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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】ムキムキアレオンウサギin帰らずの洞窟

 ウサギの着ぐるみは、確かに伸縮性が抜群だった。


 アレオンが装備をしても、手足の長さが足りないところはまるでない。かと言って肩周りや腰回りが突っ張ることもなく、腹が立つほど快適な着心地だった。


「くそ、さっきまでの暑さが嘘みたいに過ごしやすい……! こんなふざけたなりのくせに!」


 頭の上のウサ耳と尻のウサ尻尾が屈辱だが、この快適さを知ってしまうと今更脱ぐ気にはなれない。100階までは耐えるしかないだろう。


「……ええと、アレオン様、素晴らしいボディラインで、ムキムキで超強そうなウサギ姿です」

「……そ、そうですね。走って追ってきたら魔物も逃げ出しそうな絵面と圧力です」

「感想はいらん。……とっとと進むぞ」


 まだここにいるのがキイとクウだけで良かった。

 おそらくカズサがいたら、この場で転げて笑い死にしたに違いない。

 チビは何だかんだと目を輝かせて褒めてくれそうな気はするが、それはそれで微妙だ。


 まあ何につけ、一刻も早くドラゴンゾンビの討伐を終わらせて、即座に脱ぎたい。肉体より精神的ダメージがでかい。


 アレオンはウサギ姿にポーチを着け、剣の鞘だけを腰にぶら下げて歩き出した。

 かなり恐ろしい見た目になっている気がするが、ここには幸い姿を映す水面も氷も鏡もないからまだマシだと自分を納得させる。


 途中で溶岩の中から飛び出して来るワームを一刀両断し、とりあえずアレオンはキイクウ以外で自分の姿を見たものを全て葬る勢いで進んだ。

 休み無しのかなりの強行軍だが、飛び散る溶岩を多少被ったところで熱さも感じないで進めるのだから問題ない。


 そうして下へ続く階段を見つけるとすぐに飛び込み、飲まず食わずで降りること十数階。

 日付が変わって二時間ほど経ったところで、三人はようやく99階に辿り着いた。


 先に100階に降りる階段を見つけ、周囲の敵を一掃する。

 そしてアレオンたちはその場で一度、心身を整えることにした。

 さすがにこのまま突入するのは性急すぎる。


 アレオンは壁に魔法の蛇口を取り付けると、そこから水を汲んだ。


「どんなとこでも新鮮で冷たい水が出るってのはありがてえな。お前たちも一度変化を解いて、水分取れ」


 自分の分はコップに取って、キイとクウには直接蛇口から水を浴びさせる。彼らにとってはコップで与えられるより、こちらの方がずっとやりやすいらしい。


 二人が頭から水を被ったり飲んだりしているのを横目に、アレオンは干し肉を二切れだけ囓った。


(見た目は腹立たしいが、このウサギのおかげで熱さによる消耗は全然ない。一時間程度ここで休めば、十分行ける)


 装備していた剣をドラゴンキラーと交換して、階下に降りる準備をする。

 そうしながら、キイとクウにも声を掛けた。


「お前たち、疲労の具合はどうだ?」

「ウサギを着てからのアレオン様がワームをさくさく倒して下さるので、キイは結構体力温存できてますよ」

「クウは少々暑さに辟易していましたが、水を浴びて元気が出ました」

「怪我は?」

「してないです」

「よし、じゃあ一時間後に中ボスフロアに降りる。それまで少し身体を休めておけ」


 アレオンはそう言って、自分も近くの壁に背をもたれるように座った。そして身体の緊張を解くために軽く一つ息を吐く。

 それに合わせ、キイとクウもその場で小休止した。


「ところでアレオン様、100階をクリアしたらすぐにチビ様のところにお戻りに?」

「こんな溶岩だらけのフロアから一旦離脱して、再び戻ってくる気になれねえだろ。もう少しマシな環境のフロアに降りてから行く」

「では脱出方陣は5階刻みですから、105階ですね」


 溶岩対策さえ取れていれば、特効があるアレオンたちがドラゴンゾンビに負ける要素はない。クリアすること前提でその先の話をする。


「あと何階くらいあるのか分からねえが、次に戻ってきたらラスボスまで一直線だ。お前たちは体力回復のためにも、マシな飯がいたら食っとけよ」

「そのつもりです。一応ドラゴンゾンビの骨もキイたちのいい栄養になりますので頂きます」


 うーん、ワイルド。

 心配しなくても、彼らは大ボスまで問題なく行けそうだ。

 それを頼もしく思いながら、アレオンは軽く頷いた。


「ここをクリアすると、俺たちが魔研を潰しに行くまでもう会えなくなるからな。その前に食えるもんは食っとけ」

「はい、アレオン様。クウたちはこうして力を蓄えて魔研に戻ったら、あとはその日を静かにお待ちしています」

「ああ。……おそらく、それほど遠くないうちに時流が動き出すだろう。その時はお前たちを頼りにしてるぞ」

「「お任せ下さい」」


 魔研突入のためには彼らが内応してくれることが不可欠だ。

 それまで二人にはジアレイスたちを騙し続けてもらわなければいけない。


「俺が死んだことになった後に、魔研の奴らがどんなふうに動くのかは分からないが、魔研の防御術式を破壊する機会を得るまでは、お前たちは向こう側のものとして振る舞って良いからな」

「……それは、キイたちがジアレイスから、アレオン様やチビ様に危害を与えるような指示を出された場合でもですか?」

「そうだ。……ああ、いや……、やっぱり、危害を加えられるのがチビの場合だけは別だ。俺や狐や兄貴はいいが、……あいつのことは護ってくれ」


 一度は頷いたものの、すぐにチビに関してのみ撤回する。

 戦略的に、そうすることは大きな穴だと分かっているが、それでもここは譲れない。そう指示をすると、キイとクウは羽をぱたぱたさせた。


「了解です。チビ様を攻撃するのはクウたちも嫌ですので、そう言って頂けて良かったです」

「魔力的にはチビ様の方がお強いのですが、きっとキイたちに攻撃をできないお方ですから」

「……確かに、そうだな」


 アレオンのために死ぬ、という命令を頑なに抱えているチビだが、彼ら相手では本当に死ぬ手前まで行かないと反撃もしないだろう。


 その優しさがもどかしいが、だからこそ愛しく護りたくもある。

 それはきっと、あの子どもに救われたキイとクウも同じように感じていることだろう。


「ジアレイスたちはチビ様を手に入れることに躍起になっていますので、アレオン様もお気を付け下さいね」

「もちろん、分かっている。……ただ、奴らが思いもよらないような手段を取ってこなければいいんだが」


 アレオンが消えた後の目下の心配はこれだ。

 チビの捜索は続行するようだが、他にも何か妙な手段を取ってこないかが気掛かりなのだ。


 ……なぜなら、奴らには対価の宝箱があるかもしれないから。


 もしもチビの重要度が余程高いのならば、業を煮やしたジアレイスがそれを使用する可能性がある。

 この不安は、魔研を潰すまで消えはしないのだろう。


 ならば、一刻も早くあの魔窟を丸ごと消し去るまで。


「……そろそろ行くか」


 何となく気が急いて、アレオンは予定より少し早めに立ち上がる。

 しかしキイとクウがそれに突っ込むことはなく、三人は中ボスフロアへと続く階段を下っていった。


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