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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】王位簒奪計画

 計画の決行が明日。

 早ければ早いほど良いとは思っていたけれど、想像よりもずっと早い。アレオンは目を丸くした。


「明日……!? いや、ありがたいが、ずいぶん急だな」

「まあ、元々ライネル殿下も一刻も早く行動を起こしたかったわけですしね。それに計画を決行しても少しの間はそれほど危険もありませんから、その間に次の準備をすることもできますし」


 確かに、最初のうちは危険が少ない。

 王宮の防衛術式を完全停止して、父王が魔研に逃げ込むのを待つだけだからだ。


 この時点ではどこにも敵対関係が生まれないし、ライネルが命を狙われるようなリスクも少ない。

 父王が魔研に逃げてしまえば王都に残るライネルは気兼ねなく動けるようになるし、討伐に向かう兵をまとめることができる。


「なるほど、親父が魔研に行ってしまえば、後はいつでも行動を起こせる。……だが、次の段取りは? 実際に王都で兵を動かすと、親父と繋がってる狸貴族が妨害してくるかもしれないだろ」

「そのあたりの貴族は全てライネル殿下が今までの不正を暴いて牢獄にぶち込むそうです」

「ああ、さすがだな……。しかしそうなると、兄貴の命を狙おうとする輩が増えそうだ。貴族は転移魔石を持っている奴もいるし、王宮内のどこにでも飛んで来れるから面倒だな。気が休まらなくなる」


 転移魔石は本来、かなりの貴重品だ。

 自力で手に入れられる上級冒険者か、余程の金持ちしか持っていない。

 ……父王の取り巻きの貴族どもは私腹を肥やす者ばかり。もちろん、その『余程の金持ち』に該当している。


 おまけに王宮にはさんざん出入りしているから、ほぼどこにでも転移できる。ライネルの自室だって、挨拶や風邪をひいた時の見舞いなどで入られているはずだ。

 安心して休める場所などありはしない。


 これから王宮の防衛術式が復活するまでの数ヶ月、その状態で過ごさねばらならいのだ。


「兄貴もだが、ルウドルトあたりは眠ってる暇がなくなんだろ。平気か?」

「ああ、それですけど、王宮で唯一安全な場所があるそうで。防衛術式が復帰するまでは寝食はそこでしたいみたいです。で、その許可をアレオン殿下に取ってきて欲しいと言われたんですが」

「俺の? ……ああ、そういうことか」


 王宮で唯一安全な場所。

 それはアレオンの自室のことだ。


 皮肉な話だが、ルウドルトとライネル以外の誰も訪れない、父王すらも入ったことのない部屋だからこそ、王宮内で唯一敵が転移して来れない場所になっていた。

 つまりライネルは、そこを仮の自室として使いたいということなのだろう。


「構わん。兄貴には部屋を自由に使っていいと言っておけ」

「了解です」


 もう余程のことがなければあんなところに戻りはしない。大した物も置いていないし、好きに使えば良い。


「兄貴は魔研に攻め込む前に貴族の粛正をするつもりなのか?」

「いえ、討伐と粛正は同時に始めるようです。事前にライネル殿下の反逆がバレると、魔研が半魔を連れて王都に攻め込んでくる可能性があるので」

「となると、王都内の粛正は憲兵に任せるんだな。魔研に攻め入るのはルウドルト率いる騎士団か?」

「はい。まあ、陛下は大した兵を連れて行かないと思われるので、少数精鋭で行けるだろうと踏んでいるようですね。襲ってくる半魔に関してはアレオン殿下がいますし」


 どうやらすでにアレオンの役割は決まっているようだ。

 もちろんその決定に不服はない。この手で魔研を潰し、鬱憤を晴らすにはその位置が一番最適なのだから。


「チビはおそらく戦闘に参加できんが」

「それもライネル殿下に言ってきました。アテにしてた分戦力ダウンは否めませんが、そもそもアレオン殿下が規格外ですからね。俺が補佐に就けば大丈夫だろうと言ってましたよ」

「……貴様にチビの代わりが務まるわけあるか」

「そりゃ、おチビちゃんのすごい魔法力に匹敵する奴なんていませんって。俺は万が一の保険みたいなもんだと思っててくれればいいです」


 そう言って肩を竦めたカズサは、ふと思い出したように続けた。


「そういや、もうアレオン殿下は姿を隠す必要がなくなりますけども。ルウドルトが、もし顔バレOKならアレオン殿下に魔研討伐部隊を指揮してもらった方が良いんじゃないかと言ってましたよ」

「ルウドルトが?」


 アレオンがおおっぴらにライネルの王位簒奪を手助けすることで、兄弟の不仲説を払拭するつもりだろうか。もしくは民衆に人気の高いアレオンを利用して、民心をまとめるつもりかもしれない。


 だが、顔がバレると面倒なことしかないことをアレオンは知っている。

 アレオンの名前を使うのは気にしないが、今後も顔を出す気はなかった。


「顔バレして好奇の目で見られるなんて、まっぴらごめんだ。俺は単独で行く」

「俺もついていくから単独じゃないですけどね。……まあ、アレオン殿下は顔バレNGのままだろうと思ってましたよ。おチビちゃんと街中でのんびり鈴カステラ食べたりできなくなりますもんね」


 カズサは苦笑して、それから改めて今後の話をまとめた。


「じゃあ、今決まっていることをまとめますね。明日王宮の防衛術式を完全停止します。時刻は午前10時。急げばその日のうちに魔研に退避できる時間です。遅くても陛下は翌日には移動をするでしょう」

「小心者の親父なら、まずその日のうちに移動するだろ」

「そうですけど、どちらにせよ数日程度のバッファーは必要です。その間にイレーナとルウドルトが兵をまとめます。一応街には被害が出ないように、オネエたちが警邏隊けいらたいとして出るそうです」


 警邏隊を回すのは、抵抗する貴族が街に出て住民を盾にするのを防ぐためだろう。人数は心許ないが、貴族のぼんくら兵に手こずる彼らではない。


「数日ってのは、どれくらいだ?」

「一気に終わらせたいようなので、その準備が整うまでですね。貴族同士で結託したり、魔研に対抗策を練らせたりする暇を与えないことが肝心ですから」

「ちっ……焦れってえな……」


 1日も早くチビを治してやりたいアレオンとしては、かなりもどかしい。

 だが、これでもライネルはだいぶ予定を前倒ししてくれたのだ。ある程度待つしかあるまい。


「準備ができたら、ほぼ即日制圧するつもりで行くそうです。ルウドルトと合流するなら一旦王都に行くとこですが、別ならここから直接魔研に飛んでいいと言ってました。ただ、もちろん突入のタイミングは合わせます」

「そこでまず魔研に攻撃を仕掛けて、キイとクウを出動させればいいんだな」

「はい。二人が魔研の防衛術式を破壊してくれれば、後はそれほど問題ないかと」


 確かに、そこまで行けば何の問題もないように思える。

 ……イレギュラーさえなければ。


「……そこまで上手くいけばいいんだが」

「想定外についてはこの時点でどうすることもできません。その場その場で臨機応変に対応していくしか」

「そうだな……」


 全てが終わるまで不安は払拭できないが、これは仕方がない。

 アレオンはとりあえず中空を眺めながら計画の流れを反芻して、それから再びカズサを見た。


「……狐、キイとクウに渡す資金入りのカードと通行証は準備できているか?」

「ああ、はい。もう持ってますよ」

「二人には、防衛術式を破壊したらそのまま森の泉の洞窟に行くように言ってある。貴様は先にそっちに届け物をしてこい」

「了解です。……俺がいない間、無茶しないで下さいね? おチビちゃんの隷属術式も掛かってるんですから」

「……分かっている」


 隷属術式か。

 今回の計画でチビが身代わりで死ぬような事態は、多分起こらないとは思っている。

 だがこれを絶対と言えないのは、ジアレイスの元に対価の宝箱があるかもしれないからだ。


 もしも、万が一。チビに身代わりをさせるようなことになったら、アレオンは生きていけない。


(万が一にも隷属術式を発動させないためには……)


 アレオンの脳裏には、正体不明の誰かから受け取った手紙の内容が浮かんでいた。

 そこに書いてあったのは、チビの掛けた隷属術式が作用しない条件。間違っても子どもが死なないための秘策。


(……今だけなら、大丈夫だ。あの状態のチビが、俺から去って行くわけがない)


 チビとのつながりを、一時的とはいえ放棄するのは酷く不安だけれど、今回ばかりは仕方がない。

 自由に動けない子どもが、羽を持って帰ってくるまでにどこかに行くわけがないのだ。大丈夫。


 そう自分を納得させて、アレオンは胸ポケットのチューリップを布越しに撫でた。


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