魔法のある俺たちが魔研に侵入する理由がないと思っているだろう。それに万が一侵入されても、行くなら親父の方だと考えているはずだ。俺たちがいなくなってもそれほど気にはしないだろうから、見つかりさえしなければ多少自由に動ける。後はチビたちがちゃんと脱出できたなら魔研をぶっ壊せば良いし、捕まっていたら助け出せば良い」

「そうですね、分かりました。……あと数時間すればライネル殿下たちも到着するでしょうから、それまでに魔研側はどうにかしたいとこですね」

「ああ」


 アレオンはカズサの言葉に頷いて、魔研の中の様子を窺った。


 すでに喧噪は地下へと移り、焦燥のこもった怒鳴り声はするものの意味を成す言葉は聞こえてこない。

 しかし研究員たちの焦る声が聞こえるということは、つまりキイとクウが上手くやっているということだ。


 アレオンとカズサはこっそりと、建物の窓の死角にある裏の通用口へ回った。


「……防衛術式が解けたらすぐにこの扉の鍵を開けられるか?」

「もちろんです。隠密はこっちが本業みたいなものですからね」


 すでにカズサの手には解錠用の盗賊のピックが握られている。忍び込む気満々だ。


「キイとクウは術式の知識もある。地下の術式管理部屋に到達できれば、間違いなく防衛術式を崩してくれるはずだ。その瞬間を逃すな」

「了解です」


 そこからは二人とも黙り込み、その時を待つ。

 魔法の膜が見えているわけではないけれど、これだけ建物への負荷が掛かっている分、防御術式が消えた途端にどこかに必ずほころびが出るはずなのだ。それを見逃さぬよう気を配る。


 そうして待っていると、不意に爆音と共に建物が震撼し、その壁面からぱらぱらと小さなクズ石が落ちてきた。


「狐」

「はいはいっと」


 即座にカズサが動く。

 手早くピックを鍵穴に差し込むと、ものの10秒ほどで扉は開いてしまった。


「よし、防衛術式は切れているな。侵入するぞ」

「了解です」


 今まで防衛術式で守られていたせいで、そのほかのセキュリティはほぼないと言っていい。

 罠に気を配る必要はなく、アレオンたちはすぐに内部に侵入した。


「殿下、階下から研究員が来ます」

「分かっている」


 気は急くが、とりあえずチビと竜人二人を脱出させるまでは姿を見られたくない。

 研究員が近くを通るたびに物陰に隠れつつ、アレオンとカズサはじわじわと地下に向かって進んだ。


「くっそ、今まで普通に使役できていたのに、どうしたって言うんだ、あのドラゴンども!」

「管理№12の魔力にあてられたのかもしれないな。だが所長がブレスも抑制できる防衛結界を作るアイテムを持って行ったから平気だろう」


 通りがかりの研究員がそんな話をしながら足早に去って行く。

 それを聞いたアレオンとカズサは、思わず動きを止めた。


「……ジアレイスの奴、対価の宝箱を使ったな」

「ですね。そんなご都合主義のアイテム、一から組まないと普通にはありませんもん」

「……どういう望み方をして出したアイテムだろうな。防衛、ブレス封じ、あとは彼らを逃がしたくないなら、結界を通り抜けられないようにしているか」

「ブレスを封じても力で来られたら魔研の連中では対応しきれないでしょうし、無力化も考えているかも」


 それらを一つのアイテムでカバーしようとすると、支払いにはだいぶ手放しがたい大きな対価が必要になったはずだ。

 しかしジアレイスは、この短時間でその対価を準備できていた。


 おそらくは支払えるだけの対価になるよう、望みのどこかを妥協しているのだ。そうでなければ物にも金にも執着心が強いジアレイスが、こんなに素早く対応できるわけがない。


 そしてきっとそれこそが、アレオンたちが付け入る隙になるはず。


 二人は物陰から出ると、再び静かに進んだ。


「……地下から音がしなくなりましたね」

「ジアレイスが防衛術式のアイテムを使ったのかもしれん。……だが、この建物に防衛術式が掛かった感じがしないな」


 防衛術式は魔研にとって守りの要。

 外に敵がいて魔法を唱えようとしているとなれば、何を置いても防衛術式は掛けたいはず。だが、未だに魔研の壁からは石塊がころころと落ちてきている。


 それを見ながら、カズサが思案を巡らせた。


「術式を掛ける範囲を最小限にしたのでは? さっきから研究員たちが皆、重要そうな研究機材を持って地下に向かっています。建物の地上部分は置いといて、地下だけ守ることにしたのかも」

「ああ、可能性はあるな。……しかしそうなると、居住棟にいる親父たちは見捨てるのか」

「そういうわけじゃないでしょ。自分たちだけ絶対安全な地下にいて、上は上で残った半魔を使ったりして防衛するってことで、陛下たちを守ること自体を放棄したわけじゃないと思いますよ」


 だったら国王も地下に避難させるべきなのだろうが、それができないのがジアレイスだ。

 父王たちを地下に避難させるということは、防衛術式が破壊されたことを報告しなくてはいけないということ。それは当然ジアレイスの失態となる。


 プライドが高いこの男には我慢ならないだろうし、小心者の父王の怒りを買って地位を剥奪される可能性もあるとなれば、報告などせずに事を済ませたいと考えているに違いないのだ。


 ……それにおそらくだが、対価の宝箱のせいで、ジアレイスの中での父王の重要性が薄れてきているというのもある。


「けっ。残った半魔を俺たちにけしかけたところで、どうにかなるわけねえだろ。……まあ、俺たち自体が姿を消したわけだから、そのお粗末な対応が親父たちにバレずに済んでほっとしてるだろうが」

「でもま、おかげで何も知らない陛下とその部隊が無防備状態でぼーっとライネル殿下の到着を待ってくれるんですから、悪くないでしょ」

「……まあな」


 もはや、父王の討伐の方は何の心配もない。

 問題はこの地下で、チビと竜人たちがどうなっているかだ。


 アレオンたちは地下に向かう研究員たちの目に触れないように気を付けながら、ようやく下り階段に到達した。


「……今回は詠唱術式じゃなく、結界と言っていたな。あの階段の両脇にある魔鉱石付きのアンカーピンが結界範囲の目印か。引き抜いたら解除できないのか?」

「危ないからやめて下さい。魔力が逆流して下手したら死にますよ。結界を解除するには相殺するアイテムを使うか、解除コードを入力して外すくらいしか方法がないんです。……高ランクゲートの入り口にある結界なんかは時々中から破られることがありますけど、あれは結界が経年劣化した上で、内側から結界を遙かに凌駕する魔力でこじ開けられたからです。今回は当てはまりませんから、おチビちゃんやキイクウに無理に開けさせようとかしないで下さいね」


 どうやら力尽くで結界を破ることは難しいようだ。

 となると解除コードを手に入れるか、相殺アイテムを手に入れるかの二択。


「まあ、それは追々考えましょうよ。どうやらあの結界、研究員が普通にすり抜けているところを見ると、個人の識別はしていないようです。多分俺たちも入れますよ」

「識別をしていない? それじゃ意味がない……いや、そうでもないか。人間は通れて半魔を通さないようにしているんだな?」


 そう思い至ったアレオンに、カズサは頷いた。


「おそらくそうだと思います。設定が細かくなればなるほど設置に時間が掛かりますから、今回はかなり簡略化されたものじゃないかな」

「となるとこの結界は魔法の遮断と、半魔の行動を抑制することに特化している感じか……」


 とりあえず、突入してチビたちを見付けるところまではどうにかなりそうだが、そこから彼らの力があてにならないとなると、脱出が難しそうだ。


 アレオンはしばしあれこれと思案して、それからカズサを見た。


「……ここから先は、俺一人で行く」

「え? 何ですかここまで来て」

「結界は内部から破れないんだろう? だったら貴様が外に残って、俺がチビたちを助け出す間にどうにかして結界を消せ」

「うわっ、無茶言う~」


 いきなり無理難題を突きつけたアレオンに、カズサが頭を抱える。

 しかしアレオンはそんなこと気にしない。


「結界内から出れないんじゃ一人で行っても二人で行っても同じだ。解除コードをジアレイスから手に入れるのはほぼ不可能だし、結界を解除できるアイテムとやらをどこかから調達してこい」

「結界を解除するアイテムって言っても、相殺する内容によって千差万別で一朝一夕には……あ」


 文句を言おうとしたらしいカズサが、ふと何かがひらめいたように言葉を止めた。

 ふむふむとひとりで納得した様子で頷く。


「そうだ、あれを使えばもしかして……。分かりました、俺はちょっとアイテム調達に行ってきます」

「何か思い当たるものがあったのか?」

「使えるか分かんないけど、一応。ザインに飛んで、魔工翁にも少し相談してみようかと思います」

「ああ、そうか。あの爺さんなら魔道具のエキスパートだ。何か良い案をくれるかもしれん」


 今は使える伝手は何でも使って状況打開をしたいところ。

 それが信頼できる職人なら、是非とも手を借りたい。


「できるだけ早く戻ります。殿下、無茶しないで下さいね」

「分かったからとっとと行け」


 釘を刺すカズサを適当にいなして見送る。

 無茶をするかしないかは状況次第だ。聞きはするが、約束はできない。


 そして一人になったアレオンは、さっそく気配を殺して結界の中に飛び込んだ。


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