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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】つかの間の平和

 チビと一緒に散歩をして、買い物に行って、食事をして、のんびりくつろいで、寝る。


 そんなふうにして三日ほど過ごした後、アレオンは子どもをリビングに置いて、家の奥にある部屋に入った。

 ここにはカズサに預けてとっておいたゲートでの戦利品が置いてあるのだ。


 先日古いポーチと武器をまるごと魔研に渡してしまったため、新しいポーチにはまだ必要最低限の野営用品くらいしか入っていない。

 だからそろそろ少しその中身を揃えようと思い立った。


(回復薬関係は全部向こうのポーチに入れて渡してしまったしな……薬も必要か)


 自分用には必要性を感じないが、もしもチビが怪我をした時にないと困る。

 あの子に何かあった時のことを考えて、ゲート強制離脱用アイテムや魔物除けもあると便利だ。


 アレオンはほとんど子どもを主体に考えながら、どんどんアイテムをポーチに突っ込んでいった。


(ん? これは……)


 そうして色々なチェストの引き出しを開けて回っていると、その一つから宝石の玉のようなものが出てきた。

 いつだかのボス宝箱でチビが見付けた、ドラゴンオーブだ。


 確か、世界に穴を開けるとかいう代物。

 異界との行き来に使うようだとキイとクウが言っていたか。


(使い方も何も、よく分からんが……一応持っておくか)


 もう王宮でアイテムを取り上げられることはないのだ。その用途的に万が一の時に役立つかもしれないし、使い道が判明するまで持ち歩いても良いだろう。


(……そういえば、あの時ジアレイスは不老不死のドラゴンの肉をキイとクウに食べさせたがっていたが、その後あの話はどうなったんだ……?)


 ふとそんなことを思い出す。


 あれから同様の指示がないところを見ると、あきらめたのだろうか。……まさか、別の不老不死になる手段を見付けたわけではないだろうけれど、少しだけ、気になる。

 誰のため、何のための不老不死だったのか。

 竜人二人は、ジアレイスが不老不死のドラゴン肉を求めなくなった事情を知っているのだろうか。


 しかしそれを訊こうにも、もう次にキイとクウに会うのは魔研討伐のその日だ。

 その時に確認しても、ジアレイスを倒せばもはや意味のないこと。

 アレオンはすぐにその疑問を頭の隅に追いやった。


 それからまだしばらくアイテムを選別して、必要な物だけをポーチに収めていく。

 そしてひとまず揃え終わると、アレオンはチビの待つリビングに戻った。


 時間は午後の二時半。丁度良い頃合いだ。


「チビ、そろそろ今日の夕飯の買い物に行くぞ」

「うん」


 まだ陽は高いが、大通りは遅い時間になってくると柄の悪い冒険者が増える。酔っ払いも多くなり、アレオンが抱いている子犬のチビにちょっかいを掛けたがる奴が出てくるのだ。

 それを回避するために、二人はちょっと早く買い物に出ることにしていた。


「今日は何が食いたい?」

「チーズの入ったハンバーグ!」

「じゃあ挽肉とパン粉がいるな。チーズとタマネギはあったはずだ」


 もちろんだが、食事はアレオンが作る。

 カズサがいる時はほぼ任せきりだったけれど、元々王宮にいる時も食材だけルウドルトに運んでもらって、自室の簡易キッチンで自炊することも多かったのだ。料理自体も野営に必要だからと子どもの頃イレーナに教え込まれていた。


 まあそれでも自分一人の時は適当な物しか作らなかったけれど、チビが来てからはそこそこちゃんと作っているし、たまに料理本も読んでいる。


「では行くか。チビ、犬耳を着けろ」

「うん」


 剣を佩いてマントをまとい、出掛ける支度を済ませると、アレオンは子犬になったチビを抱き上げた。

 子どもひとりで留守番させるという選択肢はない。離れているとどうしても心配だし、先日の得体の知れない手紙の差し出し主が再びチビのところに来ないとも限らないからだ。


 それに子犬を連れていると、店主がアレオンに対してそれほど萎縮しなくなるのも地味にありがたかった。

 チビの和みオーラのおかげだろう。


 ころころでもふもふの毛玉を左手で抱えたまま、アレオンは周囲を警戒しつつ街の大通りへ向かった。


(……路地の方にまた質の悪そうな輩が増えているな)


 このザインも、王都で職を失った者やクエストを求めて来たならず者の冒険者がやってきてから少々治安が悪い。

 けんかやスリも多く見かけるようになった。

 街中も整備ができずに荒れたところが増えている。


 やはり王都という国の中心部が荒んでくると、属下の街もそうそう堪えきれはしない。それでもザインはかなりよくやっている方だ。


 最近の王都の市中は、この何倍もひどい荒れ方だった。


(兄貴も、だいぶ業を煮やしていることだろう)


 ライネルは、国は民がいないと成り立たないことを十分理解している。

 民が富めば国も富み、民が窮すれば国は滅ぶ。

 今は正に、父王のせいでまっすぐエルダールは滅びに向かっているのだ。


 元々父に憎悪を向けているライネルが現在どんな思いでいるか、その苛立ちは想像に難くない。


(俺がいなくなったことで、事態が動いているといいんだが)


 まあ何にせよ、カズサが戻ってくるまではアレオンに情報を仕入れる術はないのだ。

 そちらのことは置いておいて、アレオンは通りに面した肉屋に入った。


「……牛豚の合い挽き肉を400gくれ。それからハムを100g」

「へい、毎度! 銀貨二枚になります」


 物価もじわじわ上がってきている。

 これも王都という流通の要が機能していないからだ。

 それでもザインは街の中に農場区があり、東にテムの村もあるからどうにかまかなえているが、住民にとっては死活問題だろう。


 金を払って店を出ると、向かいの生魚店が閉まっているのに気が付いた。

 こちらはベラールからの魚の流通が王都で止まっているせいで、商品の入荷がないのだ。

 同様に王都の北、ユグルダの村からの物資も入らず、先日からリンゴやサクランボなどの果実類が届いていなかった。


 だがそれよりも、流通が止まって一番問題になるのは魔石燃料だろう。街にある様々な機械の動力源だ。

 その産地は王都西のジラックにあるのだが、先日王宮に強制徴収をされて、産出魔石燃料のほとんどが没収されたらしい。

 今後、ザインに魔石燃料が供給されるのかは不透明だった。


 まあもしも供給されたとしても、価格がかなり高騰するのは間違いない。


(その前に決着を付けないと、さすがに国中で暴動が起きるだろうな。……ま、言わなくてもそんなこと兄貴には分かってるだろうが)


 暴動が起きると、どうしても武力による鎮圧が必要になる。

 つまりは、王家vs民の構図ができてしまうのだ。

 力尽くの弾圧は王家へのヘイトを集めるだけで、良いことは何一つない。後に禍根を残し、国の寿命を縮めるだけだ。


 ライネルが国王になりいち早く国に平穏をもたらすには、その汚点が付くことを避けなければならない。

 だからこそ現在、ライネルシンパであるザインとジラックの領主は、どうにか民が暴動を起こさないように堪えている。


 彼らの期待と重圧を双肩に担って、ライネルは虎視眈々と父王の排除を狙っているのだ。


 ……まあしかし、国の内情には全く興味がないアレオンは、とにかくライネルが国王になってチビが安心して暮らせるようになればそれでいい。

 どうでもいいからとっととジアレイスを魔研ごとぶっ飛ばせる機会が来ることを待つだけだ。


 アレオンは歩きながら、気を取り直すようにチビをもふもふと撫でた。


「チビ、イチゴ食うか?」

「キュン!」


 喜んでぴるぴると尻尾を振る子犬に和む。

 とりあえずイチゴはザインの農場区で採れるから、今も店に置いてあるのだ。

 こうしてチビの好物が買えるうちは、まだザインは大丈夫。


 青果店に寄って野菜と一緒にイチゴを買うと、アレオンはご機嫌でずっと尻尾を振っているチビをもふりつつ、家路に就いた。


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