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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】チビが羽を取り戻した?

「チャラ男くん、王都に戻る前に現状をもうちょっと教えてくれる? 忍び込めそうな術式の穴なんかないかな」

「この辺り一帯の魔術の流れを探ったけど、穴はねえっす。普通の場所なら地下に穴掘って行けたりすることもあんだけど、ここの地下ってランクSSSゲートっしょ? 途中で空間がねじ曲げられちゃうんだよね」

「やはり正面から行くしかないのか」


 元々そのつもりではあったけれど、その方法が問題だ。

 多少の攻撃では奴らの行動を引き起こすことはできない。


「正面は物理と魔術の防衛術式がダブルで掛かってるから大変っすよ?」

「なら、せめて魔術の守りが薄いところはないか? 攻撃されると魔研が慌てそうな」

「ん~……あ、だったらあそこがいいかも。扉じゃないけど、別にそこからどうにか侵入しようってわけじゃねーんしょ? 揺さぶるだけなら十分行けんじゃねーかな」


 そう言うと、チャラ男は研究棟と居住棟をつなぐ、二階付近にある渡り廊下を指差した。


「あそこ、二つの棟の術式の繋ぎ目なんで、守りが不安定なんすよ。それなりにデカい魔力をぶつければ、建物自体に衝撃を与えるくらいならできるっしょ」

「魔力かあ~。チャラ男くん、物理じゃ無理?」

「物理じゃどうにか一部が崩れるくらいで大した衝撃になんねーっすよ? 魔力は術式に伝播して建物全体を揺らすから、中にいる奴らを慌てさせんなら断然こっちじゃん?」

「まあそうなんだけど」


 カズサは肩を竦めた。

 あいにくアレオンもカズサも物理特化の人間だ。それなりにデカい魔力というやつをひり出すことなど不可能。


「チャラ男くんに、武器に属性エンチャント掛けてもらうんでも無理?」

「ざんねーん。そもそも俺の魔力じゃ無理っす」

「マジか。……どうします、アレオン殿下?」


 一度拠点に戻って魔法系のアイテムを取ってこようとでも考えているのか、カズサがアレオンの指示を仰いだ。


「問題ない」


 しかしアレオンの手元には、すでにちょうどいいものがある。

 カズサにそう返すと、アレオンはポーチからひとつの上魔石を取りだした。


「前にチビに魔法を込めてもらった上魔石が、一つ残っている。これで十分いけるだろ」

「……おチビちゃんの? おお、それなら絶対いける、間違いなし! つーか、まだ残ってたんですね」

「威力がすごくて一個で十分だったから、余ってたんだ」


 以前帰らずの洞窟に行く時に、チビに込めてもらった魔法の残りの一つだ。中身は同じものだから、魔力量的には問題ない。


「それがアレオン殿下の可愛い子ちゃんの魔力? 殿下、ちょっと借りていいっすか?」

「ああ」


 上魔石をチャラ男に手渡すと、彼はそれを手に握り込んで目を閉じた。

 そしてうんうんと軽く頷く。


「ん。やっぱ、さっき魔研の中に感じた魔力の持ち主と同じ波動だわ。間違いなくこの子は魔研の地下にいるっす。……それにしても、すごい魔力量っすね。これなら問題なし」

「ならいい」


 上魔石を返してもらいポケットに入れると、アレオンはマントの前を閉じ、フードを深く被った。


「このまま行って魔法を放てば、剣士か魔導師かも判別がつかんだろ。とりあえず一発で俺だとバレることはない」

「そうでしょうけど、ひとりで突っ込まないで下さいよ。さすがに声出すとバレますから、魔研を煽るのは俺がやります」


 確かに声を出したらジアレイスたちに気付かれるか。

 その点、カズサは奴らと直接の面識もないし、上手くやるだろう。


「じゃあチャラ男くん、ライネル殿下のとこに戻って、俺とアレオン殿下が魔研攻めを始めますって伝えて」

「了解っす。……あ、カズさんちょっと待って」


 不意に、再び口元に人差し指を当てたチャラ男が耳元のピアスに集中する。

 さっきと同じだ。魔研に仕掛けてある魔法鉱石が何かを感知したのかもしれない。


「……魔研で何かが動いたか?」

「……おそらく」


 アレオンとカズサが見守る中、チャラ男がペンとメモを取り出してまた何かを書き出した。

 それをカズサがのぞき込む。


「何かの術式が発動されているようですね。地の気……闇……再生……蘇生系の魔法のようです」

「蘇生系って……生き返りの魔法か」

「ゾンビ生成にも使われますけどね。……どうやら地下で何かやってるっぽいなあ」

「地下……!? まさか、チビに何か……」


 恐ろしいことが頭を過ぎりかけて、しかしその考えに至る前に、チャラ男が大きく身体を震わせたことで思考が中断された。


「うおっ何だこれヤバ……っ!?」

「チャラ男くん、どした!?」

「チビに何かあったのか!?」


 驚いたアレオンとカズサが訊ねる。

 するとチャラ男は我に返ったようにはっとして、アレオンを振り返った。


「……アレオン殿下の可愛い子ちゃんに何かあったのは確かっす。何がどうなったのか分かんねーけど」

「何なんだ!? 何か危害を加えられたのか……!?」

「いや、そういうんじゃなくて……さっきまでの魔力量もすごかったけど、それが倍くらいに膨れあがってる……」

「おチビちゃんの魔力量が膨れあがった? どういうこと?」

「それは、もしかして……」


 チャラ男の言葉を聞いて、アレオンはすぐにひとつの答えに行き当たる。


 チビの身体からもぎ取られていた、力の半分。

 そう、あの子どもの半身たる羽が、身体の一部として再生されたのではないかと。


 だが、そもそもあれをもぎ取ったのは魔研だったはずだ。

 なぜそれを戻したのかと訊かれれば、アレオンには全く分からない。しかし、他に理由が見当たらないのだ。


「……チビが羽を取り戻したのかもしれん。……が、素直には喜べんな。おそらくジアレイスたちがしたことだ。一体何を企んでいるのか……」

「あ、じゃあとりあえず、おチビちゃんが苦しんでた背中の痛みはなくなったのかな。それは良かったけど、こっから攻めていって、その二倍魔力のおチビちゃんが戦う相手として差し向けられてきたら、俺たちがヤバいかも」

「……そうだな。まず間違いなく死にそうな目に遭うだろうが、仕方がない」


 攻め込まないという選択肢は、アレオンの中にはない。

 一応これまで手に入れた魔防系のアイテムも持っているし、どうにか対応するしかないだろう。


「そもそも、チビが来ると決まったわけじゃない。何でその魔力を復活させたのかは分からんが、ここまでして手に入れた子どもをこんなところで危険な目に遭わせるのもばかばかしいだろ」

「あー、確かに。おチビちゃんって明らかにガチンコタイプじゃないし、ひとりで敵とやりあうの難しいですもんね」


 魔法さえ発動してしまえばチビはとてつもない強さだが、その前段階は完全に普通の子どもだ。

 実際の敵なら飛び道具のひとつもあれば、魔法発動前にどうとでもなる。


 もちろんアレオンたちがチビを弓で狙ったり投げナイフを放ったりすることはありえないけれど、それを警戒して魔研が子どもを出し渋ってくれれば御の字だ。


「チャラ男、お前はもう兄貴に報告に行け。ここから先は俺たちが勝手にする」

「防衛術式は崩しておくからって伝えてね~」

「了解っす。……魔研の内部には術式以外にも、俺の認識外の妙な波動を発するものがある感じなんで。二人とも気ぃ付けてね」


 チャラ男はそれだけ言うと、転移魔石を使って王都に報告に飛んでいった。

 こうなれば、後はこっちはこっちでやるだけだ。


「……チャラ男くんの報告が行ったら、おそらくライネル殿下は出兵してくれるでしょうね」

「ああ。王都内の粛正の前倒しは難しいだろうが、こっちだけなら『無法者に襲われている国王の救出』の名目で精鋭の兵を差し向けられる。……まあ理由はだいぶ変わっちまうが、至る結果は同じだ。それくらいどうってことないだろ」


 チビを救い出すためには父王の方など構っていられない。

 そっちはライネルに丸投げだ。


「兄貴はどのくらいで来ると思う?」

「理由が理由ですから、仕事を放ってすぐに出兵しても貴族からは突っ込まれませんし、即刻王都を出れば夕方くらいかと」

「ではそれまでに防衛術式を破って、キイとクウを逃がして、チビを取り戻す。……チビの使役が問題だが、その辺はどうにかするしかねえ」


 まあ、ジアレイスを殺してしまえばどうとでもなるだろう。


 アレオンはこれから起こりうる事への対応を考えながら、マントをさらに目深に被り、ポケットから上魔石を取りだした。


「じゃあ、行くぞ」


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